クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ショパン:3つのワルツ(第6番~第8番), Op.64 (Chopin:Waltzes, Op.64)

(P)アルトゥール・ルービンシュタイン:1963年6月25日録音(Arthur Rubinstein:Recorded on June 25, 1963)





Chopin:Waltzes No.6 In D-Flat, Op.64 No.1 ("Minute Waltz")

Chopin:Waltzes No.7 In C-Sharp Minor, Op.64 No.2

Chopin:Waltzes No.8 In A-Flat, Op.64 No.3


ショパンの手によって芸術として昇華した

いわゆるウィーン風のワルツからはほど遠い作品群です。
ショパンがはじめてウィーンを訪れたときはJ.シュトラウスのワルツが全盛期の頃でしたが、その音楽を理解できないと彼は述べています。
いわゆる踊るための実用音楽としてのワルツではなく、シューマンが語ったようにそれはまさに「肉体と心が躍り上がる円舞曲」、それがショパンのワルツでした。また、全体を通して深い叙情性をたたえた作品が多いのも特徴です。

ショパンの手によってはじめてワルツと言う形式は芸術として昇華したと言えます。

ショパン:3つのワルツ, Op.64 (第6番~第8番)


第6番(Op.64 No.1)は「子犬のワルツ」としてよく知られている作品です。ジョルジュ・サンドが飼っていた犬が自分の尻尾を追いかけてグルグル回っている様子をあらわしたものだと言い伝えられています。また、その追いかけっこがあっという間に終わってしまうので「瞬時のワルツ」ともいわれることもあるようですが、こちらの方はあまり浸透はしていないようです。

第7番(Op.64 No.2)はショパンがつくり出した新しいワルツの典型と言っていい作品で、それはワルツのリズムよりも明らかにマズルカのリズムに近い音楽になっています。それ故に、実用的な舞曲としてのワルツからは最も遠く隔たった作品で、逆から見れば真のワルツ風叙情詩になっていると言えます。
そして、そこにはサンドとの訣別や死を覚悟せざるを得ない病の苦しみがもたらす憂いがにじみ出していると言えます。

第8番(Op.64 No.3)は暗鬱な第7番とは一転して明るさと喜ばしさに溢れています。かといって、この作品は病の苦しみから抜け出したわけでもなく、第7番を作曲したときと同じような状況の下で書かれたものだというのですから、驚くしかありません。
全体はあでやかな旋律に彩られているのですが、そこにはどうしても何らかの「無理」みたいなものを感ずことも否定できません。

ルービンシュタインの「大きさ」


ルービンシュタインはショパンのピアノ曲をまとまった形で3回録音しています。言うまでもなく、SP盤の時代、モノラル録音の時代、そしてステレオ録音の時代です。そして、市場に広く出回っているのがステレオ録音の時代で、その録音を持ってルービンシュタインというピアニストの評価がなされています。
しかしながら、20代の頃から90歳を迎える直前まで現役のピアニストとして活躍した「巨人」の姿を、そのような限られた一時期だけで代表させることは大きな過ちを引き起こします。そして、老婆心ながらつけ加えれば、ルービンシュタインというピアニストはそのようなあやまりを引き起こしやすい人だと言うことです。

極めて大雑把に眺めてみれば、彼のピアニスト人生はホロヴィッツとの関わりで三分割出来そうです。
「ホロヴィッツと出会う以前」「ホロヴィッツと格闘した時代」そして「ホロヴィッツにとらわれなくなった晩年」です。
ただし、くせ者なのは、それが単純に「SP盤」「モノラル録音」「ステレオ録音」の時代に重なっていない点です。
具体的な年代で言えば、おおむねこうなるでしょうか。

  1. 「ホロヴィッツと出会う以前」・・・~1937年頃(もちろん、彼がホロヴィッツと出会ったのはこれよりも前ですが、ピアノに向かう姿勢としてホロヴィッツの存在が未だに影響を与えていないと言う意味で、出会う前と表現しました。)

  2. 「ホロヴィッツと格闘した時代」・・・1938年頃から1960年頃まで(38年、39年に録音されたマズルカ集あたりが分岐点)

  3. 「ホロヴィッツにとらわれなくなった晩年」・・・1961年頃~(61年に録音されたショパンの第1番協奏曲あたりが分岐点)


ただし、この時代区分は、どこかのエライ評論家先生によって確定されたものではなく、あくまでも私の独断によるものですから、あちこちで言いふらすと「恥」をかく恐れがありますのでご注意のほどを。

この区分に従いますと、スケルツォに関して言えば、モノラル録音もステレオ録音も同じ時代に区分されます。ルービンシュタインのステレオ録音によるショパンは、その大部分が60年代以降に録音されているなかで、このスケルツォとバラードだけが1959年に録音されています。そのためか、両者の演奏のスタイルというか風情というか、そういうものはあまり変わりません。

そして、こういう単純な図式化はディテールを塗りつぶすのでよろしくないとも思うのですが、この2つの録音だけが、ステレオ録音のなかでは、その強靱さと逞しさで異彩をはなっているのですが、今回の集中的な聞き込みで自分なりに納得できました。
そして、そうなると、スケルツォに関しては無理をして古いモノラル録音を聞く必要はないと言うことになります。そして、これも図式化の誹りを免れないかもしれませんが、ワルツ集に関して言えば、63年のステレオ録音よりも53年のモノラル録音の方が好ましく思えます。53年録音が極めて優秀なモノラル録音であることも、そう言う判断を後押ししてくれます。
もちろん、その事を最終的に判断するのはそれぞれの聞き手ですから、その判断材料としてステレオ録音を紹介することは意味なきことではないでしょう。

もうホロヴィッツと張り合うのはいいとばかりに肩の力の抜けたステレオ録音期の録音に対して好意的にとらえる人もいるでしょうし、そこに技術的な衰えを嗅ぎ取って「ルービンシュタインなんて大したことのないピアニストだ」と視野の外に置いてしまう人もいるでしょう。
そして、最初にもふれたのですが、世間的にはステレオ録音期のルービンシュタインを持ってピアニストとしてのルービンシュタイン全体を評価化してしまって、どちらかと言えば否定的な捉え方をする人は少なくないのです。
ただし、LPレコードの時代には、彼のモノラル録音やSP盤時代の録音なんてほとんど目にしませんでしたし、レコード会社の提灯持ちのような評論家は新しい録音がでれば昔の録音のことなどはそっちのけで誉め倒していましたから、聞く耳のある人はそう言う評価に否定的な意見を持ったのは当然だとも言えます。

まあ、レコ芸の推薦盤などと言うものに大きな意味のあった時代を知るものにとっては懐かしい話です。

しかし、ルービンシュタインという人は、そう言う狭い範囲であれこれ言えるほど小さい存在ではありません。やはり20代から90代まで現役でステージに立ち続けた芸人魂は半端ではありません。
それ故に、3回重なっても彼の録音を全て紹介する必要があるでしょう。そして、その全体像を見渡すことによって、ルービンシュタインというピアニストの「大きさ」に気づかれる切っ掛けになればと長っています。

よせられたコメント

2023-06-04:クライバーファン


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