モーツアルト:オーボエ協奏曲 ハ長調, K.314
(Ob)レオン・グーセンズ:コリン・デイヴィス指揮 シンフォニア・オブ・ロンドン 1960年3月29日録音
Mozart:Oboe Concerto in C major, K.314/271k [1.Allegro aperto]
Mozart:Oboe Concerto in C major, K.314/271k [2.Adagio non troppo]
Mozart:Oboe Concerto in C major, K.314/271k [3.III. Rondo: Allegretto]
オーボエ魅力を最大限に引き出す

モーツァルトはザルツブルグの首席オーボエ奏者だったジュゼッペ・フェルレンディスのために協奏曲を書いています。ですからフェルレンディス協奏曲とよばれることもあるようです。
後に、この作品はマンハイム宮廷楽団のオーボエ奏者フーリドリヒ・ラムに贈られ、モーツァルトの言葉によれば「彼は狂わんばかりに喜んだ」と伝えられています。実際、そのオーボエ奏者はモーツァルトがマンハイムに滞在中に何度もこの作品を演奏しては大いに好評を博し、「これは当地では大変な評判になっていて、ラムさんの十八番となっています」と父親に書き送っています。
しかし、そのオーボエ協奏曲は長く失われたものと思われていました。つまりは、数多くの消失リストの一曲だと考えられてきたのです。
ところが、この失われたと思われていた協奏曲が、モーツァルトがマンハイムで書いたとされるフルート協奏曲の原曲であることが分かったのです。
アインシュタインは「マンハイムで書いたといわれる2番目のフルート・コンチェルト(ニ長調、K.314)は、ほとんど確実に、1777年にザルツブルクのオーボエ奏者ジュゼッペ・フェルレンディスのために書かれたオーボエ・コンチェルトだということがわかっている。 モーツァルトは時間が迫り、金に困っていたので、この曲を性急な注文者ド・ジャンのために、簡単にフルート用に書き換え、その際ハ長調からニ長調へ移調したのである。」と述べているとおりです。
ただし、余談になりますが、このフルート協奏曲に関しては「金に困っていたので、この曲を性急な注文者ド・ジャンのために」という記述は見直す必要があることは最近指摘されるようになっているのですが、その件はフルート協奏曲の項でふれることにしましょう。
確かに、この作品を送られたフーリドリヒ・ラムが狂わんばかりに喜んだと言うのは、決して大袈裟な表現でなかったでしょう。
ここには、オーボエという楽器が持っている魅力を最大限に引き出す美しい旋律と、それを際だたせるためのオーケストラの工夫が随所に散りばめられています。
オーボエが演奏する旋律の美しさに関してはなんの説明も必要ないでしょう。
冒頭楽章ではオーケストラ伴奏の多くは最後が下向きの曲線で終えることでオーボエの独奏の登場をより一層引き立たせます。それ故に、オーボエ奏者は実に気持ちよく己の腕前を喜びを持って披露できるようになっているのです。
また、朗々たるオーケストラの導入部に導かれてオーボエ独奏が登場する緩徐楽章はこの上もなく魅力的です。
しかしながら、今もってオーボエ協奏曲の楽譜は発見されていません。
一体全体、誰がどこにしまい込んだものやら。
管楽器の魅力を存分に発揮させている
コリン・デイヴィスと言えば、貧しい家庭に育ったためにピアノを買うことができず、そのために最も値段の安かったクラリネットで音楽の学習を開始したという話は有名です。そして、ピアノの演奏能力に問題があったために音楽大学では指揮法の履修を断られたという話も、これまた知る人ぞ知る有名なエピソードです。
しかしながら、そう言う境遇にもめげずに、自分たちの仲間内でオケを作って指揮活動を始め、そして、ついにはクレンペラーが病気でキャンセルしたとき(1959年)に、その代役として「ドン・ジョヴァンニ」を指揮して大成功を収めたと言う話も、これまた有名です。
今回紹介した一連の録音(1959年~1960年)は、その成功によって急遽計画されたものではないかと思われます。録音は全てモーツァルトの作品なのですが、それは「ドン・ジョヴァンニ」(コンサート形式)の成功によって注目されたことを考えれば、商業的にはそうならざるを得なかったのでしょう。
そして、「シンフォニア・オブ・ロンドン」というスタジオ録音を専門とするオケであっても、弦楽器の歌わせ方のうまさは充分に感じ取ることができます。もちろん、後年のボストン響のようなふくよかさと透明感が絶妙にマッチしたシルキーな響きとはいきませんが、それでも充分すぎるほどの透明感のある美しさは実現しています。
そんな中でこのオーボエ協奏曲が録音されたのは実に幸運なことでした。もともとが管楽器奏者であるデイヴィスにとって、管楽器の魅力を存分に発揮させることはただの伴奏をこえた喜びだったことでしょう。
そして、オーボエ奏者のレオン・グーセンスは指揮者のユージン・グーセンスの弟です。ちなみに、父親もまた作曲家であり指揮者でもあった人物で、妹はハープ奏者という音楽一家でした。その中でもっとも著名なのは兄のユージン・グーセンスなのでしょうが、レオンもまた、オーケストラの中の楽器であったオーボエをソロ楽器として認知させる上で大きな役割をはたした人物です。その意味では、20世紀前半を代表するオーボエ奏者と言えます。
それ故に、このデイビスとグーセンスと言う組み合わせでこの時期にこの作品が録音されたのは幸運なことでした。
そして、80を超えても元気に活躍していたリン・デイヴィスも、気がつけばなくなってから10年近い歳月が過ぎようとしています。
なるほど、私も年をとるはずです。
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