モーツァルト:交響曲第29番
シェルヘン指揮 ウィーンフィル 1950年録音
Mozart:交響曲第29番「第1楽章」
Mozart:交響曲第29番「第2楽章」
Mozart:交響曲第29番「第3楽章」
Mozart:交響曲第29番「第4楽章」
透明感が支配する世界
モーツァルトはこの29番と25番という対になるシンフォニーを生み出すことで、いわゆる「イオタリア風シンフォニー」からははるか隔たった地点にまでこの音楽形式を連れ去りました。
この29番のシンフォニーは弦楽器とホルン・オーボエという簡素な編成ですが、演奏時間が25分前後を要しますから、当時としてはかなりの「大作」に分類される作品でした。しかし、大作と言っても祝祭的な盛り上がりとは縁遠い作品です。管楽器は慎ましく、そして弦楽器は深い精神性を歌い上げ、それはどこまでも透明感が支配する世界であり、どこかこの世のものとは思えない美しさをもっています。
その意味で、激しいドラマが作品全体を支配しているト短調の25番とも対照的です。
第1楽章は弦楽四重奏曲のような緻密な構造が作品を支配しています。また、畳みかけるようなクライマックスを作り上げるコーダも印象的です。第2楽章もどこか室内楽的であり、続くメヌエット楽章も気品にあふれた音楽です。そして、この作品で一番素晴らしいのは最終楽章です。
一般的にモーツァルトのシンフォニーは最終楽章が「弱い」事が多いだけにこれは珍しいことです。冒頭の1オクターブ下がってから一気にかけあげる第1主題が様々に展開され、最後に見事なクライマックスを築き上げていく様は見事と言うしかありません。
ウィーンフィルのモーツァルト
シェルヘンという人は、最晩年にルガーノのオーケストラと録音したベートーベンの交響曲全集が広く知れ渡ったために「爆裂型指揮者」の代表みたいに言われます。
このモーツァルトを聴くと「一部で全体を判断する」ことがいかに誤った結論に導くかを改めて教えられます。
ここにはどこを探しても「爆裂」の欠片もありません。そして、シェルヘンの残された演奏をある程度聞いてみると、こちらの方が普通のシェルヘンであることに誰もが気づくはずです。
最近奇をてらって変な演奏ばかりを持ち上げては売り上げを伸ばしている半素人みたいな「評論家集団」がいますが(それはそれで、結構面白い面はあるのですが)、意外とこのような例も多いので注意しましょう。σ(--#)アタマイター
ただ、もう少しこの演奏を聞いてみると、どうもシェルヘンは何もしていないのではないかと言う気もしてきます。ここでの主役はシェルヘンではなくオーケストラのような気がしてくるのです。
おそらくはシェルヘンはあまりじゃまにならないように脇によけていて、ウィーンフィルが「私たちの音楽」としてのモーツァルトを思う存分に歌い上げているような気がするのですが、いかがなものでしょうか。ホントに「爆裂」の欠片もない演奏です。
よせられたコメント
2012-01-19:小林 正樹
- こういうのを聴くたびにその場に居合わせたい無理な衝動が起こります。実に美しいな。いいな。
ウィーンフィルの恐るべきメンバーが当たり前に演奏していた時代ですね。マエストロ・シェルヘンも無理強いしていない。クナだったらもう一段ぐいっと深く喰い込むかもな。でも恐らくシェルヘンがやってるのは楽譜の徹底的な読み込みを楽員に伝えて、後はウィーンの情緒に任せるだけのような・・。こんな我がPCでもそれが聴こえるからたいしたもんじゃ!
まぁこれだけ(遅め)の、長い音価(テンポにあわせた音符のぎりぎりの長さ)の美しさを表現できる棒も奏者も今ではいない(というか、そこに美を感じられないのかな)でしょうね。
ティーレマン君、メスト君も現WPの皆さんもこれ聴いて欲しいな。
装飾音のロンバルディア風の処理も最高ですね。オーボエの完璧なソロ!これぞ、ある意味最高のウィーン(的)情緒であり、またいわゆるWIENERKLANG(ウィーンだけの響き)です。
モーツァルト解釈云々などは捨て置いて、しばしこの美しいオケの奏法そのものに酔いたいな。
驚きの音源です。このフィーリング(いいたい放題で悪いけど)僕にはわかり過ぎるくらい解ります! DANKE BESTENS FUER SCHOENEN MOMENT!!
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