シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ(ソナチネ)第2番 イ短調 D.385
(P)リリー・クラウス (Vn)ウィリー・ボスコフスキー 1957年5月2日,3日&6日録音
Schubert:Violin Sonata No.2 in A minor, D.385 [1.Allegro moderato]
Schubert:Violin Sonata No.2 in A minor, D.385 [2.Andante]
Schubert:Violin Sonata No.2 in A minor, D.385 [3.Menuetto(Allegro vivace)]
Schubert:Violin Sonata No.2 in A minor, D.385 [4.Allegro]
ウィーンゆかりの作曲家の作品を集中的に録音
若きシューベルトの歌心があふれた作品
シューベルトにとって、このヴァイオリンとピアノのための作品は親しい友人たちと演奏を楽しむために書かれたもので、言ってみればそれほど気合いの入った作品ではありません。そのために、ソナタと言うには構成が簡潔にすぎるので、「ソナチネ」と呼ばれることもある作品です。
よく言われるのは、ソナタ形式と呼ぶには展開部がいたって簡潔であり、さらには第2主題も第1主題に対抗するほどの大きな意味を持たないと言うことです。そのために、作品の規模は小さくて、3楽章構成の第1番では演奏時間はわずか10分あまりです。
しかし、そんな蘊蓄よりも重要なことは、ここには19歳のシューベルトのあふれるような「歌心」があふれていることです。
例えば、このシンプル極まる第1番のソナチネにしても、深い思いを胸に秘めてそぞろ歩く若者を想起させるような第2楽章はとても魅力的です。そして、その若者は突然にあふれ出した痛切な思いによって歩みを止めるのですが、再びそのような思いを振り捨てて再び歩み出すような風情は、まさに19歳のシューベルトの自画像のようです。
第2番にしても、音楽は冒頭から深い哀切なる思いに包まれています。第2楽章では伸びやかなヴァイオリンの旋律が様々な調性を渡り歩く変奏曲形式は実に美しく聞こえます。
そして、そう言う若書きの作品であっても、最後を飾る3番ソナタともなれば、音楽は引き締まり、結構立派な姿を見せてくれます。
専門家の間にあっては「音楽的には取るに足りない作品」と切って捨てる向きもあるようですが、そして、音楽を勉強として聴く人ならばそれでいいのかもしれませんが、私たちのようなもにとってはそれはあまりにももったいなさすぎます。
ここには、疑いもなく若い19歳のシューベルトの自画像が刻み込まれているように思います。
ウィーンゆかりの作曲家の作品を集中的に録音
ボスコフスキーは50年代の中頃に、ピアニストとのリリー・クラウスやウィーンフィルの気心の知れた連中を集めて、ウィーンゆかりの作曲家の作品を集中的に録音しています。
そのラインナップは、確認できただけで以下の通りです。
モーツァルト:ヴァイオリンソナタ(ほぼ全集) (P)リリー・クラウス (Vn)ウィリー・ボスコフスキー 1954年~1957年録音
モーツァルト:ピアノ三重奏曲全集 (P)リリー・クラウス (Vn)ボスコフスキー (vc)ニコラス・ヒューブナー 1954年録音
モーツァルト:ピアノ協奏曲第9番・20番 (con)ウィリー・ボスコフスキー (p)リリー・クラウス ウィーン・コンツェルトハウス室内管弦楽団 1955年録音
ベートーベン:ヴァイオリンソナタ全集 (P)リリー・クラウス (Vn)ウィリー・ボスコフスキー 1955年録音
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第1番、第2番、第3番 (P)リリー・クラウス (Vn)ウィリー・ボスコフスキー 1957年録音
ウィーンフィルというのはいうまでもなくウィーン国立歌劇場のオケのメンバーによって自主的に運営されている団体です。そして、母体であるウィーン国立歌劇場というのは、9月から翌年6月までのシーズンでクリスマスの日しか休まないという世界で最も勤勉な歌劇場です。もちろん、オケのメンバーは交代で歌劇場で演奏するのですが、それでも激務であることは変わりはなく、その合間を縫ってこれだけの録音を残したことには驚きを感じます。
ただ、そういう事情が背景にあるためか、その演奏はスコアを徹底的に読み込んで新しい解釈や発見を世に問うというものではなく、我らが街の、我らが作曲家の作品を、我らの先輩達が演奏してきた流儀で演奏しています。そして、それが、「伝統とは怠惰の別名」と喝破したマーラーの言葉を思い出してしまうような場面があちこちにあります。
要は、緩いんですね。(^^v
ですから、モーツァルトやシューベルトはまだしも、ベートーベンのヴァイオリンソナタに関してはほとんど話題になることもなく、忘れ去られてしまった録音になっています。こう言い切っても、ほぼ間違いないでしょう。
しかし、考えてみれば、ベートーベンのヴァイオリンソナタというのは、そのほとんどがベートーベンの初期作品です。特に、作品12の3作品などははっきりとハイドンやモーツァルトの影響が刻み込まれています。4番から8番にしても、それらは「エロイカ以前」の作品です。あまり眦決して演奏するよりは、こういう緩めの風情でのんびり聞くのも悪くはないのです。
そう言えば、この作品の決定盤ともいうべきオイストラフ&オポーリン盤について、こんな恐れ多いことを書いたことがあります。
「仕事の仕上がりが完璧であればあるほど、ベートーベンの若書きゆえの弱さみたいなものがあぶり出されていくような気もするのです。」
ほとんど言いがかりのような物言いなのですが、この緩い演奏を聴くことで、再びそれが言いがかりとも言い切れないことに音楽の難しさを垣間見たような気がします。
なお、最後に録音に関する情報を一つ。
このボスコフスキーとクラウスを核とした一連の録音は、前半はウィーンで、後半はパリで行われています。このベートーベンのヴァイオリンソナタに関していえば、1番から5番、そして8番がウィーンで行われ、録音を担当したのはAntoine Duhamel(アントワーヌ・デュアメル)です。
アントワーヌ・デュアメルと言えばフランスの作曲家、音楽学者として知られているのですが、この頃はAndre Charlin(アンドレ・シャルラン)のもとで録音エンジニアをしていたのですね。
そして、注目すべきは後半のパリでの録音で、こちらはフランスの伝説的名ンジニア、アンドレ・シャルランが担当しています。
雰囲気的には54年から55年にかけてはAntoine Duhamel、56年から57年にかけてははAndre Charlinが担当したようです。
Antoine Duhamelの録音はどちらかと言えば常識的な音のとり方ですが、Andre Charlinの方はさすがの音作りです。ピアノとヴァイオリンという二つの楽器が対等に一つの空間で鳴り響いている姿を実にうまくすくい取っています。こういうのを聞くと、編成の小さな室内楽ではモノラル録音であることはほとんどハンデにはならないことを教えられます。
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