ヒンデミット:弦楽四重奏曲第4番
ハリウッド弦楽四重奏団 1951年4月2日~3日録音
Hindemith:String Quartet No.4, Op.22 [1.Fugato. Sehr langsame Viertel]
Hindemith:String Quartet No.4, Op.22 [2.Schnelle Achtel. Sehr energisch. Presto]
Hindemith:String Quartet No.4, Op.22 [3.Ruhige Viertel. Stets fliesend]
Hindemith:String Quartet No.4, Op.22 [4.Masig schnelle Viertel]
Hindemith:String Quartet No.4, Op.22 [5.Rondo. Gemachlich und mit Grazie]
第一次世界大戦に従軍した暗い記憶が刻み込まれている
ヒンデミットという人は弦楽四重奏団(アマール弦楽四重奏団)のヴィオラ奏者としても活躍していたので、その生涯において7曲もの弦楽四重奏曲を残しています。
それ以外にも、弦楽四重奏で演奏される「朝7時に湯治場で二流のオーケストラによって初見で演奏された『さまよえるオランダ人』序曲」という、ふざけているとしか思えないような作品も残しています。
そんな数多い弦楽四重奏用の音楽の中でもっとも有名で、演奏機会が多いのが1921年に作曲されたこの第4番の弦楽四重奏曲です。
ヒンデミットは虚弱な体質であり、さらには心臓に疾患もあったので兵役検査を受けたものの不合格となって兵役をまぬがれます。
しかし、ヒンデミットの父親は1915年にフランスの前線で殺害され、さらには1917年には人員不足に陥ったことで虚弱体質のヒンデミットも徴兵されてしまいます。
当初は配属された部隊の指揮官がヒンデミットの音楽的才能を認めて軍楽隊に配属してくれました。
しかし、1918年には西部戦線に送られ、膨大な数の兵士が死んでいく姿を目の当たりにして大きな衝撃を受けます。
ですから、1920年と1921年に作曲された3番と4番の弦楽四重奏曲には第一次世界大戦に従軍した暗い記憶が刻み込まれているそうです。
ちなみに、1918年に作曲されている「弦楽四重奏曲第2番 ヘ短調 Op.10」は軍楽隊時代の作品だそうです。
- 弦楽四重奏曲第3番 ハ長調 Op.16(1920年)
- 弦楽四重奏曲第4番 Op.22(1921年)
なお、この第4番とこれに続く第5番(1923年作曲)には調性が記されていません。
しかし、聞けば分かるように、シェーンベルクに代表されるような「無調」の音楽とは明らかに異なります。ヒンデミットはシェーンベルクが主張していた「無調」という概念に対しては明確に否定的な立場を表明していましたから、それは当然といえば当然のことでした。
ですから、「調性」が記されていないというのは「無調」だというわけではなくて、音型だけを見れば調性をもった普通の音楽のように聞こえるのに、和声としてみたときにはなんだか変というヒンデミットの特徴があらわれたものだと言えます。
その和声的に見ればなんだか変というあたりが調性が記されていない理由のようです。
理屈ではなくて、音楽そのものへの熱い共感が溢れている
どちらかと言えば取っつきにくい、いや、どう考えても取っつきにくいのが20世紀に生み出された室内楽です。とりわけ20世紀の弦楽四重奏曲などというのは、そう言う取っつきにくい音楽の最たるものでしょう。
もっとも、ヒンデミットの作品というのはそんな中にあって割合に聞きやすい部類にはいるのでしょうが、それでもロマン派までの音楽と較べればかなり抵抗感は感じます。
ところが、そんな取っつきにくい作品であるにもかかわらず、ハリウッド弦楽四重奏団は圧倒的な力業でこの作品をねじ伏せてしまって、不思議なほどの面白さを聞き手に味あわせてくれるのです。
ハリウッドの映画スタジオで毎日演奏している彼らにしてみれば、このような時代の先端を走るような音楽はもっとも縁遠いところにある音楽です。
それ故に、彼らにしてみれば日頃の鬱憤を晴らす上ではもっとも取り組んでみたい音楽でもあったのでしょう。
ここには、生き生きとした喜びに満ちた感情が横溢しています。
みんなこういう音楽を分かんないなんて言うけどさ、僕たちの演奏で是非とも聞いてみてよ!!
すっごく面白いんだから!!
妄想かもしれないのですが、そう言う声が聞こえてきそうな演奏なのです。
ですから、ここには理屈ではなくて、音楽そのものへの熱い共感が溢れています。
「ヒンデミット」と「弦楽四重奏曲」という商品タグを見ただけでもとの棚に戻してしまいたくなる人もいるかとは思うのですが、是非とも最後まで聞き通してみてください。
不思議なほどの楽しさと爽快感を与えてくれる演奏であることに気づかれるはずです。
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