クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

リヒャルト・シュトラウス:組曲「ばらの騎士」

ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1955年4月~5月録音



Richard Strauss:Der Rosenkavalier, suite, TrV 227d


ロジンスキーによる編集版

「薔薇の騎士」はシュトラウスの作品の中でも最高の傑作と評されているのですが(^^;、これを最初から最後まで聞き通すのはかなりの困難を強いられます。何故ならば、普通のペラというのはレチタティーヴォとアリアが適当に混ざり合っているので、レチタティーヴォの部分で何を言っているのか分からなくても、アリアの部分にくれば楽しく聞くことが出来るものです。
つまりは、何を言っているのか皆目分からなくても、少し我慢していれば楽しいアリアの時間がやってくるので、それなりに楽しく最後まで聞き通すことが出来る仕掛けになっているのです。

ところが、この「薔薇の騎士」にはアリアと言えるような部分は1曲しかありません。逆に会話のような部分が延々と続き、その部分の音楽もまた耳に印象深く残るような部分は少ないのです。
とは言え、そこでシュトラウスは己の管弦楽法の能力をフルに発揮して、オーケストラが歌以上に雄弁に物語っていくのです。

ならば、そう言うオーケストラの美味しい部分を抜き出して管弦楽曲にした方が楽しいだろうというのは、当然の発想として出てくるのです。
そこで、オペラの中で人気の高かったワルツを適当に組み合わせた作品が作られたのですが、さらにはロジンスキーによってオペラの展開に従って聞かせどころを上手くつなぎ合わせた編集版が作られました。この編集版はシュトラウスの音楽を上手く切り貼りしたものでオーケストレーションの部分に関してもほとんど変更を加えていません。なので、その編集作業は作曲家本人には全くあずかり知らないところで行われました。

ただし、この編集作業は実に巧妙に行われていて、さらには組曲と言いながら全曲は切れ目なく演奏されるので、雰囲気としては交響詩「薔薇の騎士」みたいに聞こえます。

今日では、組曲「薔薇の騎士」と言えばシュトラウスの手になるワルツ版ではなくこちらの編集版を指すのが一般的です。

3時間を超える長大なオペラが見事に20分に短縮されています


ウェストミンスターはよくぞこの録音を残してくれたものです。
もちろん、この翌年(1956年)からはウェストミンスターもステレオによる録音をはじめるので、出来ればステレオ録音で残ってくれればもっと良かったのですが、まあ、これ以上贅沢を言うのはやめましょう。

この「組曲」のポイントは「編曲」ではなくて「編集」となっているところです。
そして、その「編集」作業をゆだねられたのがこのロジンスキーなのです。

ロジンスキーはシュトラウスのオーケストレーションに対してほとんど手を加えていません。
ほぼオペラの流れに沿って「切り貼り」作業を行い、最後に小さなコーダを新しく追加しているだけです。
ですから「編曲」ではなくて「編集」となるわけです。

ただし、その「切り貼り」作業がいかに見事なものだったかは、この「組曲」を聞いてみればよく分かります。
3時間を超える長大なオペラが見事に20分に短縮されています。

しかし、その20分で、まるでこのオペラを聞き通したかのような満足感があります。

ですから、いささか取っつきの悪いこのオペラの全曲をはじめて聞くときは、事前にこの「組曲」を聞いておくべきなのです。そして、出来れば、この「組曲」のどの部分がオペラのどの部分に該当するのかをチェックしておけば、随分と聞きやすくなるはずす。

そう言えば、ワーグナーの長大な「指輪」を聞くときは、セル&クリーブランド管による管弦楽版を聞いておけばいいのとよく似ています。
あの管弦楽版の旋律を頭に叩きこんでおけば、長大なオペラの中でそのなじんだ旋律とであうことが大きな道案内となります。
それと全く同じ事がこの「組曲」にも言えるでしょう。

そして、その「編集」作業を行ったのがロジンスキーなのですから、これ以上の道案内はありません。

まさに、この「組曲」は歌抜きのハイライト版とも言うべき仕様なのですが、シュトラウスはその持てる能力をフルに生かしてすべての歌にオーケストラを添わせていますから、歌がなくてもオーケストラはまるで歌があるかのように歌い上げてくれます。
そして、ロジンスキーの歌わせ方は実に見事なのです。

もちろん、それに応えるロイヤル・フィルはオペラの演奏はそれほど経験のないオーケストラだと思うのですが、ロジンスキーの指揮に律儀に従うことで見事な成果を収めています。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-04-30]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第5番 ヘ長調 K.158(Mozart:String Quartet No.5 in F major, K.158)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-04-28]

リスト:「ドン・ジョヴァンニ」の回想, S418(Liszt:Reminiscences de Don Juan, S.418)
(P)チャールズ・ローゼン 1963年12月録音(Charles Rosen:Recorded on December, 1963)

[2024-04-26]

ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ「美しく青きドナウ」 op.314(Johann Strauss:The Blue Danube, Op.314)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

[2024-04-24]

ベートーヴェン:ディアベリ変奏曲, Op.120(Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120)
(P)ジュリアス・カッチェン 1953年録音(Julius Katchen:Recorded on 1953)

[2024-04-22]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第4番 ハ長調 K.157(Mozart:String Quartet No.4 in C major, K.157)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-04-20]

ショパン:バラード第3番 変イ長調, Op.47(Chopin:Ballade No.3 in A-flat major, Op.47)
(P)アンドレ・チャイコフスキー:1959年3月10日~12日録音(Andre Tchaikowsky:Recorded on Recorded on March 10-12, 1959)

[2024-04-18]

エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調, Op.85(Elgar:Cello Concerto in E minor, Op.38)
(Cello)アンドレ・ナヴァラ:サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1957年録音(Andre Navarra:(Con)Sir John Barbirolli:Halle Orchestra Recorded on 1957)

[2024-04-16]

フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッティ 1947年5月7日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Recorded on May 7, 1947)

[2024-04-14]

ベートーヴェン:序曲「コリオラン」, Op.62(Beethoven:Coriolan, Op.62)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1945年6月1日録音(Arturo Toscanini:NBC Symphony Orchestra Recorded on June 1, 1945)

[2024-04-12]

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第3番 ト長調 K.156/134b(Mozart:String Quartet No. 3 in G Major, K. 156)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

?>