クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ショパン:ノクターン Op.37&Op.48(Chopin:Nocturnes for piano, Op.37&Op.48)

(P)ギオマール・ノヴァエス:1956年発行(Guiomar Novaes:Published in 1956)





Chopin:Nocturnes for piano, Op.37, No.1 in G minor

Chopin:Nocturnes for piano, Op.37, No.2 in G major

Chopin:Nocturnes for piano, Op.48, No.1 in C minor

Chopin:Nocturnes for piano, Op.48, No.2 in F sharp minor


劇的息吹と情熱と、そして壮大さ

ノクターンはロマン派の時代に盛んに作られたピアノ小品の一ジャンルです。
ロマン派の時代になると、厳格な規則に縛られるのではなく、人間の感情を自由に表現するような小品がたくさん作られ、当初はバガテルとか即興曲などと呼ばれていました。
その様ないわゆる「性格的小品」の中から「ノクターン」と称して独自の性格を持った作品を生みだしたのがイギリスのジョン・フィールドです。

フィールドはピアニストであり作曲家でもあった人物ですが、低声部の伴奏にのって高音部が夜の静寂を思わせるような優雅なメロディを歌う作品を20曲前後作り出しました。そして、このフィールドが作り出した音楽形式はショパンに強い影響を与え、彼もまた「ノクターン」と称する作品をその生涯に21曲も作り出しました。
初期の作品は「ショパンはフィールドから直接は借用はしていないが、その旋律や伴奏法をまねている」と批評されたりしていますが、時代を追うにつれて、フィールドの作品にはない劇的な性格や情熱が付け加えられて、より多様な性格を持った作品群に変貌していきます。
そして、、今日では創始者のフィールドの作品はほとんど忘れ去られ、ノクターンと言えばショパンの専売特許のようになっています。

後年、ショパン研究家として著名なハネカーは次のように述べています。
「ショパンはフィールドの創案になる形式をいっそう高め、それに劇的息吹と情熱と、そして壮大さを加えた。」
まさにその通りです。

ショパン:ノクターン Op.37


この作品の成立過程は詳しく分かっていないのですが、かつてはサンドとのマジョルカ島での生活の中で作曲された言われていました。しかし、その後の研究でショパンの手紙が発見され、そこにはマジョルカ島から帰った後に書かれたことが仄めかされています。
おそらくは、マジョルカ島からフランスに帰った後に、マジョルカ島での印象などが作品に反映しているのかもしれません。

  1. 第1番は「郷愁」というニックネームが使われることがあります。
    それは、この作品の特徴を的確に表現したものと言えます。主題は豊かな装飾音で飾られていて、まるでオペラのアリアを思わせますし、中間部もどこかコラール風の音楽です。

  2. 第2番はマジョルカ島への航海の途中に着想されたと言われています。
    もちろん、真偽のほどは不明ですが、サンドの日記にはこの作品を想起させるような内容が記されています。
    頻繁に転調が繰り返されながら肝心の主張であるト長調がほとんど現れないという不思議な感覚は、波のまにまに揺れる船の不確かさが結核に冒された己の未来への不安が重なるようです。



ショパン:ノクターン Op.48


まさにショパン円熟期のノクターンと言っていい作品です。劇的な性格を持つ第1番と叙情的な雰囲気を持つ2番との対比も鮮やかです。

  1. 第1番はその劇的な性格と言うことでは作品27の1番と肩を並べることが出来る作品です。もっとも、この作品の優れた点はその劇的な性格だけではなく、同時に気品あふれる情緒にも満たされているところにあります。
    これぞまさしく「ショパン!!」と言えるでしょう。
    暗い表情で音楽は始まるのですが、それがやがてコラール風に盛り上がっていきます。そして、その頂点で最初の主題が復帰して、それが大きな高揚を示していきます。まさに、短い音楽劇とも言うべき作品です。

