ヨハン・シュトラウス:喜歌劇「ジプシー男爵」序曲
ハンス・スワロフスキー指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1957年9月19日録音
Johann Strauss:Die Fledermaus, Overture
社交の音楽から芸術作品へ

父は音楽家のヨハン・シュトラウスで、音楽家の厳しさを知る彼は、息子が音楽家になることを強く反対したことは有名なエピソードです。そして、そんなシュトラウスにこっそりと音楽の勉強が出来るように手助けをしたのが母のアンナだと言われています。後年、彼が作曲したアンネンポルカはそんな母に対する感謝と愛情の表れでした。
やがて、父も彼が音楽家となることを渋々認めるのですが、彼が1844年からは15人からなる自らの楽団を組織して好評を博するようになると父の楽団と競合するようになり再び不和となります。しかし、それも46年には和解し、さらに49年の父の死後は二つの楽団を合併させてヨーロッパ各地へ演奏活動を展開するようになる。
彼の膨大なワルツやポルカはその様な演奏活動の中で生み出されたものでした。そんな彼におくられた称号が「ワルツ王」です。
たんなる社交場の音楽にしかすぎなかったワルツを、素晴らしい表現力を兼ね備えた音楽へと成長させた功績は偉大なものがあります。
喜歌劇「ジプシー男爵」序曲
「ジプシー男爵」は「こうもり」と並んで有名な作品ですが、オーストリアとハンガリーの融合という事がテーマになっている「非現代性」故か「こうもり」に一歩譲っているようです。
トルコに味方した罪で妻と一人息子を連れて国を追われたバリンカ領主の遺児シャンドアとジプシー娘ザッフィとの恋の話が全体の軸となり、そこに自分の父親の領地を奪ったツーバンへの意趣返しが絡まってくる話らしいです。何とも、ザックリとした話で申し訳ないのですが、そこにはオーストリア皇帝がハンガリー国王を兼ねることによってハンガリーは属国ではなくなったものの、完全な自立を許されなかった事への、ハンガリーの国民の不満を和らげようという意図があったようです。
そのためか、当時のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世はこの「ジプシー男爵」を大いに気に入ったようです。
序曲は少し不穏な感じで始まるのですが、すぐに華やか雰囲気にかわり、途中に牧歌的な風情もたたえながら最後は華やかなフィナーレで終わります。言ってみれば、シュトラウスの常のパターンの一つでしょうが、ここには創作力の絶頂期を迎えたシュトラウスの技が遺憾なく発揮されています。
スワロフスキーならではの歌い回し
ハンス・スワロフスキーと言えば指揮法の名教師でありながら指揮者としては今ひとつというのが常識でした。
「音楽は楷書的でしっかりしたものではあったが、あまり面白いものではなかった。」とか「尋常でないほど音楽の運びがぎくしゃくしがちな指揮者」などと言われたものでした。
しかしながら、例えばシューベルトの「未完成」などを聞くと、推進力にあふれた直線的な造形でありながら、いわゆるアメリカ的なザッハリヒカイトな演奏とは少し雰囲気が違うなと言うことでした。
非常に手堅い指揮ぶりで、一見すると何もしていないように見えながら、聞き進んでいくうちにジワジワと盛り上がってくるような雰囲気があって、それはまさにアバドの演奏と非常によく似ているなと思いました。
しかし、そう言うスタイルで、例えばヨハン・シュトラウスのような作品を演奏すればどうなるのかは考えてみればすぐに想像がつきます。ウィンナー・ワルツを楽譜通りに端正にスッキリと仕上げただけでは面白いはずもなく、聞くだけ時間の無駄と言わざるを得ません。
ですから、最初はスワロフスキーのウィンナーワルツか・・・と言う感じだったのですが、実際に聞いてみればその予想はいい方に見事に裏切られました。
確かに、響きはスッキリとしていてその面では楷書的なのですが、その歌い回しは実に見事なもので、それはスワロフスキーならではの独自性を持ったものでした。
スワロフスキーはハンガリー出身ですが、その人生の大半はウィーンですごしています。シェーンベルクに作曲を習い、ワインガルトナーに指揮法を学び、指揮者としてもウィーン響の首席指揮者やウィーン国立歌劇場の指揮者も務めた人物です。まさにウィーンの体現者のような人物なのですが、その歌い回しはクレメンス・クラウスやボスコフスキーなどとはまた異なった歌い回しです。
出来れば。スワロフスキーのウィンナーワルツという看板を見てパスしたくなる人もいるでしょうが、まあ一度は聞く価値はあるかと思います。「古き良き昔の時代」のものとはどこか異なった魅力があります。
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