ドリーブ:バレエ音楽「コッペリア」
アンタル・ドラティ指揮 ミネアポリス交響楽団 1957年12月21日~22日録音
Delibes:Coppelia Act1 [Prelude]
Delibes:Coppelia Act1 [No.1: Valse]
Delibes:Coppelia Act1 [No.2: Scene]
Delibes:Coppelia Act1 [No.3: Mazurka]
Delibes:Coppelia Act1 [No.4: Scene]
Delibes:Coppelia Act1 [No.5: Ballade]
Delibes:Coppelia Act1 [No.6: Theme slave varie]
Delibes:Coppelia Act1 [No.7a* Czardas: Danse hongroise]
Delibes:Coppelia Act1 [No.7b: Sortie]
Delibes:Coppelia Act1 [No.8: Final]
Delibes:Coppelia Act2 [Entr'acte]
Delibes:Coppelia Act2 [No.9: Scene]
Delibes:Coppelia Act2 [No.10: Scene]
Delibes:Coppelia Act2 [No.11: Musique des Automates]
Delibes:Coppelia Act2 [No.11 bis: Scene]
Delibes:Coppelia Act2 [No.12: Scene]
Delibes:Coppelia Act2 [No.13: Chanson a Boire et Scene]
Delibes:Coppelia Act2 [No.14a: Scene et]
Delibes:Coppelia Act2 [No.14b: Valse de la Poupee]
Delibes:Coppelia Act2 [No.15: Scene]
Delibes:Coppelia Act2 [No.16: Bolero]
Delibes:Coppelia Act2 [No.17: Gigue]
Delibes:Coppelia Act2 [No.18: Scene]
Delibes:Coppelia Act3 [No.19: Marche de la Cloche]
Delibes:Coppelia Act3 [No.20: Fete de la Cloche-Divertissement. (1) Valse des Heures]
Delibes:Coppelia Act3 [No.20: Fete de la Cloche-Divertissement. (2) L'Aurore]
Delibes:Coppelia Act3 [No.20: Fete de la Cloche-Divertissement. (3) La Priere]
Delibes:Coppelia Act3 [No.20: Fete de la Cloche-Divertissement. (4) Le Travail (La Fileuse)]
Delibes:Coppelia Act3 [No.20: Fete de la Cloche-Divertissement. (5) L'Hymen (Noce Villageoise)]
Delibes:Coppelia Act3 [No.20: Fete de la Cloche-Divertissement. (6) La Discorde et la Guerre]
Delibes:Coppelia Act3 [No.20: Fete de la Cloche-Divertissement. (7a) La Paix]
Delibes:Coppelia Act3 [No.20: Fete de la Cloche-Divertissement. (7b) Danse de Fete]
Delibes:Coppelia Act3 [No.20: Fete de la Cloche-Divertissement. (8) Galop Final]
他愛ない話の中に含まれるかけがえのない真実
「コッペリア」はホフマンの小説「砂男」を原作としたバレエ音楽です。
ホフマンの小説は幼い頃の恐怖の対象であった「砂男」という存在をベースとして、その存在を介して一人の青年が人形に恋をすることによって狂気に陥っていくというかなりグロテスクな物語です。ドリーブはこの小節からその様なグロテスクな部分を綺麗にぬぐい去り、軽快なコメディ風のバレエに仕立て直したのが「コッペリア」でした。
主な登場人物は以下の通りです。
- スワニルダ:村の娘、フランツの恋人
- フランツ:村の青年、人形と知らずにコッペリアに恋をする
- コッペリウス:コッペリアを造った博士
- コッペリア:コッペリウス博士が造った自動人形
スワニルダとフランツは恋人同士で結婚を間近に控えているのですが、フランツは最近、人形作り職人コッペリウスの家の窓辺にたたずむコッペリアのことが気になって仕方がありません。
そして、そんなフランツの姿にスワニルダは焼き餅を焼いてしまい大喧嘩となってしまいます。
腹の虫が治まらないスワニルダは、コッペリウスが留守の時を狙って友人達と家に忍び込んでコッペリアをの正体を探ろうとします。
そして、薄暗い室内にはさまざまな人形たちが所狭しと並べられていて、コッペリアもまた人形だったと気づきます。
その時、コッペリウスが帰ってきて彼らは追い出されてしまうのですが、スワニルダだけは上手く部屋の中に身を隠します。
そこへ、コッペリアに会いたい一心のフランツが梯子伝いに窓から忍び込んできます。
そんなフランツもコッペリウスに見つかってしまうのですが、彼がコッペリアに心を寄せていることを知ったコッペリウスは、フランツの魂を抜きだしてコッペリアに移し替えて彼女を完璧な人間にしようとします。
怪しげな酒を飲まされたフランツは次第に意識をなくし、それに会わせてコッペリアは少しずつ人間らしくなっていきます。
