クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21

レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨークフィル 1964年1月20日,27日録音



Beethoven:Symphony No.1 in C major, Op.21 [1.Adagio molto - Allegro con brio]

Beethoven:Symphony No.1 in C major, Op.21 [2.Andante cantabile con moto]

Beethoven:Symphony No.1 in C major, Op.21 [3.Menuetto. Allegro molto e vivace]

Beethoven:Symphony No.1 in C major, Op.21 [4.Finale. Adagio - Allegro molto e vivace]


栴檀は双葉より芳し・・・?

ベートーベンの不滅の9曲と言われ交響曲の中では最も影の薄い存在です。その証拠に、このサイトにおいても2番から9番まではとっくの昔にいろいろな音源がアップされているのに、何故か1番だけはこの時期まで放置されていました。今回ようやくアップされたのも、ユング君の自発的意志ではなくて、リクエストを受けたためにようやくに重い腰を上げたという体たらくです。

でも、影は薄いとは言っても「不滅の9曲」の一曲です。もしその他の凡百の作曲家がその生涯に一つでもこれだけの作品を残すことができれば、疑いもなく彼の代表作となったはずです。問題は、彼のあとに続いた弟や妹があまりにも出来が良すぎたために長兄の影がすっかり薄くなってしまったと言うことです。

この作品は第1番という事なので若書きの作品のように思われますが、時期的には彼の前期を代表する6曲の弦楽四重奏曲やピアノ協奏曲の3番などが書かれた時期に重なります。つまり、ウィーンに出てきた若き無名の作曲家ではなくて、それなりに名前も売れて有名になってきた男の筆になるものです。モーツァルトが幼い頃から交響曲を書き始めたのとは対照的に、まさに満を持して世に送り出した作品だといえます。それは同時に、ウィーンにおける自らの地位をより確固としたものにしようと言う野心もあったはずです。

その意気込みは第1楽章の冒頭における和音の扱いにもあらわれていますし、、最終楽章の主題を探るように彷徨う序奏部などは聞き手の期待をいやがうえにも高めるような効果を持っていてけれん味満点です。第3楽章のメヌエット楽章なども優雅さよりは躍動感が前面にでてきて、より奔放なスケルツォ的な性格を持っています。
基本的な音楽の作りはハイドンやモーツァルトが到達した地点にしっかりと足はすえられていますが、至る所にそこから突き抜けようとするベートーベンの姿が垣間見られる作品だといえます。

こんなにも見事に作品の構造を描き出せるんだよ


ベートーベンの交響曲に対して、バーンスタインは距離を置いているように聞こえます。
しかし、そんなことを考えているときにふと気づいたのは、「そうだ、バーンスタインには作曲家というもう一つの顔があったんだ」という事実です。

今では、バーンスタインと言えば20世紀を代表する偉大な指揮者というイメージが強いのですが、聞くところによれば、60年代の初め頃は「あのウェストサイドストーリーを書いたバーンスタインという作曲家は指揮もやっているそうだ」という文脈で語られることが多かったようなのです。

そう考えると、どちらかと言えば作品の構造をすっきりと描いて見せた60年代のベートーベンの交響曲全集は、「僕は作曲家だから、こんなにも見事に作品の構造を描き出せるんだよ」というバーンスタインのもう一つの顔、もう一つの我が儘が出た演奏だと言えるような気がしました。

ただし、作品の持つ構造をすっきりと描き出すだけでは、ベートーベンという巨大な存在を描ききることができないというのが辛いところです。
そう言う意味では、さすがにこれに関しては晩年のウィーンフィルとの全集を選びたくなります。

ニューヨークフィルとの録音では音楽は沸き立っているので、その若々しい魅力は否定しないのですがどこか一本調子の単純さを感じてしまいます。
それたいして、ウィーンフィルとの全集では明らかに音楽はうねっています。
どちらも、「俺の音楽を聴け!」という「俺さま症候群的な音楽」であることは同様なのですが、押しつけてくる音楽の質が随分違います。

そう言う意味では、この時代の彼の特徴だった「歌うところは徹底的にねっとり」と、そして追い込むときは「怒濤の寄り身」という、もう一つの「俺さま」を出してくれた方が面白かったのに・・・などと無責任なことをほざきたくなります。

<追記>
「作品の持つ構造をすっきりと描き出すだけでは、ベートーベンという巨大な存在を描ききることができないというのが辛いところです。」などと言う思いは1番の場合は全く無用です。このハイドン的な交響曲はこういうバーンスタイン的なアプローチこそがピッタリで、聞いていてワクワクしてきます。そう言えば、バーンスタインはハイドンの交響曲が大好きだったようで、そのキャリアの長きにわたって様々な作品を取り上げていました。
・・・等と書きながら、バーンスタインのハイドンを全く鳥下てこなかったことに気づきました。これはイカンですね!!

早速、パブリック・ドメインになっている音源をアップしなければいけませんね。そう思わせるほどにこれは魅力的な演奏です。

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