ベートーベン:交響曲第9番 ニ短調 「合唱付き」作品125
オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 ルシーヌ・アマーラ(ソプラノ)、リリー・チューカシアン(コントラルト)、ジョン・アレクサンダー(テノール)、ジョン・マカーディ(バス)、モルモン・タバナクル合唱団 1964年9月5日~29日録音
Beethoven:Symphony No.9 in D minor, Op.125 Choral [1.Allegro Ma Non Troppo, Un Poco Maestoso]
Beethoven:Symphony No.9 in D minor, Op.125 Choral [2.Molto Vivace]
Beethoven:Symphony No.9 in D minor, Op.125 Choral [3.Adagio Molto E Cantabile; Andante; Adagio]
Beethoven:Symphony No.9 in D minor, Op.125 Choral [4.Presto; Allegro Ma Non Troppo; Allegro Assai; Presto; Allegro Vivace; Alla Marcia; Andante Maestoso; Allegro Energico Sempre Ben Marcato; Allegro Ma Non Tanto; Poco Adagio; Prestissimo]
何かと問題の多い作品です。
ベートーベンの第9と言えば、世間的にはベートーベンの最高傑作とされ、同時にクラシック音楽の最高峰と目されています。そのために、日頃はあまりクラシック音楽には興味のないような方でも、年の暮れになると合唱団に参加している友人から誘われたりして、コンサートなどに出かけたりします。
しかし、その実態はベートーベンの最高傑作からはほど遠い作品であるどころか、9曲ある交響曲の中でも一番問題の多い作品なのです。さらに悪いことに、その問題点はこの作品の「命」とも言うべき第4楽章に集中しています。
そして、その様な問題を生み出して原因は、この作品の創作過程にあります。
この第9番の交響曲はイギリスのフィルハーモニア協会からの依頼を受けて創作されました。しかし、作品の構想はそれよりも前から暖められていたことが残されたスケッチ帳などから明らかになっています。
当初、ベートーベンは二つの交響曲を予定していました。
一つは、純器楽による今までの延長線上に位置する作品であり、もう一つは合唱を加えるというまったく斬新なアイデアに基づく作品でした。後者はベートーベンの中では「ドイツ交響曲」と命名されており、シラーの「歓喜によせる」に基づいたドイツの民族意識を高揚させるような作品として計画されていました。
ところが、何があったのかは不明ですが、ベートーベンはまったく異なる構想のもとにスケッチをすすめていた二つの作品を、何故か突然に、一つの作品としてドッキングさせてフィルハーモニア協会に提出したのです。
そして出来上がった作品が「第九」です
交響曲のような作品形式においては、論理的な一貫性は必要不可欠の要素であり、異質なものを接ぎ木のようにくっつけたのでは座り心地の悪さが生まれるのは当然です。もちろん、そんなことはベートーベン自身が百も承知のことなのですが、何故かその様な座り心地の悪さを無視してでも、強引に一つの作品にしてしまったのです。
年末の第九のコンサートに行くと、友人に誘われてきたような人たちは音楽が始めると眠り込んでしまう光景をよく目にします。そして、いよいよ本番の(?)第4楽章が始まるとムクリと起きあがってきます。
でも、それは決して不自然なことではないのかもしれません。
ある意味で接ぎ木のようなこの作品においては、前半の三楽章を眠り込んでいたとしても、最終楽章を鑑賞するにはそれほどの不自由さも不自然さもないからです。
極端な話前半の三楽章はカットして、一種のカンタータのように独立した作品として第四楽章だけ演奏してもそれほどの不自然さは感じません。そして、「逆もまた真」であって、第3楽章まで演奏してコンサートを終了したとしても、聴衆からは大ブーイングでしょうが・・・、これもまた、音楽的にはそれほど不自然さを感じません。
ですから、一時このようなコンサートを想像したことがあります。
それは、第3楽章と第4楽章の間に休憩を入れるのです。
前半に興味のない人は、それまではロビーでゆっくりとくつろいでから休憩時間に入場すればいいし、合唱を聴きたくない人は家路を急げばいいし、とにかくベートーベンに敬意を表して全曲を聴こうという人は通して聞けばいいと言うわけです。
これが決して暴論とは言いきれないところに(言い切れるという人もいるでしょうが・・・^^;)、この作品の持つ問題点が浮き彫りになっています。
心地よく、そして安心して音楽に浸ることができる演奏
エロイカの項でも強調したのですが、オーマンディのベートーベンは世間で言われるほどには悪くはありません。今回、吉田大明神にぼろくそに言われたエロイカに続いて2番と8番を聞いてみたのですが、実にオーソドックスに仕上がっていて見事なものです。
確かに、こういう演奏を取り上げて、無個性だという批判はあるでしょう。しかし、こういうゆったりとしたテンポと豊かな響きできちんとベートーベンの音楽を仕上げてくれていれば、心地よく、そして安心して音楽に浸ることができます。とりわけ、昨今のピリオド演奏のようにいたずらにテンポをあげたり妙にぎくしゃくとしたエッジを効かせたりして、それを「個性的」と自賛しているならば、こういう「無個性」な演奏の方がよほど優れものです。
聞けば分かることですが、2番の第2楽章なんかだと大トロの演奏になっていると思いきや、意外なほどにすっきりとした「歌」に仕上がっています。つまりは、オーマンディという人は世間で思われているほどに「外連味」のない演奏をする人なのです。楽譜に書かれてあることを、何も足さず何も引かず、あるがままに、ただしフィラデルフィアのゴージャスな響きでもって演奏した人でした。そして、「エロイカ」のような作品だと、そのスタイルに対していささか物足りなさを感じる人がいたとしても、こういう2番や8番のような脇役でればなんの不足もないでしょう。
とりわけ、2番の交響曲はハイドンの偉大な交響曲の系譜を引き継ぐ、大傑作であったことがよく分かる演奏です。8番もまた引き締まった演奏で。第3楽章のホルンのソロなどを聞くと、フィラデルフィア管の個々のプレーヤーの能力の高さを思い知らされます。
ただし、この7番に関しては多少の不満は残るかもしれない。それは、この音楽に必要な推進力がいささか希薄な感じがするのです。ただし、それは、いささかゆっくり目のテンポであるがためと言うような話ではなく、音楽そのものの内部からわき上がる推進力が希薄なのです。いってみれば、個々のプレーヤーはオーマンディの指揮棒にキッチリと追従してきちんと演奏しているのですが、それだけでは不足する部分があると言うことです。
かといって、オケの首根っこをつかまえて引きずっていくような力業はオーマンディにはないので、この予定調和のような淡々とした演奏にはいささか不満が残ると言うことです。
それからこの第9番。これも悪くないと思うのですが最終楽章の声楽人為不満が残ることは否定できないかもしれません。
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