ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調
カラヤン指揮 ベルリンフィル 1957年5月録音
Bruckner:交響曲第8番 ハ短調 「第1楽章」
Bruckner:交響曲第8番 ハ短調 「第2楽章」
Bruckner:交響曲第8番 ハ短調 「第3楽章」
Bruckner:交響曲第8番 ハ短調 「第4楽章」
おそらく、ブルックナーの最高傑作
おそらく、ブルックナーの最高傑作であり、交響曲というジャンルにおける一つの頂点をなす作品であることは間違いありません。
もっとも、第9番こそがブルックナーの最高傑作と主張する人も多いですし、少数ですが第5番こそがと言う人もいないわけではありません。しかし、9番の素晴らしさや、5番のフィナーレの圧倒的な迫力は認めつつも、トータルで考えればやはり8番こそがブルックナーを代表するにもっともふさわしい作品ではないでしょうか。
実際、ブルックナー自身もこの8番を自分の作品の中でもっとも美しいものだと述べています。
規模の大きなブルックナー作品の中でもとりわけ規模の大きな作品で、普通に演奏しても80分程度は要する作品です。
また、時間だけでなくオーケストラの楽器編成も巨大化しています。
木管楽器を3本にしたのはこれがはじめてですし、ホルンも8本に増強されています。ハープについても「できれば3台」と指定されています。
つまり、今までになく響きがゴージャスになっています。ともすれば、白黒のモノトーンな響きがブルックナーの特徴だっただけに、この拡張された響きは耳を引きつけます。
また、楽曲構成においても、死の予感が漂う第1楽章(ブルックナーは、第1楽章の最後近くにトランペットとホルンが死の予告を告げる、と語っています)の雰囲気が第2楽所へと引き継がれていきますが、それが第3楽章の宗教的ともいえる美しい音楽によって浄化され、最終楽章での輝かしいフィナーレで結ばれるという、実に分かりやすいものになっています。
もちろん、ブルックナー自身がそのようなプログラムを想定していたのかどうかは分かりませんが、聞き手にとってはそういう筋道は簡単に把握できる構成となっています。
とかく晦渋な作品が多いブルックナーの交響曲の中では4番や7番と並んで聞き易い作品だとはいえます。
美しいブルックナー
とても美しいブルックナーです。
この「美しい」という形容詞は一般的には「褒め言葉」として使われるのですが、なぜかブルックナーだけはそうではありません。それどころか、時には否定的な意味をこめて使われることさえあります。
なぜか?
それは、ブルックナーだけは「崇高」でなければいけないからです。不思議な話です。
しかし、「崇高と滑稽は紙一重」と言ったのは誰だったでしょうか?
ある集団にとってこの上もなく崇高でありがたい儀式も、その集団とは関係ない人々が外から眺めるときには滑稽にうつることがあります。もちろん、それを「滑稽」だなどと言えば、その集団に帰属する人々は怒り心頭に発するのでしょうから、あまりあからさまに表明することは憚られます。しかし、滑稽なことは滑稽なのです。
いわゆる、崇高なブルックナー演奏というものも、それほどブルックナーに強いシンパシーを感じていない人から見れば、ただの「滑稽」な演奏としかうつらない危険性があります。
もちろん、神々しさを感じるような演奏はあります。そして、その事の素晴らしさは決して否定はしません。
しかし、それのみを判断の尺度として振りまわし、それから外れる演奏はすべて「ゴミ」と断じて疑わない態度は、すでに「滑稽」の領域に足を踏みこんでいるのではないでしょうか。
このカラヤンによるブルックナーの8番は実に美しい演奏です。特に第3楽章の美しさは、ブルックナーなるものをはじめて聞いた人でも陶然となる類の美しさです。
とにかくオケを美しくタップリと鳴らしきっていて、その美しいメロディをこの上もなく美しく歌い上げています。
最終楽章も、タップリとしたテンポで雄大に演奏していて、コーダの迫力は満点です。
その意味で、こういう演奏は決して「崇高」ではないかもしれませんが、決して「滑稽」になることのない演奏です。
そして、考えてみれば、カラヤンという人は決して「崇高」な音楽は作りませんでしたが、万人が納得し満足できる音楽をやり続けた人だったなと言うことに改めて気づかされた次第です。
クラシック音楽というのは他のジャンルとは違って、深い精神性と崇高さに彩られた格の高い音楽だという思いこみが、もしかしたら今の衰退を招いたのかもしれません。カラヤンの跡を継いだカリスマがバーンスタインの間は良かったのですが、その後がヴァントだったというのはメジャーレーベルとしては方向性を誤ったのかもしれませんな。
よせられたコメント
2010-03-21:ryu1s
- カラヤンのブルックナー、割と好きです。特に7番。この時代のベルリンフィルの録音があったとは驚きですね。
2010-03-23:あんとん
- ハース版ですね。
カラヤンのブルックナー解釈が、若いころから確立されていたことを物語る、貴重な録音と思います。
UPして頂いて感謝します。
