ハイドン:交響曲第44番 ホ短調「悲しみ」, Hob.I:44
フェレンツ・フリッチャイ指揮 RIAS交響楽団 1953年6月20日録音
Haydn:Symphony No.44 in E minor, Hob.I:44 [1.Allegro con brio]
Haydn:Symphony No.44 in E minor, Hob.I:44 [2.Menuetto - Trio]
Haydn:Symphony No.44 in E minor, Hob.I:44 [3.Adagio]
Haydn:Symphony No.44 in E minor, Hob.I:44 [4.Finale]
ザロモン・セットの交響曲とは異なる、もう一つの頂点を形づくっている作品群
よく知られていることですが、1766年頃からハイドンの作風が一変します。長調全盛の時代にあって、強烈な感情表出に貫かれた短調の作品をたくさん生み出すようになったのです。
この突然の変化を、当時の文芸運動「シュトゥルム・ウント・ドランク(疾風怒濤)」と関連づけて、ハイドンの「シュトゥルム・ウント・ドランク期」等と呼ばれることがありました。ただし、このような「括り方」は現在では否定されていて、ハイドンと件の文芸運動との間には何の関連性もないことが確認されています。
おそらくこの変化は、1766年にエステルハージ家の楽長であったヴェルナーの死去によって、ハイドンが副楽長から楽長に昇任したことによってもたらされたのではないか・・・と言うのが定説になってきています。
つまり、副楽長時代ならば担当は世俗音楽だけだったのが、楽長に昇任すると教会音楽も担当しなければならなくなったために、ある意味シリアスな雰囲気の音楽を書くことを求められ、その事が交響曲の分野でも情熱や悲しみの表出としての短調が選択されたのではないかというのです。
確かに、ハイドンという人は実験精神旺盛な人でした。その事を考えると、宗教的な厳粛さや悲しみなどの感情を交響曲の分野でも実験的に取り上げてみようという意欲が湧き起こったのは、当然のことかもしれません。ですから、このような作風の変化を特定に文芸運動や、ましてやハイドン個人の内面的危機と結びつけて考えるのは全くの誤りだと言わざるをえません。
しかし、この時期に集中的に書かれた短調の交響曲を聴いてみると、100を超える交響曲の中でも特別な魅力に溢れてることは否定できません。いや、それどころか、晩年のザロモン・セットの交響曲とは異なる、もう一つの頂点を形づくっているという見方すら出来ます。
とりわけ、この「悲しみ」と題された44番のシンフォニーは、ハイドン自身もことのほか気に入っていた作品で、とりわけアダージョ楽章は自分の葬式で是非とも演奏して欲しいと遺言したほどでした。確かに、弱音器をつけたヴァイオリンが微妙な強弱の対比を効果的に使いながら描き出す繊細かつ哀愁に満ちた音楽は、「悲しみ」というタイトルにピッタリです。
おそらく、ほとんどの方は一度も耳にされたことがないと思われますから、是非とも、騙されたと思ってお聞きあれ。一聴の価値ある作品です。
スタンダードと異形
ハイドンの初期シンフォニーの中では、この44番「悲しみ」と45番の「告別」は人気作で、パブリックドメインの音源を見つけ出すことが出来ました。特に、44番に関してはシェルヘンとフリッチャイという注目に値する指揮者による二通りの音源をアップすることが出来ました。
さらに、嬉しいことに、この二つの演奏、全くといっていいほどに雰囲気が異なります。スタンダードで正統派のフリッチャイと、異形のシェルヘンです。
ハイドンの初期シンフォニーと言えば、あまり録音は多くありませんし、コンサートで取り上げられることもほとんどありません。ですから、何を持ってスタンダードというのかは難しいのですが、取りあえずは古いところではドラティの全集、新しいところではフィッシャーの全集と言うことになるでしょうか。
フリッチャイの演奏はこの二つの全集盤に収められている演奏と比較すると、それほど大きな違いはありません。しかし、シェルヘンの方は、この作品のメインとも言うべきアダージョ楽章が異形とも言うべきスローテンポです。これは、もうアダージョではなくてラルゴ、いや、もうほとんど止まる寸前とも言うべき「遅さ」です。
さらに、おそらくはこの「遅さ」の効果をより深めるためなのでしょう、楽章の配列までも変えています。(本来は第3楽章である「アダージョ楽章」を第2楽章に持ってきている)
ただ、これが「虚仮威し」になっていないのが嬉しい。それどころか、一度この演奏を聴いてしまうと、これ以外のものは全て物足りなくなってしまうほどです。
皆さんは、いかにお聞きになるでしょうか?
よせられたコメント
2011-02-26:Joshua
- http://sun.cside.com/haySym/sympho.html
上記のサイト、ユングさんご覧になったことありますか。
ハイドンの全交響曲に5段階評価を示したサイトです。
そこでは、3つ星なのが残念ですが、私には44番は5つ星です。
フリッチャイの演奏がいいせいも多分にあります。特に第3楽章
RIAS放送響の弦がきれい!
この曲をアップしてくださったことに感謝!
なお、この曲のアダージョをハイドンは自分の葬送に使ってほしいと
言ったとか言わなかったとか・・・
2013-05-19:ナオミン
- 本日、今、まさに聞きました。
解説付きで生演奏を聞きとても勉強になりました。
何よりも明と暗、光と影がまざっていて人間の心内を充分に表現されていると思いました。
クラシックは曲だけで表現する素晴らしさが分かる曲だと思いました。
凄い感性ですね。
【最近の更新(10件)】
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-01]
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)