クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーヴェン:セレナード Op.8

(Cello)レナード・ローズ (Vn)ジョセフ・フックス (Va)リリアン・フックス 1950年録音





Beethoven:Serenade in D major, Op.8 [1.Marcia. Allegro; Adagio]

Beethoven:Serenade in D major, Op.8 [2.Minuet. Allegretto]

Beethoven:Serenade in D major, Op.8 [3.Menueto]

Beethoven:Serenade in D major, Op.8 [4.Adagio]

Beethoven:Serenade in D major, Op.8 [5.Allegretto alla polacca]

Beethoven:Serenade in D major, Op.8 [6.Tema con variazioni. Andante quasi allegretto]


セレナードに新風を吹き込む

この作品はベートーベン初期の人気作品で、彼がウィーンにやってきてすぐにそこに住む人々の情緒にあう音楽語法を身につけたことを証明しています。しかし、それ以上に、従来の「セレナード」のスタイルを基本的には踏襲しながらも、そこにベートーベンならではの新機軸を盛り込んでいるあたりに彼の意気込みも窺われます。

ベートーベンはほぼ同時期に3曲の弦楽三重奏曲を書いているのですが、この同じ楽器編成のセレナードの方は明らかに娯楽的要素の強い音楽になっています。この「セレナード」は一般的なウィーン風の多楽章形式をとり、最初と最後に同一の行進曲風の旋律を持ってくるのはこの手の音楽の作法通りです。

しかしながら、その伝統的作法の中で、第4楽章には「アラ・ポラッカ」という形でポロネース風の音楽を盛り込んでいます。
それ以外にも、題1楽章の行進曲風の音楽の後にソナタ形式によるアダージョを持ってきたり、第3楽章の緩徐楽章にスケルツォ的な音楽を組み込んだりと、今までとは違う音楽を作り出そうとしています。

なお、この手の音楽は最初と最後が必ず行進曲風になっているのがお約束なのですが、それはこれらの音楽が恋人の窓辺で演奏されるという「実用性」があったからだそうです。
つまりは、楽団を率いて演奏しながら恋人の窓辺に近づいてきて演奏をし、中間部では美しい旋律で恋人を魅了し、そして最後は演奏しながら去っていくという「作法」があったからです。ですから、最初と最後は行進曲風であることが求められたのです。

昔の人は「恋の告白」も随分と粋な形で行ったものです。

セレナードらしい茶目っ気みたいなものも見せてくれる


この録音は本当ならばヴァイオリニストのカテゴリに「ジョセフ・フックス」という項目を新しく追加してそこに追加すべきものでしょう。しかし、どうやら、これ以外には彼の作品を追加する機会はほとんどなさそうですし、さらに言えば、これはチェリストのレナード・ローズを追いかけてであった作品なので、取りあえずはレナード・ローズの項目に追加しておきます。

それから、この作品は基本的には5楽章構成と言うことになっているのですが、ローズたちは第1楽章の行進曲とアダージョの部分を二つに分けて6つのトラックにしていますので、それもそのまま採用しました。

ジョセフ・フックスは生粋のニューヨーカーで、妹はヴィオラ奏者のリリアン・フックス、弟はチェリストのハリー・フックスという音楽一家だったようです。そして、アメリカでは音楽教育の重鎮として評価され、尊敬されていたそうです。
面白いのは弟にチェリストのハリー・フックスがいるのだから、3人で演奏すればいいのにと思うのですが、何故かチェリストにローズが呼ばれているのです。おそらくは、レーベルとしてはローズの名前が欲しかったのかもしれません。

しかしながら、音楽の性質上、主導権はヴァイオリンにあって、チェロはあくまでも縁の下の力持ちです。そのあたりが、同じ楽器編成でもモーツァルトの三重奏曲とは根本的に異なるところです。ですから、ベートーベンはこのセレナードでは娯楽音楽に徹して、芸術性の高い音楽としてはほぼ同時期に弦楽三重奏曲に取り組んだのでしょう。

しかし、モーツァルトのあの神品とも言うべき三重奏曲を知ってしまうと、この分野でやれることはほとんどないことを悟ってしまったのでしょうか、それ以後は弦楽四重奏曲の分野にシフトしてしまいます。

それにしても、ここでのジョセフ・フックスは悪くはありません。
縁の下の力持ちがローズという「贅沢」が許されたこともあるのでしょうが、この作品の持っている美しさと新しさを遺憾なく表現しています。そして、音楽教師の重鎮という肩書きから想像される堅苦しさは全くなく、結構あちこちでセレナードらしい茶目っ気みたいなものも見せて、実に楽しく聞けるように仕上げています。

また、録音も50年録音のモノラルとしては極めて優秀です。
結構掘り出し物のような気がします。

よせられたコメント

2021-06-26:toshi


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