クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ショパン:ワルツ(第5番) 変イ長調, Op.42(Chopin:Waltzes No.5 In A-Flat, Op 42)

(P)アルトゥール・ルービンシュタイン:1963年6月25日録音(Arthur Rubinstein:Recorded on June 25, 1963)





Chopin:Waltzes No.5 In A-Flat, Op 42 ("The Two-Four Waltz")


ショパンの手によって芸術として昇華した

いわゆるウィーン風のワルツからはほど遠い作品群です。
ショパンがはじめてウィーンを訪れたときはJ.シュトラウスのワルツが全盛期の頃でしたが、その音楽を理解できないと彼は述べています。
いわゆる踊るための実用音楽としてのワルツではなく、シューマンが語ったようにそれはまさに「肉体と心が躍り上がる円舞曲」、それがショパンのワルツでした。また、全体を通して深い叙情性をたたえた作品が多いのも特徴です。

ショパンの手によってはじめてワルツと言う形式は芸術として昇華したと言えます。

ショパン:ワルツ 変イ長調, Op.42(第5番)


ショパンの一連のワルツ作品の中でも最も優れた作品の一つと言えるでしょう。

ショパンの円熟期ともいえる1840年に作曲されたもので、この頃のショパンは公開の場での演奏活動から距離をおいていた時期でもあります。そして、この時期はドイツのの楽譜出版社であるライトコプフ・ウント・ヘルテル社と頻繁に出版交渉を重ねている時期でもありました。
そこには、ショパンの心境の変化もあったようで、サロン音楽と言えば「会話の付随物」としか思われていなかったドイツにおいて、いわゆる「サロン音楽」の地位を引き上げようとする意気込みがあったのかもしれません。
確かに、パリにおいてはショパンのワルツは「もっとも高貴な種類のサロン楽曲である」と評価されていました。

とりわけ、このOp.42(第5番)のワルツには舞踏詩としての側面とワルツ本来が持っている形式が見事に融合しています。
また、楽曲の規模も大きく長大なコーダも印象的です。さらには、ピアにスティックな効果も満点で、まさにショパンのワルツの一高峰と言ってもいいでしょう。

その意味において、「ワルツが単なる飾り物でない」とするシューマンの言葉を裏付ける作品と言えます。

ルービンシュタインの「大きさ」


ルービンシュタインはショパンのピアノ曲をまとまった形で3回録音しています。言うまでもなく、SP盤の時代、モノラル録音の時代、そしてステレオ録音の時代です。そして、市場に広く出回っているのがステレオ録音の時代で、その録音を持ってルービンシュタインというピアニストの評価がなされています。
しかしながら、20代の頃から90歳を迎える直前まで現役のピアニストとして活躍した「巨人」の姿を、そのような限られた一時期だけで代表させることは大きな過ちを引き起こします。そして、老婆心ながらつけ加えれば、ルービンシュタインというピアニストはそのようなあやまりを引き起こしやすい人だと言うことです。

極めて大雑把に眺めてみれば、彼のピアニスト人生はホロヴィッツとの関わりで三分割出来そうです。
「ホロヴィッツと出会う以前」「ホロヴィッツと格闘した時代」そして「ホロヴィッツにとらわれなくなった晩年」です。
ただし、くせ者なのは、それが単純に「SP盤」「モノラル録音」「ステレオ録音」の時代に重なっていない点です。
具体的な年代で言えば、おおむねこうなるでしょうか。

  1. 「ホロヴィッツと出会う以前」・・・~1937年頃(もちろん、彼がホロヴィッツと出会ったのはこれよりも前ですが、ピアノに向かう姿勢としてホロヴィッツの存在が未だに影響を与えていないと言う意味で、出会う前と表現しました。)

  2. 「ホロヴィッツと格闘した時代」・・・1938年頃から1960年頃まで(38年、39年に録音されたマズルカ集あたりが分岐点)

  3. 「ホロヴィッツにとらわれなくなった晩年」・・・1961年頃~(61年に録音されたショパンの第1番協奏曲あたりが分岐点)


ただし、この時代区分は、どこかのエライ評論家先生によって確定されたものではなく、あくまでも私の独断によるものですから、あちこちで言いふらすと「恥」をかく恐れがありますのでご注意のほどを。

この区分に従いますと、スケルツォに関して言えば、モノラル録音もステレオ録音も同じ時代に区分されます。ルービンシュタインのステレオ録音によるショパンは、その大部分が60年代以降に録音されているなかで、このスケルツォとバラードだけが1959年に録音されています。そのためか、両者の演奏のスタイルというか風情というか、そういうものはあまり変わりません。

そして、こういう単純な図式化はディテールを塗りつぶすのでよろしくないとも思うのですが、この2つの録音だけが、ステレオ録音のなかでは、その強靱さと逞しさで異彩をはなっているのですが、今回の集中的な聞き込みで自分なりに納得できました。
そして、そうなると、スケルツォに関しては無理をして古いモノラル録音を聞く必要はないと言うことになります。そして、これも図式化の誹りを免れないかもしれませんが、ワルツ集に関して言えば、63年のステレオ録音よりも53年のモノラル録音の方が好ましく思えます。53年録音が極めて優秀なモノラル録音であることも、そう言う判断を後押ししてくれます。
もちろん、その事を最終的に判断するのはそれぞれの聞き手ですから、その判断材料としてステレオ録音を紹介することは意味なきことではないでしょう。

もうホロヴィッツと張り合うのはいいとばかりに肩の力の抜けたステレオ録音期の録音に対して好意的にとらえる人もいるでしょうし、そこに技術的な衰えを嗅ぎ取って「ルービンシュタインなんて大したことのないピアニストだ」と視野の外に置いてしまう人もいるでしょう。
そして、最初にもふれたのですが、世間的にはステレオ録音期のルービンシュタインを持ってピアニストとしてのルービンシュタイン全体を評価化してしまって、どちらかと言えば否定的な捉え方をする人は少なくないのです。
ただし、LPレコードの時代には、彼のモノラル録音やSP盤時代の録音なんてほとんど目にしませんでしたし、レコード会社の提灯持ちのような評論家は新しい録音がでれば昔の録音のことなどはそっちのけで誉め倒していましたから、聞く耳のある人はそう言う評価に否定的な意見を持ったのは当然だとも言えます。

まあ、レコ芸の推薦盤などと言うものに大きな意味のあった時代を知るものにとっては懐かしい話です。

しかし、ルービンシュタインという人は、そう言う狭い範囲であれこれ言えるほど小さい存在ではありません。やはり20代から90代まで現役でステージに立ち続けた芸人魂は半端ではありません。
それ故に、3回重なっても彼の録音を全て紹介する必要があるでしょう。そして、その全体像を見渡すことによって、ルービンシュタインというピアニストの「大きさ」に気づかれる切っ掛けになればと長っています。

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