メンデルスゾーン:交響曲第4番 イ長調 作品90 「イタリア」
ヨーゼフ・クリップス指揮 ロンドン交響楽団 1953年10月録音
Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 Italian [1.Allegro vivace]
Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 Italian [2.Andante con moto]
Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 Italian [3.Con moto moderato]
Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 Italian [4.Saltarello. Presto]
弾むリズムとほの暗いメロディ

メンデルスゾーンが書いた交響曲の中で最も有名なのがこの「イタリア」でしょう。
この作品はその名の通り1830年から31年にかけてのイタリア旅行の最中にインスピレーションを得てイタリアの地で作曲されました。しかし、旅行中に完成することはなく、ロンドンのフィルハーモニア協会からの依頼を受けて1833年にようやく完成させています。
初演は同年の5月13日に自らの指揮で初演を行い大成功をおさめるのですが、メンデルスゾーン自身は不満を感じたようで、その後38年に大規模な改訂を行っています。ただ、その改訂もメンデルゾーン自身を満足させるものではなくて、結局彼は死ぬまでこの作品のスコアを手元に置いて改訂を続けました。そのため、現在では問題が残されたままの改訂版ではなくて、それなりに仕上がった33年版を用いることが一般的です。
作品の特徴は弾むようなリズムがもたらす躍動感と、短調のメロディが不思議な融合を見せている点にあります。
通常この作品は「イタリア」という名が示すように、明るい陽光を連想させる音楽をイメージするのですが、実態は第2楽章と最終楽章が短調で書かれていて、ほの暗い情感を醸し出しています。明るさ一辺倒のように見える第1楽章でも、中間部は短調で書かれています。
しかし、音楽は常に細かく揺れ動き、とりわけ最終楽章は「サルタレロ」と呼ばれるイタリア舞曲のリズムが全編を貫いていて、実に不思議な感覚を味わうことができます。
絶妙なバランス感覚に支えられた自然な音楽の流れ
ヨーゼフ・クリップスという指揮者に対する評価は低い。それこそ、徹底的に低い。
その典型はカルショーでしょう。
彼はシューリヒトを俎上に上げて「シューベルトの未完成交響曲の第1楽章を、すべてテンポの異なる11の解釈で演奏した」と皮肉を述べ、そのためにウィーン・フィルがウンザリしたと述べたのに続いて、「最後にインゲ・ボルグがサロメの最終場面を演奏したがその指揮者は最高に不的確な選択、ヨーゼフ・クリップスだった」と述べていました。
さらに、それはヨーロッパだけにとどまらず、ルービンシュタインと組んで録音したベートーベンのピアノ協奏曲にたいしても「ベートーベンを演奏する指揮者としては凡庸」などと切って捨てられたのでした。
しかし、実際に彼の残した決して少なくなはない録音を聞いていけば、いったい何処をどう突っつけばその様な「酷評」が出てくるのかがどうしても理解できません。
確かに、クリップスには同時代に活躍した巨匠たちのような強い個性は希薄です。しかし、フルトヴェングラーにしてもクレンペラーにしてもクナパーツブッシュにしても、そして海を渡った向こう側で活躍していたトスカニーニやワルターやセルやライナーにしても、いったい誰が彼らと肩を並べて「個性」を主張できるのでしょう。
そんな事が評価の基準になるのならば、ほとんどの指揮者が指揮者として存在する意味を失ってしまいます。
それは、例えてみれば多くの画家がルーブルやウフィッティの美術館を巡り歩いた後に絵を描かなければいけないようなものです。音楽家もまた、歴史に名を残した巨匠たちの音楽を聞いた後にも演奏活動を続けなければいけないのです。
そして、その覚悟は、例えば与謝野晶子が詠んだあの有名な歌のようなものかもしれません。
劫初よりつくりいとなむ殿堂にわれも黄金の釘一つ打つ
つまりは、私たちはそこに黄金の釘が一つでも打ち込まれているならば、それをこそ見いださなければいけないのです。
コンサート会場などで良く見受けるのは、したり顔で至らぬところをあげつらい、それをもって己の「賢さ」を誇示する人です。そんなことのためにコンサート会場に足を運ぶなら、最初から音楽など聞きに来なければいいのにと、私などは思ってしまいます。
それでは、このクリップスの演奏で聞くべき黄金の釘は何処にあるのかと言えば、それは絶妙なバランス感覚に支えられた自然な音楽の流れでしょう。そして、そう言う音楽はオケが下手だとすべてぶちこわしになるので、そう言うクリップスの棒にしっかりとこたえているロンドン交響楽団も賞賛に値します。
言うまでもないことですが、そう言う自然さというのは灰汁の強い巨匠の芸ほどには目立たないものなのですが、見落としてはいけない黄金の釘であることは間違いないのです。
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