クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第2集 作品72

カレル・アンチェル指揮 ベルリン放送交響楽団 1960年6月18日,20日&21日録音





Dvorak:Slavonic Dances Op.72[1.Odzemek. Vivace]

Dvorak:Slavonic Dances Op.72[2.Dumka. Allegretto grazioso]

Dvorak:Slavonic Dances Op.72[4.Dumka. Allegretto grazioso]

Dvorak:Slavonic Dances Op.72[3.Skocna. Allegro]

Dvorak:Slavonic Dances Op.72[5.Spacirka. Poco Adagio?Vivace]

Dvorak:Slavonic Dances Op.72[6.Polonaise. Moderato, quasi menuetto]

Dvorak:Slavonic Dances Op.72[7.Kolo. Allegro vivace (C major)]

Dvorak:Slavonic Dances Op.72[8.Sousedska. Grazioso e lento, ma non troppo, quasi tempo di Valse]


ドヴォルザークの出世作

ドヴォルザークは貧乏でした。
ヴィオラ奏者をしたり、教会のオルガニストをしながら創作活動を続けていましたが、それでも生活は苦しくて、政府からの奨学金を得るために作品を出品をしてなんとか食いつないでいました。
そんなドヴォルザークに転機を与えたのが、この奨学金獲得のために出品していた作品でした。幸運だったのは、審査員の中にブラームスとハンスリックがいたことでした。特に、ブラームスはドヴォルザークの才能を高く評価し、なじみの出版業者だったジムロックに紹介の労をとります。
ジムロックもブラームスからの紹介だと断れなかったのでしょう、早速に「モラヴィア二重唱曲」を出版するのですが、これが予想外に好評で、これをきっかけとしてドヴォルザークの名は広く知られるようになります。

そして、次に企画されたのがブラームスのハンガリー舞曲のような作品で、「スラブ舞曲」として8曲が注文されます。

最初は4手用のピアノ曲集として出版されたのですが、この作品はたちまち人気作品となり、すぐに管弦楽用に編曲されます。
すると、このオーケストラ版も各地のオケが競ってプログラムに取り上げるようになって、ドヴォルザークの名声は世界的に確立されるようになりました。

やはり、人間というのは苦しいときに腐ってしまっては駄目で、そう言うときこそ努力を続けなければいけません。
ドヴォルザークはこの幸運のきっかけとなった奨学金獲得のための作品提出を5年も続けていました。この5年の努力が結果としてブラームスの目にとまることにもなったのでしょうし、おそらくはこの5年の努力が作曲家としてのドヴォルザークの力量を大きく伸ばすことにもなったのでしょう。そして、その実力があったればこそ、ひとたびきっかけを得た後は、そのきっかけを確実な「成功」に結びつけることができたのだと思います。

まさに、スラブ舞曲こそはドヴォルザークの出世作でした。

  1. 第1番:プレスト ハ長調 4分の3拍子

  2. 第2番:アレグレット・スケルツァンド ホ短調 4分の2拍子

  3. 第3番:ポーコ・アレグロ 変イ長調 2分の2拍子

  4. 第4番:テンポ・ディ・ミヌエット ヘ長調 4分の3拍子

  5. 第5番:アレグロ・ヴィヴァーチェ イ長調 4分の2拍子

  6. 第6番:アレグレット・スケルツァンド ニ長調 4分の3拍子

  7. 第7番:アレグロ・アッサイ ハ短調 4分の2拍子

  8. 第8番:プレスト ト短調 4分の2拍子



力強いスラブ舞曲


とにかく力強く、逞しいスラブ舞曲です。オーケストラが手兵のチェコ・フィルではなくてベルリン放送交響楽団であることも関係しているのかもしれません。
しかし、その力強さは決して悪いものではありません。

おそらく、この作品の一つの完成形はセル&クリーブランド管弦楽団によるステレオ録音でしょう。そして、作品に対する基本的なスタンスはこのアンチェルもそれほどの違いはないように思われます。
この両者の演奏にはいわゆるスラブ的な土くささみたいなものが全くなて、スコアをそのまま何の衒いもなく音にしているだけなのに、何故か深い感情がにじみ出てくるところに魅力があります。ただし、アンチェルの演奏にはセルのスタイリッシュさのかわりに力強さが前面に出てくるのです。

そして、不思議な話なのですが、土臭さは排除しているように見えながら、その力強さの奥から「民衆」というものが持っている「強さ」が浮かび上がってくるのです。そして、それはもしかしたら、もっとも奥深いところから表現された「民族性」かもしれません。
なお、アンチェルにはこのベルリン放送交響楽団との録音以外に以下の録音があります。

  1. スラブ舞曲 第1集 作品46:ウィーン交響楽団 1958年録音

  2. スラブ舞曲 第2集 作品72:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1959年12月21日録音


面白いのは手兵のチェコ・フィルと演奏した第2集の方です。これは、ライブ録音なのですが、第1曲からエンジンフル回転で、ティンパニーは轟き、シンバルは炸裂するという熱気溢れる演奏になっています。そして、聴衆も一曲が終わるごとに拍手がわき上がりそのテンションの高まりは尋常ではありません。
こういう録音を聞くとライブとスタジオ録音の違いを痛感するのですが、それでも、普通ならばこの熱気に煽られて最後は暴演になってしまいそうなのに、それでもギリギリのところでオケをコントロールしきっているあたりはさすがはアンチェルだと感心させられます。
ただし、録音の周波数帯域が狭いのでしょう、全体としてくぐもった感じの音質になっているのが残念です。

それに対して、ウィーン交響楽団との第1集の方はベルリン放送交響楽団との録音とそのスタンスはほぼ同一です。60年録音のベルリン放送交響楽団の方もモノラル録音なので、その面での差異もありません。そして、ベルリン放送交響楽団は、放送交響楽団という性質故か響きがニュートラルな傾向があるのに対して、ウィーン交響楽団の方はもう少し色合いが濃いようには感じます。
その色ゆえにか、、音楽の活力と熱気はウィーン交響楽団の方が魅力的かもしれません。、

最後に些か余談かもしれませんが、アンチェルほど悲劇的な人生を強いられた指揮者はいません。
第2次大戦下ではナチスによって家族は収容所で皆殺しにされ、戦後もまた独裁体制に反抗し、アメリカ演奏旅行中におこった「チェコ事件」によって母国を捨てざるを得ませんでした。

しかし、それでも彼の中には民衆が持つ「本当の強さ」への希望があったのかもしれません。このスラブ舞曲ではそう言うアンチェルの願いのようなものが聞こえてくるような気がします。
そして、彼が亡くなった1973年から10数年後に、チェコ・スロヴァキアは流血の惨事を招くことなく民主化を実させました。
その革命は「ビロード革命」と呼ばれ、そこにはアンチェルが希望を託した「民衆」の真の強さが発揮された場面だったように思えてくるのです。

まあ、そこまで書くと深読みが過ぎるかもしれませんが、それでもこの力強いスラブ舞曲は他では聴けない演奏であることは事実です。

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