クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

Carl Schuricht Dirigiert Romantische Ouverturen

カール・シューリヒト指揮 南西ドイツ放送交響楽団 1960年&1962年9月録音



Mendelssohn:Ouverture "Die Hebriden"

Mendelssohn:Ouverture "Die SchoNe Melusine"

Mendelssohn*Ouverture "Ruy Blas"

Nicolai:Overture "The Merry Wives of Windsor"

Weber:Overture "Oberon"


Carl Schuricht Dirigiert Romantische Ouverturen

収録曲


  1. メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」

  2. メンデルスゾーン:序曲「美しきメルジーネの物語」

  3. メンデルスゾーン:序曲「ルイ・ブラス」

  4. ニコライ:序曲「ウィンザーの陽気な女房たち」

  5. ウェーバー:序曲「オベロン」




「フィンガルの洞窟」だけは
南ドイツ放送交響楽団(管轄する放送局の分離統合等によってシュトゥットガルト放送交響楽団→南西ドイツ放送交響楽団と名称変更) 1960年録音
です。


この辺りの放送局に所属するオーケストラの名称は分離統合によって変更が繰り返されて非常にややこしくなっています。
ここでは取りあえず、南西ドイツ放送交響楽団という名称を使っておいたのですが、厳密に言えば「間違い」です。

ややこしさの原因は、シュトゥットガルトを州都とするバーデン=ヴュルテンベルク州に「南西ドイツ放送(SWR)」とアメリカ占領軍により創設された「南ドイツ放送(SDR)」という二つの公共放送が存在し、それぞれが専属の交響楽団を有していたことに発しています。

まず、「南ドイツ放送(SDR)」に所属するオーケストラは1945年に「南ドイツ放送交響楽団」としてスタートし、その後1975年に「シュトゥットガルト放送交響楽団」と改称されました。日本のクラシック音楽ファンにとっては、この「シュトゥットガルト放送交響楽団」という名前がチェリヴィダッケの名とも結びついて最も認知度が高いのではないでしょうか。

それに対して、「南西ドイツ放送(SWR)」の方は、1946年にバーデン=バーデンに本拠地を置く「南西ドイツ放送大楽団」としてスタートし(これも正確に言うと「南西ドイツ放送管弦楽団」としてスタートし同じ年の内に「南西ドイツ放送大楽団」と改称された)、1966年に南西ドイツ放送交響楽団に、さらには1996年には「バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団」なりました。

ですから、シューリヒトが指揮をして録音をしたときは、フィンガルの洞窟は「南ドイツ放送交響楽団」であり、それ以外は「南西ドイツ放送大楽団」が正しいと言うことになります。
ただし、この二つの放送局は経営上の理由で1996年には「南ドイツ放送(SDR)」が「南西ドイツ放送(SWR)」に吸収されてしまいました。その経営統合によって「シュトゥットガルト放送交響楽団」も「南西ドイツ放送(SWR)」の傘下にはいることになりました。
つまりは、「南西ドイツ放送(SWR)」は「シュトゥットガルト放送交響楽団」と「バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団」という二つのオーケストラを所有することになったのです。

当然の事ながら、これは経営上の合理性から言えばとんでもない無駄ではあるのですが、「シュトゥットガルト放送交響楽団」は既にヨーロッパを代表する名門オケであり、「バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団」も現代音楽を得意とする独自のポジションを築き上げていました。つまりは、経営の合理性から言えば無駄であっても、芸術上では存在価値があると言うことで、その無駄は「黙認」されてきました。

しかしながら、その様な芸術上の意義を主張する声は経営上の合理性を要求する声に押されていき、ついには2017年にこの二つのオケは統合されて「南西ドイツ放送交響楽団」という新しくて古い(^^;名前で再出発することになったのです。
ただし、本拠地はシュトゥットガルトに置かれることになったので、実質的には「シュトゥットガルト放送交響楽団」が「バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団」を吸収合併することになったのです。

ですから、そう言う過去の経緯を全てひっくるめて現在の呼称を使用するならば、このシューリヒトの録音は次のようにクレジットしても間違いではないと言うことになるのです。

カール・シューリヒト指揮 南西ドイツ放送交響楽団 1960年&1962年9月録音

年齢は全く感じさせない溌剌とした踏み込んだ表現が魅力的です。


オケの能力もあるのでしょうが、特に素晴らしいのは後の「シュトゥットガルト放送交響楽団」となる「南ドイツ放送交響楽団」による「フィンガルの洞窟」です。
全体の響きのバランスがよくて、どっしりとした低声部の上に透明感の高い響きが素晴らしいです。暖かくてふくよかな音色の素晴らしさでは、「夏の夜の夢」を録音したバイエルンのオケの方が上かもしれませんが、これはこれで素晴らしいです。

それと比べると、62年に録音した南西ドイツ放送交響楽団の方は、少しばかり見劣りがするかもしれません。ただし、こちらのオケは現代音楽を得意とするロスパウトに鍛えられているので、響きのベクトルが違うと言えば違うのかもしれません。
ただし、荒っぽいなと思う場面もあちこちに登場します。

さらにいえば、「夏の夜の夢」ではどちらかと言えば淡々と事が進んでいくような雰囲気だったのに較べると、こちらの方は明らかに表現の振幅が大きくて、特にフィンガルの洞窟の踏み込みは素晴らしいものがあります。
もちろん、ニコライやウェーバーでも、盛りあげるべきところはきっちろと盛りあげています。

シューリヒトは長きにわたってポジションにも録音にも恵まれなかったのですが、最後の最後、80才を超えてから、ようやくにして光が当たるようになった指揮者でした。
この60年録音のフィンガルの洞窟は80才、その他の序曲は82歳の時の録音なのですが、その様な年齢は全く感じさせない溌剌とした音楽に仕上がっています。

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