ブラームス:交響曲第4番
フルトヴェングラー指揮 ベルリンフィル 1948年10月24日 録音
Brahms:交響曲4番「第1楽章」
Brahms:交響曲4番「第2楽章」
Brahms:交響曲4番「第3楽章」
Brahms:交響曲4番「第4楽章」
とんでもない「へそ曲がり」の作品
ブラームスはあらゆる分野において保守的な人でした。そのためか、晩年には尊敬を受けながらも「もう時代遅れの人」という評価が一般的だったそうです。
この第4番の交響曲はそういう世評にたいするブラームスの一つの解答だったといえます。
形式的には「時代遅れ」どころか「時代錯誤」ともいうべき古い衣装をまとっています。とりわけ最終楽章に用いられた「パッサカリア」という形式はバッハのころでさえ「時代遅れ」であった形式です。
それは、反論と言うよりは、もう「開き直り」と言うべきものでした。
しかし、それは同時に、ファッションのように形式だけは新しいものを追い求めながら、肝腎の中身は全く空疎な作品ばかりが生み出され、もてはやされることへの痛烈な皮肉でもあったはずです。
この第4番の交響曲は、どの部分を取り上げても見事なまでにロマン派的なシンフォニーとして完成しています。
冒頭の数小節を聞くだけで老境をむかえたブラームスの深いため息が伝わってきます。第2楽章の中間部で突然に光が射し込んでくるような長調への転調は何度聞いても感動的です。そして最終楽章にとりわけ深くにじみ出す諦念の苦さ!!
それでいながら身にまとった衣装(形式)はとことん古めかしいのです。
新しい形式ばかりを追い求めていた当時の音楽家たちはどのような思いでこの作品を聞いたでしょうか?
控えめではあっても納得できない自分への批判に対する、これほどまでに鮮やかな反論はそうあるものではありません。
ワルターとフルトヴェングラーの演奏を追加
同じ作品を、同じオーケストラで演奏しているのに、ここまで違うのかと驚かされるのが、チェリとフルトヴェングラーです。チェリの演奏が至極まっとうな物だけにその違いが際だってきます。
ただこうして並べて聞いてみると、フルヴェンの演奏はあまりにも内部の見通しが悪いなと思ってしまいます。(^^;(確かに、ドラマティックではあるんですけどね・・・)
細部の細かいからみはすべて塗りつぶされて、なんだか音の固まりのようにしか聞こえてこない部分もあります。もちろんこのあたりは録音の問題も絡んでくるので軽々しくは結論付けはできませんが、チェリの演奏の精緻さは注目に値します。
それからワルターです。
はっきり言って、ブラームスに関しては、ワルターのベスト盤はこのニューヨークフィルとの演奏です。一般的には最晩年のコロンビア響との演奏がよく聴かれますし、その中でも4番に関しては高く評価されていることは事実です。ブラームス晩年の諦観のにじみ出たこの作品には、ワルター最晩年の演奏が相応しいのかもしれません。
しかし、ブラームスというのは人間的には結構脂ぎった俗物的側面も強く持った人でした。この4番と言っても、そうそう涼やかな諦観だけの音楽であるはずがありません。そして、ニューヨークフィルとの演奏では、晩年の演奏からは感じ取れないパワーと強さみたいな物が感じ取れるて、一筋縄ではいかないブラームスという人の作品にはこちらの方が相応しいのかな?などと思ってしまいます。
ワルターと言えば「中庸の美」みたいなことが言われるのですが、どうしてどうして、なかなかに男っぽい音楽を作る人だったんです。そしてこのニューヨークフィルとの演奏を聴くと、彼がいかに素晴らしいブラームスの理解者であったかも分かります。
ワルターを再発見するには興味深い演奏だといえます。
よせられたコメント
2008-05-11:かなパパ
- いろいろ聴き比べをしていて、フルトヴェングラーのを聴いたところ、「なんだこれは!!」
ユングさんの言うとおり、細部の細かいからみはすべて塗りつぶされて音の固まりのようでした。冒頭の3分間だけ聴いて他の指揮者の演奏に変更してしまいました。
特に1楽章の特徴は、各楽器の旋律のからみにあると思っています。
楽譜を見ても終始、その旋律のからみのすばらしさがわかります。
フルトヴェングラーのような有名な指揮者が、この様な指揮をしていたなんて、非常に残念です。
2010-08-09:パソコン好き
- クラシックライターの諸石さんが「ドイツの作曲家ブラームスの名作中の名作交響曲4番だ」とある音楽雑誌に書いてあったのを読んで、この曲を手にいれたのですが、まさにそのとおりという感じを受けました。特に第4楽章が好きです。
