ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」より「冬」
ソチエタ・コレルリ合奏団 (Vn)Vittorio Emanuele 1960年9月初出
Vivaldi:Violin Concerto in F minor, RV 297 (The Four Seasons:Winter) [1.Allegro non molto]
Vivaldi:Violin Concerto in F minor, RV 297 (The Four Seasons:Winter) [2.Largo]
Vivaldi:Violin Concerto in F minor, RV 297 (The Four Seasons:Winter) [3.Allegro]
「四季」と言った方が通りがいいですね(^^;
ヴァイオリン協奏曲集「和声と創意の試み」と言うよりは、「四季」と言った方がはるかに通りがいいですね。
ただヴィヴァルディは12曲からなる協奏曲集として作品をまとめており、その中に「春」「夏」「秋」「冬」という表題がつけられている4曲が存在するわけです。
それにしてもこの4曲をセットにして「四季」と名付けられた作品のポピュラリティには驚くべきものがあります。特に、「春」の第1楽章のメロディは誰もが知っています。
まさに四季といえばヴィヴァルディであり、ヴィヴァルディといえば四季です。
そして、その功績は何と言ってもイ・ムジチ合奏団によるものです。
ある一つの作品が、これほど一人の作曲家、一つの演奏団体に結びつけられている例は他には思い当たりません。(試しに、ヴィヴァルディの作品を四季以外に一つあげてください。あげられる人はほとんどいないはずです。)
そのような有名作品の中でが一番好きなのが「冬」です。
それは明らかに北イタリアの冬です。ローマやナポリの冬ではありませんし、ましてや絶対にドイツの冬ではありません。
ヴィヴァルディが生まれ育ったヴェネチアは北イタリアに位置します。その冬は、冬と言っても陽光のふりそそぐ南イタリアと比べればはるかに厳しいものですが、ドイツの冬と比べればはるかに人間的です。
厳しく、凛としたものを感じさせてくれながらも、その中に人間的な甘さも感じさせてくれるそんな冬の情景です。
四季といえば「春」と思いこんでいる人も、少しは他の季節にも手を伸ばしてくれればと思います。(^^
なお、「四季」と呼ばれる4曲には以下のようなソネットがそえられています。
協奏曲第1番ホ長調、RV.269「春」
アレグロ
春がやってきた、小鳥は喜び囀りながら戻って来て祝っている、水の流れと風に吹かれて雷が響く。小川のざわめき、風が優しく撫でる。春を告げる雷が轟音を立て黒い雲が空を覆う、そして嵐は去り小鳥は素晴らしい声で歌う。鳥の声をソロヴァイオリンが高らかにそして華やかにうたいあげる。みな、和やかに
ラルゴ
牧草地に花は咲き乱れ、空に伸びた枝の茂った葉はガサガサ音を立てる。ヤギ飼は眠り、忠実な猟犬は(私の)そばにいる。弦楽器の静かな旋律にソロヴァイオリンがのどかなメロディを奏でる。ヴィオラの低いCis音が吠える犬を表現している。
アレグロ(田園曲のダンス)
陽気な田舎のバグパイプがニンフと羊飼いを明るい春の空で踊る。
協奏曲第2番ト短調、RV.315「夏」
アレグロ・ノン・モルト?アレグロ
かんかんと照りつける太陽の絶え間ない暑さで人と家畜の群れはぐったりしている。松の木は枯れた。カッコウの声が聞こえる。そしてキジバトとスズメの囀りが聞える。柔らかい風が空でかき回される。しかし、荒れた北風がそれらを突然脇へ追い払う。乱暴な嵐とつんのめるかも知れない怖さで慄く。原譜には「暑さで疲れたように弾く」と指示がある。ヴァイオリンの一瞬一瞬の“間”に続いての絶え間ない音の連続が荒れる嵐を表現している。
アレグロ・プレスト・アダージョ
彼の手足は稲妻と雷鳴の轟きで目を覚まし、ブヨやハエが周りにすさまじくブンブン音を立てる。それは甲高い音でソロヴァイオリンによって奏でられる。
プレスト(夏の嵐)
嗚呼、彼の心配は現実となってしまった。上空の雷鳴と巨大な雹(ひょう)が誇らしげに伸びている穀物を打ち倒した。
