クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

バッハ:カンツォーナ ニ短調 BWV588

ヴァルヒャ:1952年9月15日録音





Bach:カンツォーナ ニ短調 BWV588


名前つき・・・?

バッハのオルガン作品というのは素っ気ない名前のものが多いですね。「前奏曲とフーガ 〇〇調」とか、「トッカータとフーガ 〇〇調」なんて具合です。
もちろん、バッハ自身がそう言う名前をつけたのではなくて、後世の音楽学者が作品を識別するためのID番号みたいな感じでネーミングしたためにそう言う素っ気ない名前になったんでしょうね。
話はそれますが、クラシック音楽というのはどうしてこうも素っ気ないID番号みたいなネーミングが多いのでしょう。「ブランド」という概念が大きな意味を持つ今の時代からは考えられない無頓着さです。しかし、逆に言えば、素敵なネーミングがついているがゆえに内実以上に大きな成功をおさめている作品をいくつもあげることができます。
例えば、ドヴォルザークの9番。もしも「新世界より」というネーミングがなければこれほどのポピュラリティを獲得し得たでしょうか?内実から見れば8番の交響曲やチェロ協奏曲の方がすぐれていると思うのですが、ポピュラリティの面では9番に大きな差をつけられています。
マーラーは結構ネーミングに凝った方だと思うのですが、それでも最高傑作だと思える9番にネーミングがないのが何とも残念です。ブルックナーにいたっては、そう言う「努力」を一切していないのでとっかかりになる「親しみ」というものが全く欠落しています。おまけに、内実の方も全曲を聞き通すだけでも根性のいる作品となると、ますますマニア御用達の作品となってしまいますね。

閑話休題(^^;

さて、話をバッハのオルガン作品に戻しますと、そう言う素っ気ないネーミングの中に、ほんの少しだけ「おやっ?」と思わせるような個性的な名前を発見します。
「パッサカリア」「カンツォーナ」「アラ・ブレーヴェ」「パストラーレ」などです。
もっとも、パッサカリアというのは音楽形式をあらわす普通名詞ですし、カンツォーナというのはイタリア語で「歌」を表す言葉です。アラ・ブレーヴェというのも「二分音符を1拍と数えなさい」という指示を表す言葉ですし、パストラーレもキリストの誕生を祝う音楽につけられる一般的な名称でした。
その意味では、ロマン派の音楽家たちが必死で頭絞ってつけたネーミングとは全く異なるものなのですが、それでもID番号のようなネーミングの群れに投げ込まれると十分に個性的に見えます。

なお、これらの作品は全てヴァイマール時代の作品だと見なされています。そして、当時のバッハは音楽先進国だったイタリアの動向を必死で勉強していて、「カンツォーナ」「アラ・ブレーヴェ」「パストラーレ」等の作品ははその様な「勉強」の成果を確かめるための作品だったようです。

「カンツォーナ」は当時はやっていた「シャンソン」を器楽用に編曲した作品のことを指し示す言葉だったのですが、これを器楽作品としてより意味のあるものに仕立て上げていったのがフレスコヴァルディでした。彼は、シャンソンの「歌」の主題を様々な技巧で変奏させていくというスタイルを確立し、これが後のフーガ形式の原型になっていきました。
バッハはこの作品において、そのようなフレスコヴァルディの技法を忠実に再現して作品を仕上げていますので、どちらかというと勉強の成果を確かめる意味合いの方が大きかったのだろうと想像できます。しかし、それでもバッハはバッハであり、全体として強い緊張感が支配している雰囲気は単なる模倣の域を超えていることは確かです。

ヴァルヒャ略歴


ライプチヒで1907年に生まれています。16才で失明するものの、ライプチヒ音楽院でギュンター・ラミーンに師事して1924年にオルガニストとしてデビューします。さらに、1926年には聖トーマス教会のオルガニストにも就任します。
第2次大戦後には三王教会のオルガニストにも就任し、165曲にもの上るバッハのオルガン作品の演奏と講義を行いました。彼の演奏は外面的な効果で作品を彩ることを拒絶し、きわめて厳格で峻厳なバッハ像を作り上げることで、バッハをロマン主義的歪曲から救い出したと評されています。
その後、10年近くにもわたって続けられたバッハのオルガン作品の録音は、長くバッハ演奏のスタンダード的な位置を占めてきました。

1991年にフランクフルトで没。

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