クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

モーツァルト:セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」, K.525

アンタル・ドラティ指揮 フェスティヴァル室内管弦楽団 1956年6月6日録音





Mozart:Serenade in G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [1.Allegro]

Mozart:Serenade in G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [2.Romance (Andante)]

Mozart:Serenade in G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [3.Menuetto (Allegretto)]

Mozart:Serenade in G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [4.Rondo (Allegro)]


この作品は驚くほど簡潔でありながら、一つの完結した世界を連想させるものがあります。

「音符一つ変えただけで音楽は損なわれる」とサリエリが感嘆したモーツァルトの天才をこれほど分かりやすく提示してくれる作品は他には思い当たりません。

おそらくはモーツァルトの全作品の中では最も有名な音楽の一つであり、そして、愛らしく可愛いモーツァルトを連想させるのに最も適した作品です。
ところが、それほどまでの有名作品でありながら、作曲に至る動機を知ることができないという不思議さも持っています。

モーツァルトはプロの作曲家ですから、創作には何らかのきっかけが存在します。
それが誰かからの注文であり、お金になる仕事ならモーツァルトにとっては一番素晴らしい動機だったでしょう。あるいは、予約演奏会に向けての作品づくりであったり、出来のよくない弟子たちのピアノレッスンのための音楽作りであったりしました。
まあ早い話が、お金にならないような音楽づくりはしなかったのです。

にもかかわらず、有名なこの作品の創作の動機が今もって判然としないのです。誰かから注文があった気配はありませんし、演奏会などの目的も考えられません。何よりも、この作品が演奏されたのかどうかもはっきりとは分からないのです。
そして、もう一つの大きな謎は、そもそもこの作品はどのようなスタイルで演奏されることを想定していたかがよく分からないのです。具体的に言えば、1声部1奏者による5人の弦の独奏者で演奏されるべきなのか、それとも弦楽合奏で演奏されるべきなのかと言うことです。

今日では、この作品は弦楽合奏で演奏されるのが一般的なのですが、それは、そのスタイルを採用したときチェロとコントラバスに割り振られたバス声部が素晴らしく美しく響くからです。しかし、昨今流行の「歴史的根拠」に照らし合わせれば、どちらかといえば1声部1奏者の方がしっくりくるのです。

さらに、ついでながら付け加えれば、モーツァルトの「全自作目録」には「アイネ・クライネ・ナハトムジーク。アレグロ、メヌエットとトリオ、ロマンツェ、メヌエットとトリオ、フィナーレから構成される」と記されていて、この作品の原型はもう一つのメヌエット楽章を含む5楽章構成だったのです。そして、その失われたメヌエット楽章は他の作品に転用された形跡も見いだせないので、それは完全に失われてしまっているのです。
ただし、その失われた事による4楽章構成が、この簡潔なセレナードをまるで小ぶりの交響曲であるかのような雰囲気にかえてしまっているのです。
ですから、それは「失われた」のではなくて、モーツァルト自身が後に意図的に取り除いた可能性も指摘されるのです。

そんなわけで、自分のために音楽を作るということはちょっと考えづらいモーツァルトなのですが、もしかしたら、この作品だけは自分自身のために作曲したのかもしれないのです。
もしそうだとすると、これは実に貴重な作品だといえます。そして、そう思わせるだけの素晴らしさを持った作品でもあります。
ただし、それはどう考えても「あり得ない」妄想なので、おそらくは今となっては忘れられてしまった。そして記されなかった何らかの理由があったのでしょう。つまりは、それほどまでにモーツァルトは「プロの作曲家」だったのです。

優れた録音と整ったアンサンブルで聞く事が出来るというのは貴重な存在


フェスティヴァル室内管弦楽団と言うオケに関してはいろいろ調べたんですが、結局は正体は不明でした。ただし、基本的なレベルはよく分からないのですが、ドラティという人はどんなオケであってもそれなりのレベルの演奏に仕上げてしまうと言う技を持っています。
おそらく、この一連のモーツァルト演奏を聞いてもう少し「愉悦感」のようなものが欲しいと思う人もいるでしょう。とりわけ、行進曲や舞曲ならば、その整った佇まいと整然とした推進力に不満はないのですが、それが「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」のような作品になると、あまりにも整いすぎていて、それはそれで決して不満ではないのですが、もう少し愛想みたいなものがあってもいいのにななどと欲深いことを思ってしまいます。

ただし、行進曲や舞曲などに関しては録音そのものが非常に少ないですから、そう言う作品をこのような優れた録音と整ったアンサンブルで聞く事が出来るというのは貴重な存在です。だいたいが、そう言う作品を依頼されても、それを真面目に取り上げて録音しようなどという指揮者は殆どいないでしょう。
何といっても、そう言う小品をこういう形で録音するのは二流以下の指揮者の仕事であり、それなりのポジションを獲得している指揮者からしてみれば、いくら頑張って優れた演奏に仕上げても、それは決して自分のプラス評価につながらないからです。いや、つながらないどころか、下手をすれば「金目当てで下らない仕事を引き受けやがって」と陰口を言われかねません。

それだけに、ドラティのようにこういう小品であっても真面目に取り組んでくれることで、例えば最晩年に書かれた舞曲が持つ豊かで精妙なオーケストレーションの素晴らしさを教えてもらうことが出来るのです。
そして、ザスロー先生も、モーツァルトを知るためには是非とも聞く必要のある音だと述べているのです。

<2022年2月4日追記>
音源とした「マーキュリー・リヴィング・プレゼンス 3」には「フェスティヴァル室内管弦楽団」とクレジットされているのですが、「モーツァルト&ハイドン: マーキュリー・リヴィング・プレゼンス録音全集」ではこのアイネ・クライネだけはロンドン交響楽団とクレジットされています。
また、原盤となったアナログ・レコードには「London Symphony Orchestra」と記されています。
おそらく、これらを総合的に考えて見ると「フェスティヴァル室内管弦楽団」とは、マーキュリーが「ロンドン交響楽団」を中心に選抜した録音用に臨時編成したーケストラと考えるのが妥当なようです。

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