スカラ座のマリア・カラス
(S)マリア・カラス:トゥリオ・セラフィン指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団 1955年6月9~12日録音
Luigi Cherubini:Medea [Dei Tuoi Figli(Act1)]
Gaspare Spontini:La Vestale [Tu Che Invoco(Act2)]
Gaspare Spontini:La Vestale [O Nume Tutelar(Act2)]
Gaspare Spontini:La Vestale [Caro Oggetto(Act3)]
Maria Callas at La Scala
ルイジ・ケルビーニ:歌劇「メデア」より
- ルイジ・ケルビーニ:貴方の子供たちの母親は~歌劇「メデア」第1幕より
悪魔のような心を持った残忍な女性とされるのが コルキスの王女メデアです。
彼女は愛のために、そして復讐のために我が子さえも手にかけてしまう女性として描かれています。
この強烈なキャラクタを持った女性を歌える歌手がいなくなったことで、20世紀にはほとんど忘れ去られてしまっていたのですが、53年にカラスの歌唱によって見事に復活したオペラです。
ガスパーレ・スポンティーニ:歌劇「ヴェスタの巫女」より
- ガスパーレ・スポンティーニ:無慈悲な女神よ~歌劇「ヴェスタの巫女」第2幕より
- ガスパーレ・スポンティーニ:おお、不幸な人々を守護する女神~歌劇「ヴェスタの巫女」第2幕より
- ガスパーレ・スポンティーニ:いとしいお方~歌劇「ヴェスタの巫女」第3幕より
ローマの将軍リチニオとヴェスタの巫女ジュリアの恋物語というよくあるパターンのオペラです。愛し合う男女の恋が燃え上がるには障害が必要であって、ここではジュリアが神に仕える巫女であると言うことが重要です。
そして、二人が手を取って逃げ出そうという時に彼女が護っていた聖火が消えることで、神の怒りがリチニオに及ぶことを恐れてジュリアはとどまってしまうのです。
聖なる火が消えたことの説明を求められてもジュリアはリチニオに害が及ぶことを恐れて口を噤んでしまいます。そのジュリアの態度に怒りを爆発させた司祭長は彼女を生け贄として生き埋めにすることを命じます。
そして、彼女がまさに墓に入って生き埋めになろうとするときに、リチニアが現れて自分が彼女の恋人であることを告げて助け出そうとします。
その時、突如としてあたりは暗闇となり、天からふってきた火の玉がジュリアの聖衣に火をつけ、それが再び聖火に火をともします。
その奇蹟を見た司祭長は神が二人を許したことを知り、争いを止めて二人を祝福して幕はおります。
何とも都合の良いストーリーなのですが、ポイントは圧倒的な声の威力を披露するジュリアの声にあります。
マリア・カラスの革命
マリア・カラスと言えば「歌役者」というイメージがあります。
確かに、トスカなどで見せた彼女の見事なまでの役者ぶりは唯一無二の魅力に溢れていました。
しかし、彼女が残した最大の業績はと聞かれれば、迷うことなく、19世紀前半のベルカント・オペラの真価を世に知らしめた事だと言わざるをえません。
「スカラ座のマリア・カラス」とタイトルのついたこのスタジオ録音で取り上げたのは、そうやって彼女が復活させた作品のアリアです。
イタリア・オペラの歴史を振り返ってみると、19世紀の前半はロッシーニやベッリーニなどに代表されるベルカントオペラが全盛期を迎えるのですが、その後はトスカなどに代表されるヴェリズモ・オペラへと時代は移り変わっていきます。
実は、この二つのオペラは様式的にはかなり異なるもので、ヴェリズモ風の歌唱ではベルカントオペラの魅力を十分に発揮する事は出来ませんでした。
例えば、ベッリーニの「ノルマ」は今でも伝説のプリマと呼ばれるジュディッタ・パスタを念頭においたものでした。
ジュディッタ・パスタはその圧倒的な声と情熱的な歌唱でいわゆるベルカントオペラの歌い方を作り上げた歌手だったのですが、その様な「声」の歴史はヴェリズモ全盛の中で次第に忘れ去られていったのです。
そのため、時たまそれらの作品が舞台で取り上げられても、内容空疎な声だけの作品として低く見られる時代が長く続きました。
そんな時代の横っ腹に圧倒的な声の威力と細やかな心理描写によって大きな穴を開けたのがマリア・カラスでした。
カラスの最大の功績は、その様な忘れ去られたベルカント風の歌唱を再発見し、その事を自らの声と歌唱で実証して見せた事でした。そして、その事は、長く不当に扱われてきた19世紀前半のベルカントオペラ復興の幕を開ける事にもつながりました。
このスタジオ録音では、全盛期のカラスの恐ろしいまでの声の威力をたっぷりと味わうことが出来ます。
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