クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ハイドン:交響曲101番 ニ長調 「時計」

イーゴリ・マルケヴィッチ指揮 フランス国立放送管弦楽団 1955年5月3日録音





Haydn:Symphony No.101 in D major "The Clock" [1.Adagio - Presto]

Haydn:Symphony No.101 in D major "The Clock" [2.Andante]

Haydn:Symphony No.101 in D major "The Clock" [3.Menuet (Allegretto) - Trio]

Haydn:Symphony No.101 in D major "The Clock" [4.Finale (Vivace)]


規則正しい伴奏リズム

1974年にハイドンはイギリスでの演奏会を再び企画します。
しかし、形式的には未だに雇い主であったエステルハージ候は「年寄りには静かな生活が相応しい」といって容易に許可を与えようとはしませんでした。このあたりの経緯の真実はヤブの中ですが、結果的にはイギリスへの演奏旅行がハイドンにとって多大な利益をもたらすことを理解した候が最終的には許可を与えたということになっています。

しかし、経緯はどうであれ、この再度のイギリス行きが実現し、その結果として後のベートーベンのシンフォニーへとまっすぐにつながっていく偉大な作品が生み出されたことに私たちは感謝しなければなりません。

この94年の演奏会は、かつてのような社会現象ともいうべき熱狂的な騒ぎは巻き起こさなかったようですが、演奏会そのものは好意的に迎え入れられ大きな成功を収めることが出来ました。
演奏会はエステルハージ候からの許可を取りつけるに手間取ったために一週間遅れてスタートしました。しかし、2月10日から始まった演奏会は、いつものように一週間に一回のペースで5月12日まで続けられました。そして、この演奏会では99番から101番までの三つの作品が演奏され、とりわけ第100番「軍隊」は非常な好評を博したことが伝えられています。


  1. 交響曲99番 変ホ長調:1793年作曲:1794年2月10日初演

  2. 交響曲101番「時計」 ニ長調:1794年作曲:1794年3月3日初演

  3. 交響曲100番「軍隊」 ト長調:1794年作曲:1794年3月31日初演




交響曲101番「時計」 ニ長調

この交響曲につけられた「時計」というタイトル第2楽章のは規則正しい伴奏リズムから19世紀に一般化したようです。この主題と4つの変奏からなるアンダンテ楽章にはハイドンらしいコケティッシュな魅力がつまっています。
しかし、この交響曲はその様な外面的な魅力だけでなく、ハイドンとしてはもっとも規模の大きなメヌエットや複雑な構造を持った終楽章など、通好みの仕掛けにも溢れています。

おそらく、この交響曲は104番とならんで、もっともベートーベンに近づいた作品だと言えるでしょう。

恐いお題


ハイドンの交響曲というのは、どこかコケティッシュで可愛らしい面があります。それは、必ずしも初期の交響曲だけでなく、ザロモン・セットの中に数え入れられる交響曲の中にもあらわれます。
「驚愕」と題された94番の第2楽章や「時計」と題された101番の第2楽章などがその典型でしょうか。
さらに、「奇蹟」というあだ名がつくことになった96番などは、その名前の由来となったエピソードまでもが、ある種の可愛らしさに溢れています。

だから、ともすれば指揮者はその様な「可愛らしさ」に足下をすくわれてしまうことがあります。
逆に、「俺はそんなものには目もくれていない」と言わんばかりに力ずくで押さえ込んでしまったりもします。

しかし、それもまた一つの躓きです。
なぜならば、ハイドンの音楽をそのように力で押さえ込んでしまえば残るのは野暮だけと言うことになるからです。そして、ハイドンの交響曲を野暮だけで押し切ればそれはまるでベートーベンのように響いてしまうことになるのです、クレンペラーのように。

もちろん、それはそれで「立派」な音楽にはなるのですが、それでもどこかちょっと違うよねという気持ちは残ってしまいます。

それでは、足手まといにもならず、野暮にもならず、ハイドンがハイドンであるように響かせるにはどうすればよいのかと聞かれれば、それへの一つの模範解答がここにあります。
とりわけ、「時計」と題されたこの交響曲の由来となった第2楽章をマルケヴィッチの録音で聞くとき、そう言う可愛らしさに足下をとられることもなく、さりとてそう言う可愛らしさを力ずくで押さえ込む野暮に陥ることもなく音楽を成り立たせていることに気づかされます。

もっと正確に言えば、このマルケヴィッチのようなハイドンを聴かせてもらうことで、どれほど多くの指揮者達がそう言う「可愛らしさ」に硬軟両面から足下を絡め取られているかに気づかされるのです。
しかし、不思議なのは、マルケヴィッチという指揮者は、どう考えても19世紀以降の近代合理主義の権化のような男だと思うのですが、それがどうしてこういう音楽をやれたのかです。

「明治の野暮」が最後まで「江戸の粋」を理解できなかったように、「市民革命を経た19世紀のヨーロッパ」もまた「18世紀のハプスブルグの粋」を理解できなくなっていました。「フィデリオ」を書いたベートーベンは、モーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」を不道徳なオペラとして最後まで認めようとしなかったのです。

にもかかわらず、このマルケヴィッチのハイドンは戦前のワルターのように18世紀に引っ張られてもいませんし、クレンペラーのように19世紀に軸足を置いているわけでもありません。
それは18世紀と19世紀という全く異なった価値観を持つ2つの時代が、ある意味で一つの奇蹟であるかのようなバランスの上に成り立っている音楽なのです。
そして、この強面のマルケヴィッチのどこを突っつけばそのようなバランスが出てくるのかが不思議でしようがないのです。

ただし、全く同じ時期に録音された102番の方ではそこまでうまくはいっていないように聞こえます。
やはり、ハイドンというのは指揮者にとっては恐い「お題」なのです。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-11-21]

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)

[2024-11-19]

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)

[2024-11-17]

フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)

[2024-11-15]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-11-13]

ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)

[2024-11-11]

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)

[2024-11-09]

ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-11-07]

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)

[2024-11-04]

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-11-01]

ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)

?>