クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ハイドン:交響曲第103番 変ホ長調「太鼓連打」, Hob.1:103

ベルンハルト・パウムガルトナー指揮 ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院管弦楽団 1960年4月録音





Haydn:Symphony No.103 in E-Flat major "The Drum Roll" Hob.1:103 [1.Adagio - Allegro con spirito]

Haydn:Symphony No.103 in E-Flat major "The Drum Roll" Hob.1:103 [2.Andante piu tosto allegretto]

Haydn:Symphony No.103 in E-Flat major "The Drum Roll" Hob.1:103 [3.Minuet - Trio]

Haydn:Symphony No.103 in E-Flat major "The Drum Roll" Hob.1:103 [4.Finale. Allegro con spirito]


ティンパニーの独奏でロール打ち

フランス革命による混乱のために、優秀な歌手を呼び寄せることが次第に困難になったためにザロモンは演奏会を行うことが難しくなっていきます。そして、1795年の1月にはついに同年の演奏会の中止を発表します。しかし、イギリスの音楽家たちは大同団結をして「オペラ・コンサート」と呼ばれる演奏会を行うことになり、ハイドンもその演奏会で最後の3曲(102番~104番)を発表しました。

そのために、厳密にいえばこの3曲をザロモンセットに数えいれるのは不適切かもしれないのですが、一般的にはあまり細かいことはいわずにこれら三作品もザロモンセットの中に数えいれています。
ただし、ザロモンコンサートが94年にピリオドをうっているのに、最後の三作品の初演が95年になっているのはその様な事情によります。

このオペラコンサートは2月2日に幕を開き、その後2週間に一回のペースで開催されました。そして、5月18日まで9回にわたって行われ、さらに好評に応えて5月21日と6月1日に臨時演奏会も追加されました


  1. 第102番 変ロ長調:94年作曲 95年2月2日初演

  2. 第103番 変ホ長調「太鼓連打」:95年作曲 95年3月2日初演

  3. 第104番 ニ長調「ロンドン」:95年作曲 95年5月4日初演



103番の交響曲に「太鼓連打」と標題がついているのは、第1楽章の導入部にティンパニーの独奏でロール打ちがあるからなのですが、当然の事ながらハイドン自身のあずかり知らぬ事です。おそらく、この標題は19世紀の初め頃につけられたものだと思われます。
なんと言っても、純粋器楽の交響曲というのはオペラなどと較べれば取っかかりが内容に思えるので「驚愕」とか「奇蹟」とか「軍隊」みたいなあだ名がついている方が何となく安心できるという面があります。

この「太鼓連打」も最初のたった1小節だけのティンパニー連打が聞き手にとってはその部分が非常に印象的だったと言うことでしょう。
なお、この作品がはじめ演奏されたときは第2楽章が好評でアンコールされたようです。この音楽はハイドンの音楽としては不思議な感覚が漂っていて、ハ短調なのですが、どこか「虚画化された悲劇」みたいな雰囲気が漂っています。

ハイドン自身にはそんな気はなくても、当時のイギリスの人々はそこにフランス革命の混乱に陥っているフランスを見たのかもしれません。

交響曲第103番 変ホ長調「太鼓連打」


  1. 第1楽章 Adagio - Allegro con spirito - Adagio

  2. 第2楽章 Andante piu tosto allegretto

  3. 第3楽章 Menuetto - Trio

  4. 第4楽章 Finale. Allegro con spirito




ハイドンの音楽が持つ優美さと気品


パウムガルトナーは若い頃にワルターに師事していて、さらに彼がモーツァルテウム音楽院の学院長をつとめているときの教え子にカラヤンがいます。しかし、こうして3人の名前を並べてみると、ヴァイオリンとは違って、指揮者というのはサラブレッドの血統のようなつながりは持たないもののようです。
例えば、ここで聞くことのできるハイドンの交響曲はワルターと較べればはるかに速いテンポで颯爽と演奏しているので、古き良きワルターのハイドンとは随分異なります。ましてや、カラヤンのハイドンとは較べるまでもありません。

しかし、このパウムガルトナーのハイドンは悪くはありません。いや、その様な持って回った言い方ではなくて、素直に「素晴らしい」と言うべきでしょう。
おそらく、この時代には少しずつ頭をもたげはじめていた古楽復興の動きとは全く無縁の演奏だとは思うのですが、それでも当時の巨匠たちのハイドンと較べればかなり小規模の編成で演奏しているように思われます。それでいて、決してこぢんまりとした音楽になることなく、優美であると同時に気品に溢れたハイドンがここにはあります。

いつも思うのですが、ハイドンというのは指揮者にとってもオーケストラにとっても「コスト・パフォーマンス」の悪い作品です。何故ならば、どれほど上手く演奏しても聞き手を圧倒するような演奏効果を生み出す音楽ではありません。それどころか、そう言うものを狙って、例えば103番の
「太鼓連打」で轟くような太鼓の連打をしたならば、それは下品を通りこして阿保です。
そこは、このパウムガルトナーのように、遠くから聞こえてきてやがて遠くに過ぎ去っていくように演奏すべきでしょう。

100番の「軍隊」のトランペットにしても気品を持った吹奏でなければいけません。
しかし、それでは「分かる人にしか分からない」というジレンマに陥り、結果としてハイドンの交響曲というのはどこか「お勉強モード」で聞くという習慣が身についてしまいます。

そう言う中において、これは実に傾聴に値すべき演奏と言えるでしょう。
決して鬼面人を驚かすような効果とは全く無縁ですが、ハイドンの音楽が持つ優美さと気品、そして颯爽とした佇まいなどを雰囲気としてではなく、徹底したスコアリーディングに基づく内部の見通しの良さを通して実現しています。
それ故に、これを持ってライナーのハイドンに肩を並べると主張する人の言い分にも最少は随分と「?」マークがついたのですが、そこまで持ち上げる理由が何となく納得できます。

そして、パウムガルトナーが創設した「ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院管弦楽団」の優れた能力と同時に、この両者がいかに強い絆で結ばれていたかを証明する録音だとも言えます。
ただし、いささか盤面のコンディションが悪いのが残念です。そこはご容赦あれ。

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