クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ショパン:マズルカ Op.67

(P)サンソン・フランソワ 1956年2月3日,16日~17日&3月5日~6日,20日~22日録音



Chopin:Mazurka No.1 in G major, Op.67-1

Chopin:Mazurka No.2 in G minor, Op.67-2

Chopin:Mazurka No.3 in C major, Op.67-3

Chopin:Mazurka No.4 in A minor, Op.67-4


ポーランドの代表的な民族舞曲


  1. 作品67の1:マズルカ 第42番 ト長調 第44番

  2. 作品67の1:マズルカ 第43番 ト短調 第45番

  3. 作品67の1:マズルカ 第44番 ハ長調 第46番

  4. 作品67の1:マズルカ 第45番 イ短調 第47番



マズルカはポロネーズとならんで、ショパンが終生愛し続けたポーランドの民族舞曲です。ただし、ポロネーズが一般的に規模が大きくて劇的な性格を備えているのに対して、マズルカの方は規模がとても小さくて、そのほとんどが簡素な三部形式をとっています。

また、よく知られていることですが、マズルカと言ってもその性格や特徴は地域によって大きな差異があり、専門家の受け売りですが、基本的には「マズレック」「クヤヴィアック」「「オベレック」と呼ばれる3種類があるそうです。
そして、ショパンはそれらの形式を自由に取り入れて、例えば、マズレック風のリズムにクヤヴィアック風のメロディを重ねるなどして、自分なりに再構築をすることによって彼独特のマズルカという形式を作り上げていきました。

その意味では、ショパンのマズルカはポーランドの民族舞曲を母胎としながらも、時間を追うにつれてより一般的な性格を持っていったと言えます。
言葉をかえれば、土の香りを失う変わりにより洗練されていったと言うことです。
その分岐点はおそらくは中期の傑作と言われる作品番号で言えば33番の4曲あたりにあることに異存を唱える人は少ないでしょう。マズルカが本来持っていた粗野で鄙びた風情は姿を消して、明るさと軽さが前面にでてきます。ですから、よく「マズルカには華やかな技巧の世界は無い。」と言われますが、晩年のマズルカは和声的にも構成的にもかなりの工夫が凝らされています。
もちろん、どちらをとるにしてもショパンの音楽が素晴らしいことは言うまでもありません。

感情のおもむくままに


随分前に、フランソワを取り上げたときに次のように書きました。

『漸くにして時代はフランソワに追いついたのかもしれません。彼は決して「19世紀型ピアニストの最後の生き残り」などではなく、この行き詰まった即物主義の時代の先を歩いていたのです。』

やはりこの言葉は言い過ぎだったようです。褒めすぎでした。
フランソワというピアニストの本質は「19世紀型ピアニストの最後の生き残り」と見るのが正解のようです。

何故かと言えば、彼の録音を集中して聞いてみると、嫌でも気づかされることがあります。
それは、彼のすぐ後の時代に登場してきたさらに若い世代のピアニスト達と較べてみると、そのテクニックという点において根本的な違いがあることを認めざるを得ないからです。

それはポリーニやアシュケナージという人たちと比べてみると、メカニカルな巧拙というレベルの問題ではなくて、そう言うメカニカルな部分に対する捉え方の根本が異なっているように聞こえるのです。

聞けば分かるようにフランソワは同時代のピアニスト達と較べてみても決して下手なピアニストではありません。しかし、そのテクニックは何があっても微塵も揺らぐことがないと言う、強固な基盤の上には成り立っていません。
作品と向き合って感情が揺らいだり、爆発したりすれば、そのテクニックはその感情にあおられて揺らいでしまいます。しかし、その揺らぎは作品の形をゆがめてしまう一歩手前のところで踏みとどまります。
そこにフランソワの真骨頂がありました。

しかしながら、そんなスタイルで演奏を繰り返していればいつか身も心も持たなくなる時がやってきます。実際、フランソワのコンサートは出来不出来の差が大きいのは有名な話で、それを彼の気まぐれに帰することが多かったのですが、実際はもっと根本的な部分に問題があったのではないかと思うのです。

ポリーニは1942年生まれです。彼が5歳で本格的にピアノの学習に取り組んだときには戦争は終わっていました。
それに対して、1924年生まれのフランソワは、ピアノの基礎を学ぶべき若き時代のほぼ全てを戦争の中で過ごさざるを得なかったのです。

強固な規律、巌のような我慢強さというものは大人になってから後天的に身につけるのは不可能です。それはピアノのテクニックにおいても同様で、ポリーニやアシュケナージのようなピアニストは、戦争の動乱の中で子供時代を過ごした人間からは生まれないのではないでしょうか。
つまりは、ポリーニの世代のピアニストにとってメカニカルはピアノを弾く上での確固たるフレームとなり得ているのですが、フランソワのメカニカルはその様な強固なものではなく、彼自身もまたその様な音楽とは全く違う世界の住人だったのです。

ただし、フランソワには、ショパンの感情と同化できる天才的な閃きがありました。
ですから、まるで感情のおもむくままに好き勝手に弾いているようでありながら、それでもテクニック的に破綻をきたす心配の少ない作品では素晴らしい適応を示します。
そして、その魅力はポリーニやアシュケナージのようなタイプのピアニストからでは絶対に聞くことのできない音楽です。

もちろん、だからといって、どちらが優れているか、みたいなつまらぬ話をしたいわけではありません。
ただ、疑いがないのは、時代はフランソワを置き去りにしてポリーニに代表される新しピアニスト達の時代へと移り変わっていったことです。ですから、50年代のフランソワに対して、60年代のフランソワには翳りがつきまといます。己の感情のおもむくままにショパンを演奏してたフランソワの姿は少しずつ影を潜めていきました。

そして、その時の流れの中でフランソワは酒と煙草に溺れて46歳で急逝したという事実だけが残ったのです。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-11-21]

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)

[2024-11-19]

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)

[2024-11-17]

フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)

[2024-11-15]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-11-13]

ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)

[2024-11-11]

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)

[2024-11-09]

ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-11-07]

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)

[2024-11-04]

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-11-01]

ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)

?>