シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 op.43
ピエール・モントゥ指揮 ロンドン交響楽団 1958年6月18日~20日録音
Sibelius:Symphony No.2 in D, major Op.43 [1.Allegretto]
Sibelius:Symphony No.2 in D, major Op.43 [2.Tempo andante, ma rubato]
Sibelius:Symphony No.2 in D, major Op.43 [3.Vivacissimo]
Sibelius:Symphony No.2 in D, major Op.43 [4.Finale: Allegro moderato]
シベリウスの田園交響曲?
シベリウスの作品の中ではフィンランディアと並んでもっとも有名な作品です。そして、シベリウスの田園交響曲と呼ばれることもあります。もちろん、ベートーベンの第6番を念頭に置いた比喩ですが、あちらがウィーン郊外の伸びやかな田園風景だとすれば、こちらは疑いもなく森と湖に囲まれたフィンランドの田園風景です。
さらに、この作品にはフィンランドの解放賛歌としての側面もあります。重々しい第2楽章と荒々しい第3楽章を受けた最終楽章が壮麗なフィナーレで結ばれるところが、ロシアの圧政に苦しむフィンランド民衆の解放への思いを代弁しているというもので、この解釈はシベリウスの権威と見なされていたカヤヌスが言い出したものだけに広く受け入れられました。
もっとも、シベリウス本人はその様な解釈を否定していたようです。
言うまでもないことですが、この作品の暗から明へというスタイルはベートーベン以降綿々と受け継がれてきた古典的な交響曲の常套手段ですから、シベリウスは自分の作品をフィンランドの解放というような時事的な際物としてではなく、その様な交響曲の系譜に連なるものとして受け取って欲しかったのかもしれません。
しかし、芸術というものは、それが一度生み出されて人々の中に投げ込まれれば、作曲家の思いから離れて人々が求めるような受け入れ方をされることを拒むことはできません。シベリウスの思いがどこにあろうと、カヤヌスを初めとしたフィンランドの人々がこの作品に自らの独立への思いを代弁するものとしてとらえたとしても、それを否定することはできないと思います。
この作品は第1番の初演が大成功で終わるとすぐに着手されたようですが、本格的取り組まれたのはアクセル・カルペラン男爵の尽力で実現したイタリア旅行においてでした。
この作品の中に横溢している牧歌的で伸びやかな雰囲気は、明らかにイタリアの雰囲気が色濃く反映しています。さらに、彼がイタリア滞在中にふれたこの国の文化や歴史もこの作品に多くのインスピレーションを与えたようです。よく言われるのは第2楽章の第1主題で、ここにはドンファン伝説が影響を与えていると言われています。
しかし、結局はイタリア滞在中にこの作品を完成させることができなかったシベリウスは、フィンランドに帰国したあとも精力的に作曲活動を続けて、イタリア旅行の年となった1901年の末に完成させます。
一度聞けば誰でも分かるように、この作品は極めて少ない要素で作られています。そのため、全体として非常に見通しのよいすっきりとした音楽になっているのですが、それが逆にいささか食い足りなさも感じる原因となっているようです。その昔、この作品を初めて聞いた私の友人は最終楽章を評して「何だかハリウッドの映画音楽みたい」とのたまいました。先入観のない素人の意見は意外と鋭いものです。
正直言うと、ユング君は若い頃はこの作品はとても大好きでよく聴いたものですが、最近はすっかりご無沙汰していました。やはり、食い足りないんですね。皆さんはいかがなものでしょうか?
徹底的にモントゥという音楽家の目に映ったシベリウス
人は年とともに衰える、と言うことを常にいってきたのですが、世の中にはその様な「常識」といとも容易く覆してしまう「化け物」がいるものです。そういう「化け物」の最たる存在がこのピエール・モントゥでしょう。
このシベリウスの録音は1958年ですから、この時モントゥは84才です。
そういえば、モントゥはこの年にボストン交響楽団とチャイコフスキーの4番を録音しているのですが、あそこでも最終楽章の燃焼は凄まじいものがありました。あれなどは、ブラインドで聞かされて80を超えた爺さんの指揮だと言い当てられる人はまずいないでしょう。
そして、このモントゥ唯一のシベリウスの演奏でも、そのコントロールの効いたミッシリと中味のつまった響きから老巨匠の「枯れた」芸などというものを「聞き取る」事はまず不可能でしょう。
ただし、このシベリウスはじっくりと聞いてみると、かなり風変わりな演奏であることには気づかされます。
スコアと見比べながら聞いたわけではないので断言はできかねるのですが、いわゆるダイナミックレンジのコントロールが独特で、極端な変化は禁欲的なまでに抑制しながら、音楽に内在する微妙な変化は極めて丁寧に表現しているのです。そして、こういう音楽の作り方ってどこかで聞いたことがあるような気がするなと、思いをめぐらせて気づいたのがヴァントです。
もちろん音楽をこぢんまりとまとめているわけではなくて、例えば最終楽章のボレロ的に盛り上がっていく部分ではギアを入れ替えるようにテンポをあげて追い込んでいくのですが、聞いていて鳥肌が立つような凄さを感じます。
つまりは、音楽全体としては非常に雄大なスケール感を持っているのですが、細部の移り変わりに関しては極端に走ることを慎重なまでに避けているのです。例えば、あちこちにピアニシモに鎮まった音楽が一転してフォルテの金管が吠えるような場面があるのですが、そういう場面では禁欲的とも言えるほどに金管を抑えています。
ただし、音楽の中に内在するというか、音楽が要求する微妙なダイナミックの変化に関しては極めて忠実なのです。ただし、その細かい微妙な変化が何処まで作曲家の要求なのかは確認は確認し切れていないのですが、ここまで微妙な陰影をこの作品に与えている演奏は他には思い当たりません。
そして、そういう音楽の作り方はヴァントにも指摘することができるのです。
さらに言えば、ミッシリと中味のつまったオケの響きの雰囲気もよく似ているような気がしますし、その響きを的確に捉えている録音エンジニアの腕も大したものです。
その意味では、このシベリウスは作曲家の意図にそれほど忠実ではなく、徹底的にモントゥという音楽家の目に映ったシベリウスに仕立て直されているような気がします。
