ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第1集 作品46
ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 1963年~1965年録音
Dvorak:Slavonic Dances Op.46 [Furiant. Presto (C major)]
Dvorak:Slavonic Dances Op.46 [Dumka. Allegretto scherzando?Allegro vivo (E minor)]
Dvorak:Slavonic Dances Op.46 [Polka. Poco Allegro (Am major)]
Dvorak:Slavonic Dances Op.46 [Sousedska. Tempo di menuetto (F major)]
Dvorak:Slavonic Dances Op.46 [Skocna. Allegro vivace (A major)]
Dvorak:Slavonic Dances Op.46 [Sousedska. Allegretto scherzando (D major)]
Dvorak:Slavonic Dances Op.46 [Skocna. Allegro assai (C minor)]
Dvorak:Slavonic Dances Op.46 [Furiant. Presto (G minor)]
ドヴォルザークの出世作
ドヴォルザークは貧乏でした。
ヴィオラ奏者をしたり、教会のオルガニストをしながら創作活動を続けていましたが、それでも生活は苦しくて、政府からの奨学金を得るために作品を出品をしてなんとか食いつないでいました。
そんなドヴォルザークに転機を与えたのが、この奨学金獲得のために出品していた作品でした。幸運だったのは、審査員の中にブラームスとハンスリックがいたことでした。特に、ブラームスはドヴォルザークの才能を高く評価し、なじみの出版業者だったジムロックに紹介の労をとります。
ジムロックもブラームスからの紹介だと断れなかったのでしょう、早速に「モラヴィア二重唱曲」を出版するのですが、これが予想外に好評で、これをきっかけとしてドヴォルザークの名は広く知られるようになります。
そして、次に企画されたのがブラームスのハンガリー舞曲のような作品で、「スラブ舞曲」として8曲が注文されます。
最初は4手用のピアノ曲集として出版されたのですが、この作品はたちまち人気作品となり、すぐに管弦楽用に編曲されます。
すると、このオーケストラ版も各地のオケが競ってプログラムに取り上げるようになって、ドヴォルザークの名声は世界的に確立されるようになりました。
やはり、人間というのは苦しいときに腐ってしまっては駄目で、そう言うときこそ努力を続けなければいけません。
ドヴォルザークはこの幸運のきっかけとなった奨学金獲得のための作品提出を5年も続けていました。この5年の努力が結果としてブラームスの目にとまることにもなったのでしょうし、おそらくはこの5年の努力が作曲家としてのドヴォルザークの力量を大きく伸ばすことにもなったのでしょう。そして、その実力があったればこそ、ひとたびきっかけを得た後は、そのきっかけを確実な「成功」に結びつけることができたのだと思います。
まさに、スラブ舞曲こそはドヴォルザークの出世作でした。
- 第1番:プレスト ハ長調 4分の3拍子
- 第2番:アレグレット・スケルツァンド ホ短調 4分の2拍子
- 第3番:ポーコ・アレグロ 変イ長調 2分の2拍子
- 第4番:テンポ・ディ・ミヌエット ヘ長調 4分の3拍子
- 第5番:アレグロ・ヴィヴァーチェ イ長調 4分の2拍子
- 第6番:アレグレット・スケルツァンド ニ長調 4分の3拍子
- 第7番:アレグロ・アッサイ ハ短調 4分の2拍子
- 第8番:プレスト ト短調 4分の2拍子
モノラル録音とは余裕が漂う
セルのスタジオ録音ですでにパブリック・ドメインとなっているものの中でもかなり大きな取りこぼしだったのがこの「スラブ舞曲集」です。
どうして、今までこれを取りこぼしていたのかというと理由は二つあります。
一つは、すでにモノラルでスタジオ録音された「スラブ舞曲集」はアップしてあったので、それでステレオ録音の方もすでにアップ済みだと勘違いしていたことです。
二つめは、その事に気づいた少なくないユーザーの方からステレオ録音の方もアップして欲しいと要望を受けたのですが、何故かそのような要望が立て続けにきたので、性格が基本的に天の邪鬼な為に(^^;、逆に後回しになってしまったのです。
子供でよくいますよね。
勉強もしないでだらだらしているので親から「はやく宿題を済ませなさい」なんて言われると、「今やろうと思っていたのに、そんな事を言われると逆にやる気がなくなってしまう」と文句を言うガキです。もちろん、そう言うガキは言わない限り絶対にやらないので言わないとだめなのですが・・・。
まあ、私もそれに似たようなもので(^^;、さすがにそろそろアップしないとまずいかなと思った次第です。
