シューマン:交響曲第4番 ニ短調 作品120
フランツ・コンヴィチュニー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1961年録音
Schumann:Symphony No.4 in D minor Op.120 [1.Ziemlich langsam - Lebhaft]
Schumann:Symphony No.4 in D minor Op.120 [2.Romanze: Ziemlich langsam]
Schumann:Symphony No.4 in D minor Op.120 [3.Scherzo: Lebhaft]
Schumann:Symphony No.4 in D minor Op.120 [4.Langsam - Lebhaft]
マーラーへとつながっていく作品なのでしょうか?
シューマンのシンフォニーというのは年代的に見ればベートーベンとブラームスの中間に位置します。ですから、交響曲の系譜がベートーベン-シューマン-ブラームスと引き継がれてきたのかと言えば、それはちょっと違うようです。
ロマン派の時代にあってはメロディとそれをより豊かに彩る和声に重点が置かれていて、そのことは交響曲のような形式とはあまり相性がよいとは言い難いものでした。そのことは、リストによる交響詩の創作にも見られるように、構築物として音楽を仕上げるよりは物語として仕上げることに向いた仕様だったといえます。
こういう書き方をすると誤解を招くかもしれませんが、シューマンの交響曲を聴いていると、それはベートーベンから受け継いだものをブラームスへと受け継いでいくような存在ではなくて、ベートーベンで行き着いた袋小路から枝分かれしていった一つの枝のような存在であり、それがリストに代表される交響詩へと成長していったと把握した方が実態に近いのではないかと思います。
とりわけこの第4番の交響曲を聴くと、それはベートーベン的な構築物よりは、交響詩の世界の方により近いことを実感させられます。
事実、シューマン自身もこの作品を当初は「交響的幻想曲」とよんでいました。
この作品は番号は4番となっていますが、作曲されたのは第1番と同じ1841年です。当初はその作曲順の通りに第2番とされていて、同じ年に初演もされています。
しかし、第1番と違って初演の評判は芳しくなく、そのためにシューマンは出版を見あわせてしまいます。そのために、5年後に作曲された交響曲が第2番と名付けられることになりました。
その後この作品はシューマン自身によって金管楽器などの扱いに手直しが加えられて、1853年にようやくにして出版されることになります。
シューマンの音楽というのはどこか内へ内へと沈み込んでいくような雰囲気があるのですが、4曲ある交響曲の中でもその様な雰囲気がもっとも色濃く表面にでているのがこの第4番の交響曲です。そして、こういう作品をフルトヴェングラーのような演奏で聞くと、「そうか、これはリストではなくてマーラーにつながっていくんだ」と気づかされたりする作品です。第3楽章から第4楽章につながっていく部分は誰かが「まるでベートーベンの運命のパロディのようだ!」と書いていましたが、そういう部分にもシューマンの狂気のようなのぞいているような気がします。
最もスタンダードなシューマンの姿
「2番と4番をアップするのは来年まで待ちたいと思います。」と書きながらすっかりアップするのを忘れていたようです。
この時代の録音としてはいささか水準よりは落ちるのですが、それでも、肝心要の演奏しているオケの響きが素晴らしいので、それが録音の不備を充分に補ってくれていると思います。
コンヴィチュニーとゲヴァントハウス管の組み合わせというと、判で押したように「燻し銀」だの「くすんだ音色」だの、酷いのになると「古色蒼然」などという表現がついて回ります。これは、かつて「エライ評論家先生」がそのように形容したので、それがいつの間にか一人歩きし、さらには自分の耳と感性を信じられない人々がその評価をなぞることで増幅されていったようです。
しかしながら、自分の耳と感性を信じられる人ならば、このオケの響きが「燻し銀」でもなければ「くすんだ音色」でもなく。ましてや「古色蒼然たる響き」などではないことはすぐに了解できるはずです。
このオケの響きの素晴らしさは、まず何よりも管楽器のふくよかで暖かな響きです。特に木管楽器の響きがいいのですが、ホルンなどの金管群も実に暖かい手触りのいい音を聞かせてくれます。
そして、それを支える弦楽器群は意外なほどに明るめでエッジの立った音を聞かせています。結果として、内部の見通しがよくて、意外なほどに透明度の高い響きになっています。また、弦楽器の響きがエッジが立っているので、メロディーラインの隈取りがかっちりしていて、これのどこを聞けば「古色蒼然」などと言う言葉が出てくるのか理解に苦しみます。
コンヴィチュニーは戦後間もない1949年からなくなる1962年まで、このライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を率いています。その10数年は、いかに名門のオケとはいえ戦後の混乱の中で極めて困難な時代であったはずです。いくつかの資料などを見てみると、楽器の調達からメンバーの確保まで、頭の痛くなるようなことが次から次へと降りかかってきたようです。しかし、そのような困難な中にあって、かくも魅力的な響きをもったオケに立て直した事実を見ると、コンヴィチュニーというのがいかに優れたオーケストラトレーナーであったかが察せられます。
1960年から1961年にかけて録音された、このシューマンの交響曲全集は、そのようにして作り上げてきたコンヴィチュニーとゲヴァントハウス管の到達点を聞くことができる録音です。言うまでもなく、この録音はシューマンの交響曲を語るときには必ずふれる必要のある録音であり、その素晴らしさは多くの人によって語られきましたので、今さら私が付けくわえることは何もありません。
月並みな言い方ですが、最もスタンダードなシューマンの姿がここにあります。
シューマンの交響曲4曲のうち、第3番「ライン」をのぞく3曲が、このライプツィヒにおいて初演されています。オケは言うまでもなくゲヴァントハウスのオケです。
- 交響曲第1番:1841年3月31日 メンデルスゾーン指揮!! ゲヴァントハウス管弦楽団
- 交響曲第2番:1846年11月5日 メンデルスゾーン指揮!! ゲヴァントハウス管弦楽団
- 交響曲第4番:1841年12月6日 ダヴィッド指揮 ゲヴァントハウス管弦楽団
劇場的継承という物は地下水脈のように綿々とつながっている物です。おそらく、ゲヴァントハウスのオケにしても、指揮者のコンヴィチュニーにしても、シューマンの交響曲こそは「我らの音楽」だという思いは強いし、自負もあったでしょう。
そして、ゲヴァントハウスのオケはコンヴィチュニーが亡くなった後も、ノイマン、マズア、プロムシュテットという指揮者を得て、その音色の伝統を頑なに守り続けた数少ないオケでした。しかしながら、その素晴らしい音色も2005年にシャイーが指揮者に就任することで木っ端微塵に砕け散ってしまいました。
シャイーという男は、コンセルトヘボウ、ゲヴァントハウスという二つのオケの伝統を破壊したという意味で極刑に値する人物だと思うのですが、そういう男が「マエストロ」と持ち上げられ事にヨーロッパのクラシック音楽界の異常さを感ぜずにはおれません。
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