  2. 第2番は対照的に叙情的な雰囲気に満たされています。
    とりわけ、序奏を伴った最初の主題はレクイエム的であり、それはまさに「涙をたたえた甘さ」とも言うべきものです。
    そして、この主題が繰り返された後に、全然雰囲気の異なる中間部が登場します。ショパンは弟子にこの部分はレチタティーヴォのように演奏しろと言ったそうです。



考え抜かれた演奏


ギオマール・ノヴァエスはかなりまとまった数のショパン作品を録音しています。この時代を考えれば(今の時代も同じかも)当然と言えば当然なのかもしれませんが、やはり聞き手にとっては嬉しい事実です。

ノヴァエスは「ブラジルの偉大なピアニスト」といわれることもあり、「パンパスの女パデレフスキー」とよばれることも多かった人です。このパンパスとは言うまでもなく、ブラジル南部に広がる草原地帯のことです。幼い頃に育ったブラジルの風土や文化は彼女の心の奥深い部分に根を張っている事は否定できないでしょう。

しかし、10代半ばでパリに移り住み、パリ音楽院でイシドール・フィリップに学ぶ事でピアニストとしての基礎を固め、その後はアメリカを中心に、とりわけニューヨークを拠点に活動を行いましたから、音楽的には生まれ故郷のブラジルとの関わりはそれほど大きくはないと思われます。

ですから「パンパスの女パデレフスキー」という異名の「パンパス」の方は音楽的にはあまり影響はあたえておらず、重要なのは、「女パデレフスキー」の方でしょうか。つまり、彼女が19世のロマン主義的なピアニストを連想させる事の方が重要かもしれません。
つまりは、彼女の出発点はヴィルトゥオーゾ的ピアニストとしてのものであり、優れたテクニックで数多くの作品を楽々と弾きこなす存在だったと言うことです。
そして、何よりも丹念に旋律線を歌い込むピアニストで、それもまた同時に情緒過多になることなく無理のない歌い回しの枠を崩すことはありませんでした。

その前提として、彼女は考え抜くピアニストであったと言うことは忘れてはいけないでしょう。
確かに、彼女は実演において二度と同じようには演奏しなかったと言われるのですが、それは気のおもむくままに演奏したというのではなく、常に考え続けて、その考えたことを次のコンサートでは披露したと言うことなのです。
「考えるな、感じろ!」とはブルー・スリーの言葉ですが、クラシック音楽の世界では真逆で「感じるな、考えろ!」が基本とならなければいけません。感じるがままに演奏してものになるほどこの世界は単純ではありません。
ヴィルトゥオーゾ的ピアニストで「パンパスの女パデレフスキー」などという異名を奉られれば、いかにも感情のおもむくままにピアノを弾いていたような誤解を与えるのですが、彼女のベースは考え抜くことでした。

すでに紹介済みなのですが、セルやクレンペラーなどを従えて多くの協奏曲を演奏したり録音したのは、そう言う彼女の姿勢が高く評価されていたからです。
そして、録音されることを目的とした演奏であるならば、それまでの演奏活動の中で考え抜いた事の決算という意味をもっていたはずです。ですから、結果としてその演奏は高雅で情感溢れるものであり、時にはショパンのパッションが力強く描き出されたりもするのですが、かといってそれは鬼面人を驚かすようなものではありません。

そして、ショパンのように次から次へと新しい録音が登場してくるような世界では、その演奏が十分に魅力的であったとしても、その上に積み重なっていく大量の録音によっていつかは覆い尽くされ聞き手の視野から消えていくのが宿命みたいなものです。
おそらく、ショパンのような音楽は存命中のピアニストが一番有利なのでしょう。亡くなってしまえば、いつかは聞き手の視野から見えなくなっていくのが宿命です。もちろん、例えばコルトーのような例外はありますが。

それだけに、こういうサイトではそう言う埋もれた録音の山の中からノヴァエスのような存在を拾い出すのが大きな役割なのでしょう。
あらためて彼女のショパン演奏を聞けば、どれもこれも安心してショパンの世界に浸れる安定感と叙情性に溢れています。

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