ただし、演奏に関するコメントはすでにモノラルの録音に感じたこととそれほど大きな違いはありません。時を隔てても作品への解釈が驚くほどぶれないのがセルという指揮者ですから、それは当然と言えば当然のことです。
手抜きで申し訳ないのですが、モノラル録音をアップしたときに以下のような感想を記していました。
聞いてすぐに分かるのは、彼の演奏にはいわゆるスラブ的な土くささみたいなものが全くないと言うことです。実にすっきりとしていて聞いていて実に気持ちがいいです。
ぼんやり聞いていると、スコアをそのまま何の衒いもなく音にしているだけなのに、どうしてこんなにも深い感情がにじみ出してくるのだろう、と不思議になってくるような演奏です。
ところが、よく注意して聞いてみると、一見何もしていないように見えながら、実はいろんな事をしているのに気づかされます。
まずは、各パートの響かせ方が絶妙です。もしも手元にスコアがあるならばそれを見ながら聞いて欲しいのですが、ごく些細な装飾音なども一切ごまかすことなく鳴らしきっています。結果として、他のコンビでは絶対に聴くことのできない強靱でありながら磨きぬかれた響きで全体が構成されています。
次に、気づくのは、微妙なルパートによってセル独自のニュアンスが作品に与えられていることです。ただし、このルパートはあまりにも微妙なので、ぼんやり聞いていると何もしないで淡々と演奏しているだけのように聞こえます。しかし、本当に何もしていないのならば、こんなにも深い情感が立ちのぼってくることは絶対にありません。
それぞれの舞曲に与えられた微妙なニュアンスはまさにセルによって考え抜かれたもので、その解釈はモラルもステレオもそれほど大差がないように思います。
ただし、50年代の中頃というのはセルとクリーブランド管の関係は極めて高い緊張感を維持していた時期です。
セルは己の思想とする響きに向けて情け容赦なくな要求を突きつけ、オーケストラもその要求に必死で食いついていた時期です。しかし、それも60年代の中頃になると、クリーブランド管はセルの楽器として完成形をむかえます。
つまりは、セルが強引にオケをコントロールしなくても、クリーブランド管は余裕を持ってセルの要求に応えられるレベルにまで成熟していたのです。ですから、基本的な解釈は変わらなくても、このステレオ録音からは余裕を持って演奏している雰囲気が漂います。そして、セルもその事に安心して、彼が持つこれらの作品への愛情をより色濃く表出することに躊躇いを感じていないように思えるのです。
それともう一つ不思議だったのが、このステレオ録音の録音クレジットです。
モノラルの時は第1集と第2集をそれぞれ日は改めながら一気に録音しています。全曲録音をしてレコードとしてリリースするならばそれが当たり前です。
ところが、このステレオ録音の方は第1集と第2集が日を変えて、数曲ずつバラバラで録音されているのです。
スラブ舞曲 第1集 作品46
- 1963年1月4日~5日録音(No.1,No.3)
- 1964年10月24日録音(No.6,No.8)
- 1965年1月22日録音(No.2,No.7)
- 1965年1月29日録音(NO.4,No.5)
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第2集 作品72
- 1963年1月4日~5日録音(10,No.15)
- 1964年10月17日録音(No.12)
- 1965年1月22日録音(No.11,No.13,No.16)
- 1965年1月29日録音(NO.9,No.14)
ここからは、私の全くの空想であり、何の裏付けもないことです。
セルの録音スタイルは概ね以下の通りです。
レーベルからの録音依頼→セルがその依頼を気に入ればコンサートのプログラムに取り入れる→リハーサル→本番→レコーディング
おそらくこれがもっとも手間暇をかけずに録音を済ませる事が出来るやり方だったのでしょう。録音に臨むときにはすでに出来上がっているのですから。
しかし、どうやら「スラブ舞曲集」の全曲録音というのはセルにとってはあまりプログラムの中に取り入れたくはなかったのでしょう。それは、何となく分かるような気はします。
しかし、録音としては残したいという気持ちもあったようです。そうでなければ、このように手をかけて録音することはありません。
となると、一つ想像できるのはコンサートのアンコール・ピースとして計画的にスラブ舞曲集から何曲かを選び出していたという可能性です。そして、それが一定の曲数になる旅たびに一気にアンコール・ピースとして取り上げた作品を録音したと言うことです。
そうなると、セルとクリーブランド管はアンコール・ピースまでキッチリとリハーサルを行って「完璧」を期していたと言うことになります。
まあ、事実かどうかは時間をかけて調べないといけないのでしょうが、このコンビならば十分すぎるほどにあり得る話です。
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