ガーシュウィン:ピアノ協奏曲
(P)ユージン・リスト:ハワード・ハンソン指揮 イーストマン=ロチェスター・オーケストラ 1957年5月録音
Gershwin:Piano Concerto in F major [1.Allegro]
Gershwin:Piano Concerto in F major [2.Adagio; Andante Con Moto]
Gershwin:Piano Concerto in F major [3.Allegro Agitato]
ジャズとしてはいいが・・・
この作品については賛否両論が渦巻いていますので、最後はご自分の耳で聞いて判断してもらうしかありません。
まず、有名な話から・・・。(^^;
よく知られているように、音楽の専門的な教育を受けていないガーシュインは楽想は溢れるようにわき出ても、それを管弦楽のためにオーケストレーションする能力はありませんでした。ですから、彼の代表作である「ラプソディー・イン・ブルー」はグローフェがオーケストレーションを担当しました。
しかし、何時までもそれでは駄目だ!!と言うことで一念発起し、最初から最後まで全てを自力で書き上げたのがこの「ピアノ協奏曲(ヘ長調)」でした。
しかし、未だ力足らずのガーシュインには、自分の書いたスコアがどのように鳴り響くのかを判断することができませんでした。そこで、彼は自前で楽団を雇って自分の楽譜を演奏させ、その演奏を聞きながら楽譜の訂正を行いました。(ちなみに、ガーシュインはクラシック音楽の作曲家では到底望めないような高額の報酬を得ていました。)
そして、伝えられる話では、ガーシュインが書いた楽譜は、彼が気にしていたほどにはひどい出来ではなく、僅か6カ所の訂正だけですんだと言うことです。
さて、こうやって、始めて自力で書き上げた作品なのですが、その作品のできに関しては当初から賛否両論が入り乱れていました。
まず肯定的だったのはストラヴィンスキーで、彼はこれを天才の作と褒め讃えたそうです。ただし、彼は自らのもとに管弦楽法を学びたいとやってきたガーシュインに「どうやったらお前みたいに金が稼げるのかこちらの方が聞きたいくらいだ(後に本人は否定)」と言ったそうですから、何処まで真面目に向き合った発言なのかは計りかねます。
逆に否定的だったのはプロコフィエフで、この作品を始めて聞いたときに「32小節のコーラスの連続というだけの、まとまりのない曲である」とバッサリ切り捨てたそうです。やはり、彼は骨の髄までのクラシック音楽家なのです。
しかし、そばにいたディアギレフは「ジャズとしてはいいが、出来損ないのリストである。」と述べています。
このディアギレフの言葉は、もしかしたらラヴェルがガーシュインに与えた言葉~「あなたは一流のガーシュインです。何も今さら2流のラヴェルになることはありませんよ」をより直截なものにしただけかもしれません。
ラヴェルにしてもディアギレフにしても、ガーシュインの音楽は大好きだったけれども、それは王道クラシックの音楽としてではなく、まさに何ものにも縛られることのないガーシュインの音楽が好きだったのです。
もしかしたら、ストラヴィンスキーがほめたのも、このディアギレフと同じ文脈だったのかもしれません。
まあ、そう思えば、結構かっこいい部分もあるので、それはそれなりに楽しく聞ける音楽であることは事実です。
ただ、もう少し余分なものを削ぎ落として、「ラプソディー・イン・ブルー」くらいにすればもっとよかった、等と言えば顰蹙を買うでしょうか。
ユージン・リストのピアノを聞くべき録音
ハワード・ハンソンは20世紀のアメリカを代表する作曲家ですが、その現代音楽に対する徹底的に批判的な態度は同時代のサミュエル・バーバーと同じです。また、スウェーデン系移民の両親の下に生まれたということもあるのでしょうか、北欧系の題材を使うことが多かったので「アメリカのシベリウス」などとも呼ばれたそうです。
とは言え、私も彼の作品はほとんど聞いたことがありませんし、一般的に言ってもバーバーほどには聞かれていないようです。
やはり、映画「プラトーン」で彼の「アダージョ」がすっかり有名になったのが大きいのでしょう。
さらに言えば、ヴァイオリン協奏曲もアン・アキコ・マイヤーズという美形のヴァイオリニストで知名度が上がったのも少しは貢献しているのかもしれません。(最近は少しお太りになられたようで雰囲気が随分とお変わりになられたようですが・・・って、書きながら、これってもしかしたらセク・ハラで告発されないかとふと不安よぎったりして・・・^^;)
しかし、バーバーと異なるのは指揮者としての活動も活発に行っているので、自作の指揮だけでなく、ここで紹介しているガーシュインやグローフェなどの有名どころだけでなく、チャドウィックやマクダウェルという同時代のアメリカの作曲家の作品も数多く録音しています。
しかし、その指揮ぶりは作曲家としてのスタンスからもうかがい知れるように、基本的には「手堅い」というイメージをこえるものではないようですが、下手な指揮者でないことも確かです。
同じく、ピアニストのユージン・リストの方も、今となってはあまり話題にならないのですが、系統的にはアール・ワイルド等と同じような系列に入る人のようです。上手いことは上手いのですが、いわゆるベートーベンとかブラームスのような正統派の音楽ではなくて、こういうガーシュインのような作品で力が発揮されるようです。
このガーシュインの協奏曲とラプソディ・イン・ブルーでは、Mercuryの極めつけの優秀録音と言う後ろ盾を得て、素晴らしいまでにダイナミックで切れ味の鋭い演奏を堪能させてくれます。
経歴を見れば、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番のアメリカ初演を行ったり、ニューヨーク・フィルの演奏会にも招かれたりと、極めて正統派の道を歩んできたようなのですが、50歳を過ぎたころからは「エド・サリバン・ショー」などにも出演したようで、そのあたりが、最初に「アール・ワイルド等と同じ系列」と書いた次第です。
この1957年にガーシュインを録音したときは40歳を目前にしたことですから、まさに覇気に満ちた素晴らしい演奏を展開しています。
最初はハワード・ハンソンの指揮に興味を持って聞き始めたのですが、これは間違いなくユージン・リストのピアノを聞くべき録音のようです。
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