クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調, D.898

(Cell)パブロ・カザルス:(P)アルフレッド・コルトー (Vn)ジャック・ティボー 1926年7月5日~6日録音





Schubert:Piano Trio in B-flat major, D.898 [1.Allegro moderato]

Schubert:Piano Trio in B-flat major, D.898 [2.Andante un poco mosso]

Schubert:Piano Trio in B-flat major, D.898 [3.Scherzo: Allegro & Trio]

Schubert:Piano Trio in B-flat major, D.898 [4.Rondo: Allegro vivace - Presto]


全体を大きな構成の中に見事にまとめきっている

シューベルトは若い時代に1曲のピアノ三重奏曲を残しているのですが、その後はこのジャンルから離れてしまいます。ところが、最晩年になって急に3曲のピアノ三重奏曲を残しています。
それがD.898、D.929そして一楽章のみのD.897です。

このなかで、変ロ長調のD.898だけは自筆譜も失われ成立事情が全くの藪の中で、壮大な規模を持つ変ホ長調のD.929より前に書かれたものなのか、それとも後で書かれたものなのかで議論が続いています。シューベルトはこの変ロ調の作品には「Op.99」を、D.929の方には「Op.100」を要求しているので、一般的にはD.898の方が先に書かれたと見るのが一般的なのですが、出版に至る事情などを考慮する単純にそうとも言いきれぬ面もあるようなのです。

とは言え、そう言う学術的な細かい話は脇に置いておいても、このシューベルトらしい歌謡性にあふれた三重奏曲がシューベルト後期の傑作の一つであることは誰も否定はしないでしょう。何故ならば、歌謡性にあふれた旋律を主題としながらも、全体を大きな構成の中に見事にまとめきっているからです。
おそらく、これもまた最晩年のシューベルトが追い求めた「交響曲への道」の一過程だったのでしょう。

第1楽章ではチェロが歌い出す第2主題が印象的で、それが第1主題と絡みながら転調を重ねて発展していくところは見事です。

続く第2楽章はノクターン風の音楽で微妙な影と深みのある静けさの後に情熱の発露が現れ、最後はまたどこか憧れを秘めた佇まいの中で閉じられます。シューマンは「人間の美しい感情が波のように上下する」と評しています。

第3楽章はリズミカルなスケルツォでポリフォニックな動きも交えながら生き生きとした生命力に溢れています。そして、中間部のとトリオではヴァイオリンとチェロが息の長い旋律を演奏するのも印象的です。

最終楽章はシューベルトは「ロンド」と記しているのですが明らかにロンド形式ではありません。
ある人の解説によると、「A-B-C-A-B-C-コーダ」と言う形になっているようです。そしてCの部分はAとBの音型を合わせたものになっているようです。


一つの「奇蹟」


ユーザーの方より、カザルス・トリオの録音が一つもアップされていないようなのですが・・・と言う指摘をいただきました。
そんな馬鹿なことはないだろうと思って確認したところ、本当に一つもアップしていないことに気づきました。いやぁ、穴はあるものですが、ここまでの大穴が開いているとは我ながら感心するというか、呆れるというか、驚かされました。

と言うことで、急遽彼らの録音を探し出してきて準備を始めた次第です。取りあえずはこの「大公」以外に以下の4曲は順次アップしたいと思います。

  1. シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調, D.898

  2. メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調, Op.49

  3. シューマン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調, Op.63

  4. ハイドン:ピアノ三重奏曲第39番 ト長調, Hob.XV:25「ジプシー」


それにしても、パブロ・カザルス、アルフレッド・コルトー、ジャック・ティボーと言うのは、信じがたいほどの顔ぶれです。まさにそれは一つの「奇蹟」だったと言ってもいいでしょう。

このトリオが結成されたのは1905年という事ですから、最年長のカザルスで32歳、最年少のコルトーは25歳だったはずですから。まさに血気溢れる若者のトリオだったと言えます。そして、この顔ぶれはその後30年近く続いたのですから、強烈な「我」というか、「個性」というか、「我が儘」というか、そう言ういろんなものを持っている超一流のソリストたちがかくも長きにわたって活動を継続したというのもまた奇跡的なことだったと言えます。
一例を挙げれば、100万ドルトリオと言われたハイフェッツ、ルービンシュタイン、フォイアマンの組み合わせではハイフェッツとルービンシュタインの間で諍いが絶えず、チェリストのフォイアマンが必死で間に入ってなだめたと言われています。そして、フォイアマンの急死によって新しく参加したピアティゴルスキーも二人の諍いの仲裁に翻弄されたと言うことです。

しかし、パブロ・カザルス、アルフレッド・コルトー、ジャック・ティボーと言う組み合わせが30年も続いてくれたおかげで、後年の私たちはそれなりのクオリティで彼ら演奏を「録音」という形で聞くことができたのです。そして、そのおかげでこのトリオの凄さを「伝説」としてではなく実際の「音」として経験できると言うことです。
これを「幸せ」と言わずして何といいましょう。ただし、その様な神に感謝したくなるほどの録音を20年以上も放置をしていたのですから、まさに愚かさもきわまりで、何をかいわんやです。

ただし、彼らの録音については多くの人が語り尽くしていますから、今さら何も付け加える必要はないのですが、あらためて彼らの録音を聞き直してみて一つだけ気づいたことがありますのでその事だけを記しておきます。

それは、この組み合わせは年長者のカザルスに敬意を表してなのか「カザルス・トリオ」とよばれるます。そのために、音楽の主導権もまたカザルスにあるように語っている人は少なくありません。
しかし、彼らの録音をあらためて聞き直してみて、私が魅力を感じたのはカザルスではなくて、コルトーの歌心溢れたピアノと、それに対して素晴らしい閃きで絡んでくるティボーの方です。

カザルスはそう言う二人を裏方としてドッシリと支えているというのが私の率直な感想です。そして、この音楽的雰囲気が、つまりはリーダー格のカザルスがコルトーとティボーの自由闊達な演奏をニコニコと眺めながら、音楽面では裏方にまわってそんな二人を支えると言うスタイルこそが、このコンビが長く続いた理由だと確信したのです。とりわけ、コルトーの歌心ふれるピアノが強く心に残ります。もっとも、シューマンのようにヴァイオリンに比重がかかっている場合ではティボーが最高のパフォーマンスを披露してくれています。

おそらく、ナチスの台頭と、それに対するコルトーの融和的な姿勢がなければ、さらに長くこのコンビは活動を続けたはずです。
そう考えれば、ここにも思わぬ戦争の影が差していたと言うことがいえるのかもしれません。

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