スッペ:序曲集
ゲオルク・ショルティ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1951年4月録音
Suppe:Light Cavalry, Overture
Suppe:Morning, Noon and Night in Vienna, Overture
Suppe:Pique Dame, Overture
Suppe:Poet And Peasant, Overture
ウィーンオペレッタの父
存命中はウィーンを中心に指揮活動を展開し、100を超えるオペレッタやバレエ音楽を作曲しました。
実はウィーンでオペレッタを作曲した最初の人はこのスッペであって、「ウィーンオペレッタの父」と呼ばれることもあります。しかし、彼の死後、それらの作品のほとんどは忘れ去られ、現在では演奏される機会はほとんどありません。
おそらくは、「詩人と農夫」や「軽騎兵」序曲などで一般によく知られているくらいです。
しかしながら、日本では歌劇「ボッカチオ」の中の「恋はやさし野辺の花よ」が浅草オペラのスター歌手だった田谷力三によって歌われて有名になった過去があります。
また、喜劇役者だった榎本健一がこの歌劇の中の「ベアトリーチェ」を「ベアトリ姐ちゃん」とタイトルを変えて大ヒットしますから、多くの人に好まれる旋律を生み出す能力はあった人なのでしょう。
さらに言えば、「軽騎兵」序曲に代表されるように、オーケストラの威力を誇示するにはピッタリの音楽もたくさん書いているので、大衆受けする能力にも溢れていたと言うことです。
彼の経歴を少し調べてみると、最初は音楽家になることを反対されて法律の勉強をイタリアのパドヴァで行ったようです。しかし、反対していた父親が亡くなると母方の祖父の住むウィーンに移り住んで音楽院で学び始めます。そして、1840年から新設されたばかりのヨーセブ・シュタット劇場の指揮者となると同時に作曲活動も始めます。
その後はとんとん拍子だったようで、ウィーンの名門劇場であるアンデアウィーン劇場でイタリア・オペラの指揮を始めると同時に、民族劇「詩人と農夫」の付随音楽で大成功をおさめます。
さらに、当時パリで大人気だった、オッフェンバックのオペレッタがウィーンで上演されると、それに刺激を受けてオペレッタ「寄宿学校」を作曲します。一般的にはこれがウィーン最初のオペレッタだと言われています。
そして、その後もオッフェンバックの「美しきヘレナ」に対抗して「美しきガラテ」を作曲したり、また「軽騎兵」や「ファティニッッァ」などの数多くのオペレッタを作曲して莫大な報酬を得るようになります。
しかしながら、「ファティニッッァ」の大成功以降はあまりパッとしなかったようで、やがて現役を引退していレクイエムなどの宗教音楽の創作に没頭したと言うことです。
しかし、哀しいことに、それらの作品の大部分は今日では殆ど忘れ去られ、幾つかの序曲だけがコンサートのプログラムにのるだけになってしまっているのです・・・と言うのが、スッペの締めとしてよく書かれるのですが、実際はヨーロッパの劇場ではけっこうしぶとく上演される機会があるようなのです。
おそらくは、気楽に一夜の楽しみとして聞く分は十分なクオリティは持っていると言うことなのでしょう。
ここに20世紀を代表した「ショルティ・サウンド」の原点がある
ショルティがDeccaの「試験」に合格をして、はじめてのぞんだ録音がハイドンの交響曲第103番とスッペおよびロッシーニの序曲集でした。そして、その中で何よりも注目すべき録音がこのスッペの「序曲集」です。
それは、最終試験として録音されたコダーイの「ハーリ・ヤーノシュ」とは別人のような音楽作りであり、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との初録音となったハイドンの「太鼓連打」では手探りであった方向性がより明確に意識されて具現化されたものでした。
そして、その録音はDeccaが予想した以上に商業的な成功もおさめたようで、ショルティにとってはこれからのキャリアを築いていく上での貴重な第一歩となった録音だったのです。
それでは、その手探りであった方向性とは何でしょうか。
それはハイドンの時にあってはかなり不徹底なものだったのですが、このスッペにあっては誰の耳にもあっても明らかになっているものです。
まず一つめは、オーケストラに対する強力なドライブです。
そこに存在しているのは、音楽の流れに沿って自然にオーケストラを導いていく様な「紳士」的な態度は微塵も存在せず、あるのはオーケストラの鼻面をつかんで自分のいきたい方に向かって引きずり回していく強引さです。
そして、二つめが、誰かが指摘していたことだと思うのですが、そう言う強引なドライブによって音楽に内在する感情的な動きを一切無視するような場面があちこちに存在する事です。しかし、結果としてそう言う「情」を意図的に無視することによって、その音楽が持っている内的な構造というか、骨格のようなものをあからさまにさらけ出す事に成功しているのです。
それは、フルトヴェングラーに代表されるような、音楽に内包される感情のうねりのようなものをドラマティックに描き出していく作り方とは真逆の方向性でした。いや、それはもっとより強く、そう言う音楽のあり方に異議を申し立てるような音楽であったのです。
そして、その方向性というのはトスカニーニに代表されるような即物主義的な音楽であったことは言うまでもないのですが、それは「即物主義」という言葉をもっと無慈悲なまでに徹底した音楽になっているのです。
芸人というのは人と違うことをやらなければ意味がありませんし、大きな成功をおさめることは出来ません。
どれほど優れた物まね芸人であっても、物まねをの対象を凌駕することは絶対に不可能なのです。
この無慈悲なまでの即物性こそがショルティの独自性になったのです。
そして、このDeccaとの最初のプロジェクトでの成功で確信したのだと思います。
ショルティが後にカラヤンと双璧を為す存在に上りつめたのは、そこで確信したことに対して、どれほどの非難と批判を浴びせかけられようと死ぬまでぶれなかったからでしょう。
そう言えば、ショルティに奉られたあだ名に「Perfect Studio Animal」というのがあったそうです。つまりは、彼もまたカラヤンと同じくらいに「録音」というものが独自に持っている「意味」を知っていたと言うことであり、さらに言えばそれがキャリアを築いていく上でどれほど大きな「価値」を持っているかについても知り尽くしていたのです。
ですから、ショルティが確信犯的につくり出した独自のサウンドと音楽を、それとはおそらくは真逆であろうフルトヴェングラー的な世界から眺めて駄目出しをしても意味はないのです。
考えてみればすぐに了解できることですが、このショルティの方法論を成功させるためには、オーケストラに対しては恐ろしいまでの「Perfect」さが要求されます。
そして、カラヤンが己の美学を完成させるために長い時間をかけてベルリンのオケを飼い慣らして鍛え上げたように、ショルティもまたシカゴのオケを徹底的に鍛え上げて自らの手足と為したのです。
しかし、そういう事までここで触れるのはいささか話が先に走りすぎています。
取りあえずは、ここに20世紀を代表した「ショルティ・サウンド」の原点があることだけは確認しておきましょう。
スッペ:序曲集
スッペ:「軽騎兵」序曲
スッペ:「ウィーンの朝・昼・晩」序曲
スッペ:「スペードの女王」序曲
スッペ:「詩人と農夫」序曲
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