2010-03-24:キノコ
- いつも楽しく見ています。
僕は素晴らしい演奏家とは作曲家に没入する(作曲家を尊敬し全身全霊を傾ける)人や作曲家の作った音楽を自分に取り込むような人だと考えています。(どちらも根底には音楽を分かち合おうとする情熱があることは共通しているとは思います)
どちらかに振り切れれば歴史に名を残すような演奏家となる…そんな気がします。
僕なりの見解ですが、
カラヤンは後者に大きく振り切れた指揮者だったのであろうと思います。皆さんの言われるカラヤン美学というものがそれを表しているのでしょう。
僕は現在18歳でありカラヤンが生きていた時のことをリアルタイムで感じ取ることができませんでした。
でも今CDから聞こえるカラヤンの作る音楽はいつのカラヤンであろうと自らの信念をもって演奏しているように聞こえます。
この演奏にもそれは感じ取れました。素晴らしいです。
2010-03-24:キノコ
- いつも楽しく見ています。
僕は素晴らしい演奏家とは作曲家に没入する(作曲家を尊敬し全身全霊を傾ける)人や作曲家の作った音楽を自分に取り込むような人だと考えています。(どちらも根底には音楽を分かち合おうとする情熱があることは共通しているとは思います)
どちらかに振り切れれば歴史に名を残すような演奏家となる…そんな気がします。
僕なりの見解ですが、
カラヤンは後者に大きく振り切れた指揮者だったのであろうと思います。皆さんの言われるカラヤン美学というものがそれを表しているのでしょう。
僕は現在18歳でありカラヤンが生きていた時のことをリアルタイムで感じ取ることができませんでした。
でも今CDから聞こえるカラヤンの作る音楽はいつのカラヤンであろうと自らの信念をもって演奏しているように聞こえます。
この演奏にもそれは感じ取れました。素晴らしいです。
最後に…
僕はまだまだクラシック音楽のことを知りません。これからも多くの素晴らしい演奏を長い人生で聴けていけたらなと思っています。このような素晴らしい世界に巡り合わせてくれたユングさんに心から感謝しています。これからも更新頑張ってください。
2011-02-08:阿部 稔
- 小生が20歳の夏1964年、日比谷公会堂で聴いたカラヤン指揮のブルックナー8番は感動的でした。それから何度も東京文化会館の試聴室に通いシューリヒトも聴きました。クナ8が良いと聴き、その完璧さに魅了されましたが、今こうしてカラヤンを聴くと当時の感動を思い出します。本当に心の中にほのかな温もりを感じさせる演奏です。ありがとうございました。
2011-05-14:美晴児
- 私が最初に買ったブルックナーの交響曲のLPがこれでした。中学3年だったと思います。1962年でしょう。発売と同時に早速購入しました。
今はなくなってしまいましたが、ディスクというレコード雑誌があり、「アンチ・ポピュラー・コレクション」という特集がありました。曰く、「ベートーベンの運命とか、ドヴォルザークの新世界などは、聴きたければ名曲喫茶(!)で聴ける。乏しい持ち金をはたいて買うのだからそんなところでは聴けないものを買ったらどうか。」という趣旨の企画で、ブルックナーの交響曲第9番(ベイヌム)とかマーラーの大地の歌とかバッハのゴールドベルク変奏曲などが含まれていた気がします。当時、ブルックナーもマーラーもLPはほとんど発売されていなかったのです。LPのリストとは別に座談会の記事があり、そこにはその前年(1960)カラヤンによって日本初演されたブルックナーの第8交響曲を聴いた興奮が溢れていました。「あの溢れるロマンがLPで間もなく発売されるんですね」といった調子で。
発売当初は大絶賛だったこの演奏ですが、ブルックナーのLPが増えるに従って賛否両論の議論の渦に巻き込まれました。渦を作ったのは、その後高名な音楽評論家に成長した**氏だったのではないかと思っています。
今は手元の20種類くらいのブル8があります。カラヤンの演奏は長いこと聴いていませんでした。今では、「これが本当のブルックナーかどうかなど素人の言える領分ではない」と思っています。いろいろ聴きくらべて、「うーん、この演奏のここはいいな。」などと思っています。カラヤンのこの演奏は、ずっと聞き慣れていたせいでしょう、肌にぴったりする肌着みたいな感じがします。
2013-04-03:ももパパ
- カラヤンのブルックナーといえば、どうしても違和感を感じてしまう小生。
しかし、この録音はいいですね!並みの指揮者よりいい!
なんだろう、肩の力を抜いたカラヤンらしからぬブルックナー、自然な感じで好感がもてる。
2013-10-14:金李朴
- 私は、このカラヤンのブルックナーはとびきり素晴らしいと思いました。何とも捉えどころのないブルックナーの交響曲を、これほどまでに流麗に聴かせてくれるなんて、カラヤンの才能に感謝です。「美しい」ことが何故いけないのでしょうか。
こんな演奏を聴けたら、田舎者のブルックナー爺さんだって、きっと大喜びすることでしょう。
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