その意味では、好き嫌いはあるかもしれませんが、結果として、意外と管弦楽法の名手だったシベリウスの腕の冴えを教えてくれる演奏と録音のようになっているような気がします。
よせられたコメント 2017-03-24:コタロー 私的な話で恐縮ですが、自分が高3の時キング・レコードから廉価盤がまとまって発売され、その中にこの演奏のLPがありました。小林利之氏の『名曲に聴く』という本の中に、モントゥーの演奏について「北欧的な情緒はあまり感じられないが、音楽の純度という点では際立っている」とのお褒めの言葉があったので、迷わずレコードを購入しました。
実際に聴いてみると、期待以上の素晴らしい演奏で、特にB面の第3・第4楽章は本当に何度聴いたかわかりません。まさに受験勉強にパワーをもらった名演奏でした。
改めてここにアップされたモントゥーの演奏を聴いて、そんな若き日の思い出がふつふつと湧き上がってきて懐かしい限りです。本当にありがとうございました。
【最近の更新(10件)】
[2026-11-01]
モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調, K.448(Mozart:Sonata for 2 Pianos in D major, K.448/375a)
(P)モニク・アース ハインツ・シュレーター:1957年録音(Monique Haas:(P)Heinz Schroter Recorded on 1957)
[2026-10-30]
ヘンデル:ハープ協奏曲変ロ長調 Op.4-6(Handel:Harp Concerto in B-flat major, Op.4, No.6)
(Harp)リリー・ラスキーヌ:ジャン=フランソワ・パイヤール指揮 パイヤール室内管弦楽団 1964年1月22日録音(Lily Laskine:(Con)Jean-Francois Paillard Orchestre de chambre Jean-Francois Paillard Recorded on Januery 22, 1964)
[2026-10-27]
ディエゴ・オルティス:レセルカーダとその基となった歌曲およびマドリガル集(Diego Ortiz:Recercadas, Songs And Madrigals)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ (Vdg)アウグスト・ヴェンツィンガ (harpsichord)エドゥアルト・ミュラー 1953年10月8日~9日録音(Walter Gerwig:(Vdg)August Wenzinger (harpsichord)Eduard Muller Recorded on October 8-9, 1953)
[2026-10-25]
ヴォーン・ウィリアムス:トマス・タリスの主題による幻想曲(Vaughan Williams:Fantasia on a Theme_by Thomas Tallis)
マルコム・サージェント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1959年録音(Sir Malcolm Sargent:The Philharmonia Orchestra Recorded on 1959)
[2026-10-23]
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30(Rachmaninov:Piano Concerto No.3 in D minor, Op.30)
(P)モーラ・リンパニー:アンソニー・コリンズ指揮、ロンドン新交響楽団(Moura Lympany:(Con)Anthony Collins New Symphony Orchestra of London Recorded on 1952)
[2026-10-21]
リリ・ブーランジェ:古い仏教の祈り(Boulanger:Vieille Priere Bouddhique)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 エリーザベト・ブラッスール合唱団 (T)レイモンド・アマデ 1958年録音(Igor Markevitch:Orchestre Des Concerts Lamoureux Elisabeth Brasseur (T)Alain Fauqueur Recorded on 1958)
[2026-10-19]
エマヌエル・ポンセ:イ短調組曲(Poncw:Suite In A minor)
(Gt)アンドレス・セゴビア:1930年録音(Andres Segovia:Recorded on 1930)
[2026-10-17]
ベートーベン:ヴィンターの歌劇「妨げられた奉納式」より四重唱「子供よ、静かにお休み」の主題による7つの変奏曲 WoO 75(Beethoven:7 Variations on the Quartet Kind, willst du ruhig schlafen from Winter's Das unterbrochene Opferfest, WoO 75)
(P)アルフレッド・ブレンデル 1958年&1960年録音(Alfred Brendel:Recorded on 1958 & 1960)
[2026-10-15]
メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 ト短調, Op.25(Mendelssohn:Piano Concerto No.1 in G minor, Op.25)
(P)モーラ・リンパニー:ラファエル・クーベリック指揮、フィルハーモニア管弦楽団 1952年録音(Moura Lympany:(Con)Rafael Kubelik The Philharmonia Orchestra Recorded on 1952)
[2026-10-13]
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第2集 作品72(Dvorak:Slavonic Dances Op.72)
クルト・ザンデルリング指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1952年&1954年録音(Kurt Sanderling:Leningrad Philharmonic Orchestra Recorded on, 1952 & 1954)