2011-02-10:ライト
- 前から疑問に思っていたんですが、ブラームスの4番に諦観が現れていると言ったのは誰なんですか。
フルトヴェングラーの演奏からは諦観なんか感じられないが、これはフルトヴェングラーに限ったことではないと思うし、日本以外で4番に諦観が現れているという評価はあるのでしょうか。
フルトヴェングラーの演奏について言うと、同じ演奏でも音の善し悪しによって全く違って聞こえます。バイロイトの第9なんか、悪いCDで聞くと闇の中で大蛇がうごめいているような気がするが、本当は明るくまっすぐな音ですね。ブルックナーは音の悪いCDでは焦っているように聞こえることがあるが、良い音になるほど自然に聞こえます。ブラームスの4番も、残っている音からは本当の演奏がどうだったのかわからないのかも。
2012-11-07:マオ
- 昭和天皇が崩御された日、NHKは教育テレビ番組を途中中断し、急遽N響でのこの曲の演奏に切り替えました。あらかじめ事前準備があったとは言え、そのときにふさわしい曲だなあと感じました。今でもよく言われる「テイネイ(あきらめ?)」などにとらわれず、熟達した、晩秋を思わせるような大家の傑作に心から聴き入ればいいと思います。フルトヴェングラーの演奏は揺れ動くテンポ、強弱の大変化が曲にぴったりだと思います。なにかを語りかけてくるような人間臭い演奏とも言えるでしょうか。ワルターの比較的明快でいさぎよい演奏とともに好きな演奏です。
2016-03-09:emanon
- この演奏は、中学時代にLPで購入して、緩急自在な演奏に大いに興奮したものでした。LPでは音が混濁気味でしたが、ここではかなり聴きやすい音質になっています。またライブだけに、彼の持ち味が強く出ていて、特に後半の2つの楽章は熱狂的といえるような表現を見せています。
無い物ねだりになりますが、フルトヴェングラーが戦後のスタジオ録音でブラームスの交響曲を遺してほしかったと思います。とりわけ彼のシューマンの「第4番」などのスタジオ録音を聴くと、その感を強くします。そこでは、また違った彼の持ち味が楽しめたかもしれません。
とはいえ、この演奏も名演には違いありません。点数は9点です。
2017-02-04:あんひろ
- 私自身は現在心の病を抱えています。そのためここ数年は好きだったベートーヴェンやブラームスさえも自分の力で聴けない状態でした。
このサイトは時々チェックして最近はもっぱら軽目のモーツアルトやその前の時代の音楽をダウンロードさせていただいては聴くことはしていました。
先日イッセルシュテットのブラームスのハンガリー舞曲管弦楽版の全曲がアップロードされていたので、ダウンロードさせていただいて聴いてみたら、ブラームスを聴くことができたので、その後交響曲第1番にもチャレンジし、いけたのでピアノ協奏曲第1番のカーゾン/セルの演奏で聴きました。そして私としては陰々滅々のブラームスの本領が出たこの曲に挑戦してみることにしました。
4番は若いころに好きで、CDを買っては色々な指揮者の演奏で聴いたのですが、私にとってはフルトヴェングラーのこの録音を超える衝撃を与える演奏はなかったので、迷うことなくこの演奏を聴くことを選びました。
最後まで聴き通すことができました。
批評家がよく引き合いに出す、第一楽章の独特の出だし。私にはこれ以外はあり得ません。楽譜には指示されていないであろうこの独特の表現はブラームスの心境を追体験するほどにまで、曲にのめりこむことができるフルトヴェングラーならではの表現。音のドラマを経てクライマックスに持ってくる再現部。まさに指揮者とベルリンフィルが一体となった感情の高まり。これ以外ではあり得ません。
第二楽章。それが静まった水墨画のような世界に始まり雨雲で終わる曲。フルトヴェングラーの表現でこそ心に迫って来るものでした。
うってかわっておどけるような第三楽章。フルトヴェングラー/ベルリンフィルによるアタックの強烈なドイツ的な演奏は深く重厚。
そして、ブラームスの本音が出る第四楽章。あくまでも一つのテーマを形を変えて主張する楽章。普通なら紙に書かれたものを再現しようとすれば硬直感が出てしまいがちだが、フルトヴェングラーは各変奏を柔軟に、ときに激しくときに静かにブラームスの本音を、本人そのものとなって、楽団と一体となって演奏に没入する。
私にとって4番はこれです。陰々滅々だけど感動的なブラームスを最後まで久しぶりに聴けました。
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