シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調 作品82
バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1957年5月28日録音
Sibelius:交響曲第5番 変ホ長調 作品82 「第1楽章」
Sibelius:交響曲第5番 変ホ長調 作品82 「第2楽章」
Sibelius:交響曲第5番 変ホ長調 作品82 「第3楽章」
影の印象派
この作品はよく知られているように、シベリウスの生誕50年を祝う記念式典のメインイベントとして計画されました。
彼を死の恐怖に陥れた喉の腫瘍もようやくにして快癒し、伸びやかで明るさに満ちた作品に仕上がっています。
しかし、その伸びやかさや明るさはシベリウスの田園交響曲と呼ばれることもある第2番のシンフォニーに溢れていたものとはやはりどこか趣が異なります。
それは、最終楽章で壮大に盛り上がったフィナーレが六つの和音によって突然断ち切られるように終わるところに端的にあらわれています。
そう言えば、「このシベリスの偉大な交響曲を、第3楽章で中断させて公開するという暴挙は許し難い、今すぐ第4楽章も含む正しい姿に訂正することを要求する」、みたいなメールをもらったことがありました。(^^;
あまりの内容に驚き呆れ果てて削除してしまったのですが、今から思えばこの交響曲の「新しさ」を傍証する「お宝級」のメールだったので、永久保存しておくべきでした。
さらに、若い頃の朗々とした旋律線は姿を消して、全体として動機風の短く簡潔な旋律がパッチワークのように組み合わされるようになっています。
また、この後期のシベリウスとドビュッシーの親近性を指摘する人もいます。
シベリウスとドビュッシーは1909年にヘンリー・ウッドの自宅で出会い、さらにドビュッシーの指揮する「牧神の午後」などを聞いて「われわれの間にはすぐに結びつきが出来た」と述べています。
そして、ドビュッシーを「光の印象主義」だとすれば、シベリウスは「影の印象主義」だと述べた人がいました。
上手いこというもので、感心させられます。
まさにここで描かれるシベリウスの田園風景における主役は光ではなく影です。
第4番シンフォニーではその世界が深い影に塗りつぶされていたのに対して、この第5番シンフォニーは影の中に光が燦めいています。
シベリウスは日記の中で、この交響曲のイメージをつかんだ瞬間を次のようにしたためています。
それは1915年の4月21日、午前11時10分前と克明に時刻まで記した出来事でした。
シベリウスの頭上を16羽の白鳥が旋回しながら陽光の照る靄の中に消えていったのでした。その銀リボンのように消えていく白鳥の姿は「生涯の最も大きな感銘の一つと」として、次のように述べています。
日はくすみ、冷たい。しかし春はクレッシェンドで近づいてくる。
白鳥たちは私の頭上を長い間旋回し、にぶい太陽の光の中に銀の帯のように消えていった。
時々背を輝かせながら。白鳥の鳴き声はトランペットに似てくる。
赤子の泣き声を思わせるリフレイン。
自然の神秘と生の憂愁、これこそ第5交響曲のフィナーレ・テーマだ。
この深い至福の時はこの交響曲のフィナーレの部分に反映し、そしてその至福の時は決然たる6つの和音で絶ちきられるように終わるのです。
バルビ節全開の演奏
バルビローリのシベリウスと言えば定番中の定番です。特に、その最晩年(1966年?70年)にEMIが録音した交響曲全集は今もってその存在価値を失っていません。と言うか、どこか北国のひんやりした空気感で彩られることの多いシベリスにとって、彼ほど熱気と情熱に満ちたシベリウスを描き出した人は他に思い当たらないという意味では、かけがえのない録音となっています。
もちろん、シベリウスを十八番にしていたバルビローリですから、ディスコグラフィを調べてみると結構たくさんの録音を残しています。
第1番
・1942年4月11日録音 ニューヨークフィル
・1957年12月30?31日録音 ハレ管弦楽団
・1966年12月28?30日録音 ハレ管弦楽団
第2番
・1940年5月6日録音 ニューヨークフィル
・1952年12月18?19日録音 ハレ管弦楽団
・1962年10月1日?9日録音 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
・1966年7月25?26日録音 ハレ管弦楽団
第3番
・1969年5月27?28日録音 ハレ管弦楽団
第4番
・1969年5月29?30日録音 ハレ管弦楽団
第5番
・1957年5月28日録音 ハレ管弦楽団
・1966年7月26?27日録音 ハレ管弦楽団
・1968年8月9日録音(プロムスのライブ録音) ハレ管弦楽団
第6番
・1970年5月21?22日録音 ハレ管弦楽団
第7番
・1949年3月3?5日録音 ハレ管弦楽団
・1966年7月27?28日録音 ハレ管弦楽団
この中で、1942年の第1番だけは聞いたことがありません。もしかしたら、最近はライブ録音の発掘も進んでいるので、これ以外にもリリースされているかもしれません。何しろ、彼は客演なんかでもよくシベリスを取り上げていましたから、眠っている音源は結構あると思います。
世間では、バルビローリのシベリウスはハレ管が下手すぎるので聴く気にならないという人もいるようですが、ホントにお気の毒な話です。弦楽器群を中心とした入念な表情付けと、ここぞと言うところでの金管群の咆吼というバルビ節全開の演奏を、オケが下手だからと入り口でシャットアウトするとは、いったい何を目的で音楽を聞いているのでしょう?
ただ、よく聞いていると、細かい表情付けはしているのですが、全体のテンポ設定は意外なほどにインテンポで、構成はしっかりしています。ですから、歌は歌いまくっていても決して下品にならない秘密その辺にあるのではないでしょうか。
特に第1番はやりたい放題という感じで、同じ時期に録音されたチャイコやドヴォルザークの録音と並んで、バルビローリにとっては最良の時だったのではないでしょうか。それと比べると、第2番屋第5番はややおとなしめです。
もちろん、最晩年の全集はもっと行儀がいいです。
よせられたコメント
2011-04-06:もち
- ドビュッシーとの共通点というのは「旋法」のことだとおもいます。通常の「調性」にあるような起承転結(機能和声)がはたらかず、終りがないような神秘的な旋律になる。6・7番にはとくに顕著です。
これはもともと中世の音階で、民俗音楽にのこっていたり、ベートーベンなんかも試みていますが、現代音楽では必須のイディオムとなり、シベリウスはパレストリーナを研究して学びなおしたといいます。となると、パレストリーナもきいてみたくなりますね。
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