それを見たコッペリウスは大喜びをするのですが、実はそれはコッペリアに化けたスワニルダだったのです。
やがてスワニルダが化けたコッペリアはコッペリウスをからかいはじめ、さらに悪戯の限りを尽くします。
そして、眠っていたフランツをたたき起こし、たたき起こされたフランツもコッペリアの正体を知って二人は仲直りをします。
その翌日、村では領主も臨席して鐘の奉納の祭りが行われ、その祭りの中で仲直りをしたフランツとスワニルダ結婚式が行われます。
そこへコッペリウスが乗り込んできて、コッペリアを壊された損害を賠償しろとスワニルダに迫ります。
しかし、領主が彼らの間を取りなし、さらにはコッペリウスにも金一封を与えたため、納得はしないながらもコッペリウスは二人を許して帰っていきます。
やがて祝宴も本番となり、「時のワルツ」「あけぼの」「祈り」「仕事(糸を紡ぐ娘)」「結婚(婚約者たち)」「戦い(戦士たちの行進)」「平和(パ・ド・ドゥ)」「祭りの踊り(スワニルダのパ・スル)」と踊りが続き、最後は登場人物全員によるギャロップでフィナーレを迎えます。
しかし、原作がかなりシリアスでグロテスクな内容を含んでいるために、最近はそちらにシフトした演出も行われています。
例えば、コッペリウスはよりマッド・サイエンティストの色合いを濃くし、コッペリアはかつて愛した女性のイメージに命を与えようとした存在になったりします。そして、そういう怪しげなコッペリウスにスワニルダがひかれていくという原作とは逆の関係でストーリーが展開していきます。
オペラでも演出によってイメージが随分と変わるのですが、言葉を持たないバレエだとその振り幅はより大きくなると言うことなのでしょうか。
ただし、こういう「子供向け」の他愛ない話を大人の観賞にも堪えるように仕立て直しましたというのは、決して「スタンダード」にはならないですね。何故ならば、そう言う他愛なさの中にももう一つのかけがえのない「真実」が存在しているからでしょう。
そして、きっと、例えばチャイコフスキーの「くるみ割り人形」に対して「寝ててもいいような作品だがチャイコフスキーの音楽はやはり素晴らしい」と切って捨てるような人にはそう言う「真実」は決して姿を見せようとはしないのでしょう。
生真面目でありながら聞かせどころはキッチリと聞かせてくれるサービス精神にも欠けていない
以前に少し書いたことがあるのですが、バレエ音楽を聞くといつも思い出す情景があります。
随分昔の話ですが、冬のウィーンを訪れたときに国立歌劇場で「くるみ割り人形」を見る機会に恵まれたことがあります。
劇場に入って、すぐにいつもとは全く雰囲気が異なることに気づきました。
子供が圧倒的に多いのです。
チケットは一階平土間の中央だったのですが、前の席にもかわいらしい女の子がちょこんと座っていました。
フランス圏は特にそうなのですが、一般的にヨーロッパ社会では幼い子供に対するしつけは非常に厳しく、このウィーンでも開演前に劇場を走り回っているというような大馬鹿野郎のガキは一人もいませんでした。
前に座っていた女の子も実に行儀良く、静かに開演を待っていました。
演奏も素晴らしく、舞台のしつらえも豪華絢爛で、観客に子供が多いからと言って一切の手抜きなし、それどころかいつもよりオケのメンバーは気合いが入っていると感じるほどの熱演でした。
しかし、そんなこと以上に、驚かされたのが前に座っていた女の子です。
最初は行儀良く座っていたその女の子は舞台が始まると少しずつ姿勢が前のめりになり、その後はいささか行儀は悪いかもしれませんが前の座席の背もたれを両手で握りしめて、最後まで身じろぎもしないで舞台を見つめ続けていました。
正直言って、こりゃ、かなわんなと思いました。
もちろん、今や日本にもたくさんのバレエ教室があり、その中からすぐれた踊り手が登場して世界的なコンクールで優秀な成績を収めています。
しかし、そう言う報道を聞くたびに思い出すのは、背もたれを両手で握りしめて身じろぎ一つしないで舞台を見つめ続けていたあの女の子の姿です。
教室で技術を身につけることはできるでしょう。しかし、人を感動させる芸術的営みというものは、その技術の向こう側にあります。
その向こう側に到達していくためには、やはり彼我の間には大きな隔たりがあり、日本の子供たちは大きなハンデを背負わざるを得ないことが本当にかわいそうだと思いました。
さらに一言嫌みを付け加えれば、そんな日本のバレエ指導者の中には、チャイコフスキーのくるみ割り人形のことを「寝ててもいいような作品」と切って捨てるような人もいるのですから、どうにもこうにも救われませんよね。
子供向けの他愛ない話の中にあの女の子が感じとった「真実」は、知識を詰め込んだ大人には見えなくなると言うことなのでしょうか。
さて、ドラティです。
ドラティの演奏は一言で言えば「楷書」。
しかし、その「楷書」的要求に余裕で応えているミネアポリスのオケも素晴らしい。
さらに言えば、その「楷書」の演奏を細大もらさず「楷書」的に音を拾っているマーキュリーの録音が特に素晴らしい。
あまり語られることが少ないのですが、ドラティが指揮者としての出発点となったのがバレエの指揮者でした。
1935年にモンテカルロ・バレエ・リュスの副指揮者の職を得たのを振り出しに、やがてそこが分裂すると、ド・バジル大佐が率いるオリジナル・バレエ・リュスで指揮者を勤めます。
指揮者の世界ではバレエ指揮者というのはなんだか一段低く見られる風潮があるようなのですが、若い頃のそういう劇場での経験が生かされていて、生真面目でありながら聞かせどころはキッチリと聞かせてくれるサービス精神にも欠けていません。
しかし、一つだけ不幸だったのは、この録音はフィストラーリの「シルヴィア」とカップリングしてリリースされたことです。
二つを比較して優劣を云々するのは好きではないのですが、はっきりと言えるのはフィストラーリというのは天性のバレエ指揮者だったと言うことです。
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