ベートーヴェン:序曲「コリオラン」, Op.62(Beethoven:Coriolan, Op.62)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1945年6月1日録音(Arturo Toscanini:NBC Symphony Orchestra Recorded on June 1, 1945)
Beethoven:Coriolan, Op.62
序曲と言っても、基本的にはコンサート用のプログラムとして創作されたようです。
この作品はコリンの戯曲「コリオラン」に触発されて作曲したと言われています。
コリオランとは、プルータークの英雄伝に登場する紀元前5世紀頃のローマの英雄です。日本ではなじみのうすい名前ですが、ショークスピアも「コリオレナース」として戯曲化していて、西洋ではそれなりに有名な人物のようです。
ベートーベンはこの作品をコリンに献呈し、コリンもそれを喜んで受け入れながら戯曲の上演でこの作品が使用された形跡はありません。
しかし、ベートーベンにとっての序曲とは、一部を除けば劇やオペラとしての序曲と言うよりは、「演奏会用の序曲」として演奏されることが一般的でしたから、実際の戯曲の上演で演奏されなかったと言っても決して不思議なことではありませんでした。
つまり、「序曲」と名前はついていても、基本的にはコンサート用のプログラムとして創作された作品でした。
この作品を特徴づけるのは頻繁に登場する全休止で、ベートーベンらしいドラマティックな性格を与えています。そのため、ベートーベンの数ある序曲の中では最も早い時期から聴衆に受け入れられた作品となったようです。
強力な斧で真っ二つ
気づいてみると、ベートーベンの一連の序曲をあまりアップしていないことに気づきました。もっとも、序曲ならば一通り紹介しておいてもらえればそれで十分だという人も少なくないでしょう。しかし、マルケヴィチとラムルー管弦楽団による録音を聞きなおして紹介してみると、指揮者とオケによってずいぶん特徴があることに改めて気づかされ、そして、セルやトスカニーニのようなビッグ・ネームの録音を一つも取り上げていないことにも気づくと、やはりもう少し同曲異演の録音を紹介しなければ納得がいかないという気持ちになりました。
もちろん、そんな気持ちになってもらわなくてもいいですという人いるでしょうが、管理人がそう思った以上は少しは我慢しておつきあいください。(^^;
さて、まず最初はトスカニーニです。オケは言うまでもなくNBC交響楽団です。マルケヴィチとラムルー管弦楽団による録音を聞いたときは「思い切り踏み込んでのフルスイング」というイメージがわいたのですが、トスカニーニの場合は「鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん」という言葉が浮かびました。
しかし、まてよ、いかに序曲とはいえベートーベンの音楽を鶏扱いはないだろうということで、これは却下、次に浮かんだのが「強力な斧を用いて巨大な丸太を真っ二つ」というイメージです。
うん、イメージとしてはこちらのほうがぴったりかもしれません。
おそらく、両者の違いは相対しているオケの違いでしょう。
ラムルー管弦楽団の場合は必死でマルケヴィッチの棒についていっています。まさに必死であり、そこから感じ取れるるのはほとばしる汗のにおいです。ただし、高校野球ならばその汗のにおいもドラマの一コマなのでしょうが、プロのエンターテイメントとしてはNGです。聞き手に汗のにおいを感じ取らせてはエンターテイメントとは言えません。
ですから、マルケヴィッチはそこからさらに鞭を入れて「思い切り踏み込んでのフルスイング」というレベルになるまで搾り上げています。
しかし、オケがNBC交響楽団となると、そこからはひとかけらの汗のにおいを感じることはなく、ひたすらその「凄み」のようなものが聞き手に迫ってきます。まさに巨大な丸太をいともたやすく真っ二つに断ち割られるのを聞き手は眼前で見せつけられるのです。
さらに言えば、おそらくは悪名高き8Hスタジオでの録音のせいなのでしょうが、フレーズの最後が短く切り上げられているように聞こえる部分があちこちで見受けられます。それがトスカニーの意図だったのか、もしくは残響に乏しい8Hスタジオのせいなのか判断に苦しみますが、最初は多少の違和感は感じても次第にその切り上げが音楽にとてつもない推進力と凄みを与えているかもしれないなどと感じてきてしまいます。
やはり、ベートーベンの音楽です。指揮者とオケの違いによってその相貌が変わるほどの器の大きさを持っているのです。
ということで、間隔はあけますが少しずつあれこれの序曲の録音を紹介していきますので、まあ、辛抱しておつきあいください。
それから、自明のことであるかのように「悪名高き8Hスタジオ」と書いたのですが、わかる人はわかっても何のことじゃという人も少なくないでしょうから簡単に捕捉をしておきます。
この「8Hスタジオ」というのは、当時のニューヨークのRCAビル内に作られたNBC放送の巨大スタジオのことです。このスタジオ、驚くなかれ、オーケストラが演奏できるスペースがあっただけでなく、1200名を超える聴衆も同時に収容できました。しかし、基本がラジオ放送用に設計されていたため残響が非常に短く、クラシックの演奏会場としては異質な空間でした。
ですからその響きは酷評されることが多かったのですが、なぜかトスカニーニはそのスタジオに文句をつけることもなく、逆にその残響の短い響きを好んだとも言われています。おそらく、トスカニーニはその残響の短さゆえに細かい部分がごまかしなしに響くことを好んだのでしょう。
そして、最近になって、それまで流通していた録音は実際の音よりもさらにデッドになっていたことが分かってきて、本来の音により近い復刻版が出てくることでかつてほどは酷評はされなくなってきています。
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