シューマン:弦楽四重奏曲第2番 ヘ長調, Op.41-2
パレナン四重奏団1967年録音(3月発行)
Schumann:String Quartet No.2, Op.41 No.2 [1.Allegro vivace]
Schumann:String Quartet No.2, Op.41 No.2 [2.Andante quasi variazioni]
Schumann:String Quartet No.2, Op.41 No.2 [3.Scherzo. Presto - Trio. L'istesso tempo]
Schumann:String Quartet No.2, Op.41 No.2 [4.Allegro molto vivace]
幻想性の翼を羽ばたかせている

シューマンという作曲家は特定の年にあるジャンルに集中するという傾向があるのですが、室内楽曲もまたその大部分が1842年に集中しています。とりわけ、作品番号41の3曲の弦楽四重奏曲は1942年の6月2日から7月22日までの一ヶ月半ほどの間に一気に書き上げられています。そして、シューマンはこれ以外にはこのジャンルに手を染めることはありませんでした。
一般的に1840年は「歌曲の年」と言われ、1841年は「交響曲の年」と言われるのですが、1842年もまた「室内楽曲の年」と言ってもいいのではないかと思われます。
その背景には、クララとの結婚(1840年)によって多くの音楽家たちが彼の家に集い、そこでアンサンブルを楽しむ機会が多くなったことが、この室内楽への集中の切っ掛けになったものと思われます。シューマンはそう言うアンサンブルを楽しむ中で多くの作曲家の室内楽にふれ、その事がベートーベンの後期の弦楽四重奏曲の研究へと向かわせたようです。
そして、そう言う成果を土台としてこの3曲の弦楽四重奏曲を一気に書き上げたのですが、後にこの弦楽四重奏曲を出版するときに、出版社に対して「以前の時期の作品の中で最良のものと見なしている」と自信のほどを伝えています。そして、その自信故に、この3曲はメンデルスゾーンに献呈されていて、「メンデルスゾーンもほぼ同じような意味で私に考えを述べた」とも記されています。
確かに、この弦楽四重奏曲にはシューマンらしい「幻想性」が溢れています。もちろん、ベートーベン以来の古典的な佇まいはたもちながらも、かなり自由な構成でもってその幻想性の翼を羽ばたかせています。
シューマン:弦楽四重奏曲第2番 ヘ長調, Op.41-2
第2番は第1番と較べれば明らかに叙情性に溢れた作品になっています。また、賢者の会話と言われる弦楽四重奏曲により相応しく、第1番ではファースト・ヴァイオリンへの比重がやや多かったのに対して、この第2番では4つの楽器への比重がより平等化されています。
第1楽章はお約束通りのソナタ形式であり、全体としてはどこか牧歌的な雰囲気を持っています。そして、その牧歌的なロマンティックな第1主題はファースト・ヴァイオリンが導き出すのですが、明朗な感じの強い第2主題はセカンド・ヴァイオリンが引き出します。
続くアンダンテ楽章は変奏曲形式で書かれています。しかし、そこではベートーベンの後期の弦楽四重奏曲で展開された世界とは異なった世界を作りあげようとする意志が感じられます。
とは言え、続く第3楽章のプレストは情熱に溢れた音楽で、かなりベートーベン的と言っていいかもしれません。
しかし、最終楽章に関しては、率直に言って前の3楽章を受けて締めくくりをつけるにはいささか軽すぎる嫌いは否定できません。それは、聞く人の好みにもよるのでしょうが、明るく軽やかな音楽にもう少し重みがあればと思う人もいるでしょう。
シューマンの垢をきれいに洗い流したような演奏
パレナン四重奏団については、大きな勘違いというか、偏った思いこみを持っていたことに気づかされました。
それは、パレナン四重奏団の名前は1950年に録音したラヴェルとドビュッシーの弦楽四重奏曲と強く結びついていて、それ以外の作品とはとんと縁のない存在だったからです。
さらには、ジャック・パレナンを中心としたパリ音楽院の4人の学生で1943年(1944年と記されている資料もあり)に結成されたという事実と、カルヴェ四重奏団の影響を受けていたという話も聞いて、すっかり彼らは古い時代に属するカルテットだと思いこんでいたのです。
事実、1950年に録音された彼らの代表盤であるラヴェルとドビュッシーの演奏を聞くと、その録音の古さ故に「四隅に篝火がたかれる中で演じられる能舞台のような世界」と感じてしまったことも大きな要因となっています。
ですから、珍しく300円均一ではないコーナーでこの一枚を見つけて、880円も投じて買い込んできたのも、そう言う「幽玄の世界」を期待したからでした。
ところが、丁寧にクリーニングをしてからターンテーブルにセットしカートリッジの針を落とすと、そこから聞こえてきたのは「幽玄の世界」ではなくて、意外なほどに緻密なアンサンブルであり、どこかドイツ的な重量感というか粘りけもあるシューマンでした。
これはいったいどうしたことかと思って詳しく調べてみると、この演奏は1967年に録音したものであり、さらに彼らは70年代に入っても活発に活動を続けていたのです。
ですから、先にジュリアード弦楽四重奏団と比較して、スポットライトの当たる世界と篝火の中で繰り広げられる世界という対比をしたのですが、どうやらジュリアードほどではないにしてもパレナン四重奏団も本来はスポットライト側に位置するカルテットだと思った方がいいようなのです。
実際この演奏もまた、シューマンの幻想的な世界の細部にしっかりと光を当てています。
そう言えば、口の悪いフランス人はシューマンのことを「垢抜けないフォーレ」などと言うようですが。実際この演奏はフランス人から見ればどこか垢抜けないシューマンの垢をきれいに洗い流したような雰囲気があります。ただし、そうしながらも、結構重量感のある響きで演奏されるので、ドイツ側から見ても許容できる範囲かもしれません。
それから、彼らは最後の第3番の弦楽四重奏曲も録音しているのですが、それはピアノ四重奏曲とカップリングで発売されたようです。そして、ピアノ四重奏曲は1968年の録音で初発も1968年なので、どうやらパブリック・ドメインからこぼれ落ちたようです。
とりわけピエール・バルビゼと録音したピアノ四重奏曲はなかなかにいい演奏だったので実に残念な話です。
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