協奏曲第3番ヘ長調、RV.293「秋」
アレグロ(小作農のダンスと歌)
小作農たちが収穫が無事に終わり大騒ぎ。ブドウ酒が惜しげなく注がれる。彼らは、ほっとして眠りに落ちる。
アダージョ・モルト(よっぱらいの居眠り)
大騒ぎは次第に弱まり、冷たいそよ風が心地良い空気を運んで来てすべての者を無意識のうちに眠りに誘う。チェンバロのアルペジオに支えられてソロヴァイオリンは眠くなるような長音を弾く。
アレグロ(狩り)
夜明けに、狩猟者が狩猟の準備の為にホルンを携え、犬を伴って叫んで現れる。獲物は彼らが追跡している間逃げる。やがて傷つき獲物は犬と奮闘して息絶える。
協奏曲第4番ヘ短調、RV.297「冬」
アレグロ・ノン・モルト
身震いして真ん中で凍えている。噛み付くような雪。足の冷たさを振り解くために歩き回る。辛さから歯が鳴る。ソロヴァイオリンの重音で歯のガチガチを表現している。
ラルゴ
外は大雨が降っている、中で暖炉で満足そうに休息。ゆっくりしたテンポで平和な時間が流れる。
アレグロ
私たちは、ゆっくりとそして用心深くつまづいて倒れないようにして氷の上を歩く。ソロヴァイオリンは弓を長く使ってここの旋律を弾きゆっくりとそして静かな旋律に続く。しかし突然、滑って氷に叩きつけられた。氷が裂けて割れない様、そこから逃げた。私たちは、粗末な家なのでかんぬきでドアを閉めていても北風で寒く感じる。そんな冬であるがそれもまた、楽しい。
ザッハリヒカイトなバロック音楽
「ソチエタ・コレルリ合奏団」とはコレッリの合奏協奏曲を紹介したときに始めて出会いました。
イ・ムジチと同じくイタリアに本拠地を置く合奏団なのですが、そのイ・ムジチよりも一足早く1951年に結成されています。
そして、コレッリの録音と出会ったときに、「ネット情報によると、この団体による「四季」は聞いていて「辛くなる」ほどの厳しさに貫かれているそうです。是非とも、探し当てて聞いてみたいものです。」と書いておきました。
そして、漸くに探し当てた音源がこれです。
さすがに、聞いていて辛くなると言うほどではありませんが、かなり異形な「四季」であることは確かです。いや、やっぱり「辛く」なるかな・・・(^^;
かつて、
イ・ムジチの四季を「アルプスの南側の演奏」
、ミュンヒンガーの「四季」を「アルプスの北側の演奏」と呼んだのですが、これはアルプスの北側にある修道院にでも入ってしまったような「四季」です。
官能的な国、イタリアのど真んで、かくもザッハリヒカイトなバロック音楽が存在したとは驚きです。
ただし、この録音には幾つか不思議な点があります。
初出は「RCA」の「Red SEAL」シリーズの一枚としてリリースされているのですが、録音に関するデータが全く見あたらないのです。その「見あたらない」というのは「録音エンジニアがクレジットされていない」等というレベルの話ではなくて、そもそも録音された年月日ですらはっきりしないというレベルの「欠落」なのです。
分かっているのは、録音がアメリカ国内ではなくて、「ソチエタ・コレルリ合奏団」の本拠であるイタリアにおいて行われたと言うことだけなのです。そして、「初出」が1960年9月だったという事だけです。
ですから、音源が「パブリック・ドメイン」であることは間違いはないのですが、メジャー・レーベルにしては珍しい話です。
そして、それ故と言うことでしょうか、「Red SEAL」シリーズの一枚としてみると録音のクオリティには不満が残ります。この合奏団の美質を生かすためにはもう少し内部の見通しと音場の広がりがほしいところなのですが、いささかセンター付近に音が固まってしまっています。やはり、どう考えても「RCA」の録音としては違和感があります。
<追記>
気になるので、その後あれこれ調べてみると、録音エンジニアはイタリア在住の「Sergio Marcotulli」であることが分かりました。どうやら、「RCA」としては演奏から録音まで全てイタリア側に丸投げしたものだったようです。ただし、録音年月日は最後まで分かりませんでした。おそらく外部に丸投げで発注した録音なので「RCA」にも分からなくなっているようです。
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