ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90
ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1963年7月13日,14日&16日録音
Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [1.Allegro con brio]
Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [2.Andante]
Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [3.Poco allegretto]
Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [4.Allegro]
秋のシンフォニー
長らくブラームスの音楽が苦手だったのですが、その中でもこの第3番のシンフォニーはとりわけ苦手でした。
理由は簡単で、最終楽章になると眠ってしまうのです(^^;
今でこそ曲の最後がピアニシモで消えるように終わるというのは珍しくはないですが、ブラームスの時代にあってはかなり勇気のいることだったのではないでしょうか。某有名指揮者が日本の聴衆のことを「最初と最後だけドカーンとぶちかませばブラボーがとんでくる」と言い放っていましたが、確かに最後で華々しく盛り上がると聞き手にとってはそれなりの満足感が得られることは事実です。
そういうあざとい演奏効果をねらうことが不可能なだけに、演奏する側にとっても難しい作品だといえます。
第1楽章の勇壮な音楽ゆえにか、「ブラームスの英雄交響曲」と言われたりもするのに、また、第3楽章の「男の哀愁」が滲み出すような音楽も素敵なのに、「どうして最終楽章がこうなのよ?」と、いつも疑問に思っていました。
そんな時にふと気がついたのが、これは「秋のシンフォニー」だという思いです。(あー、また文学的解釈が始まったとあきれている人もいるでしょうが、まあおつきあいください)
この作品、実に明るく、そして華々しく開始されます。しかし、その明るさや華々しさが音楽が進むにつれてどんどん暗くなっていきます。明から暗へ、そして内へ内へと音楽は沈潜していきます。
そういう意味で、これは春でもなく夏でもなく、また枯れ果てた冬でもなく、盛りを過ぎて滅びへと向かっていく秋の音楽だと気づかされます。
そして、最終楽章で消えゆくように奏されるのは第一楽章の第1主題です。もちろん夏の盛りの華やかさではなく、静かに回想するように全曲を締めくくります。
「幻」の全集
ドラティのブラームス交響曲全集には「幻」という言葉が冠せられることが多いようです。まあ、こう言えば聞こえはいいのですが、要はほとんど話題になることもなく「無視」されてきた録音だと言うことです。
確かに、ドラティと言えばまずはハイドン、そしてストラヴィンスキーのバレエ音楽、さらには同郷のバルトークやコダーイなんかに優れた適正を示したという印象はあっても、ベートーベンやブラームスみたいなドイツ・オーストリア系の正統派(ってなにが正統なのよ・・・という正統な突っ込みはひとまず脇において)音楽とはなんだかミスマッチな気がします。
ところが、実際に聞いてみると、例えばベートーベンなんかは確かにガタイは小さいのですが、とんでもなくパキパキとした演奏で、よく言えばリズムが立っているというのか、とにかくオケの整理の仕方が尋常ではないのです。ある意味では後年の古楽器による演奏を思わせる風情があるのですが、根本的にオケの響きのクオリティが違います。どの録音を聞いても最後のフィナーレでは見事なまでの盛り上がりを聞かせてくて、レイホヴィッツの録音などと同様に時代の制約を超えた演奏だと言えます。
そして、それとほぼ同じ事が、このブラームスの録音にもいえます。
ドラティによるブラームスは以下のような順で録音されています。
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73・・・ミネアポリス交響楽団 1957年12月12日録音
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68・・・ロンドン交響楽団 1959年6月16日&18日録音
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98・・・ロンドン交響楽団 1963年7月11日&13日録音
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90・・・ロンドン交響楽団 1963年7月13,14日&16日録音
最初の第2番だけが手兵のミネアポリス交響楽団を使い、残りの3曲はロンドン交響楽団を使っています。
ドラティはミネアポリス交響楽団を1960年まで率いていたので、少なくとも59年録音の第1番ではこの手兵を使って録音するのが普通だと思うのですが、その普通のことをしなかったあたりにドラティの意気込みみたいなものを感じます。
この全集の録音プロデューサーは全てウィルマ・コザードです。
コザードは、モノラルならば一本のマイク、ステレオ録音になってからは左右に一本ずつ追加して合計で3本というスタイルを厳格に守り続けた人です。いわゆるワンポイント録音という手法で、3トラックに録音した音を2チャンネルにトラックダウンするだけですから、録音してからの調整などはほとんどできません。
ですから、録音してからいかようにも料理できるマルチマイク録音と違って、演奏する側に一切の誤魔化しを許さない録音スタイルでした。
ですから、上手に化粧を施された最新録音を聞きなれた耳からすれば、ミネアポリス交響楽団との録音は「荒さ」みたいなものを感じるのですが、誤魔化し無しでこれだけ演奏できれば実は大したものなのです。
しかし、残りの3曲をロンドン交響楽団で聴いてしまうと違いは歴然としてしまいます。この時代のロンドン響は凄いのです。
ドラティという人は「オーケストラ・ビルダー」であると同時に本職の「作曲家」でもあったのですが、そういう現在の作曲家としての目で音楽を一から見直せば鋭い切れ味抜群のリズムとテンポで音楽を再構築したくなるようです。そして、その本能を満たすにはミネアポリスのオケでは役不足と感じたのでしょう。
特に、63年にまとめて録音された3番と4番は実に素晴らしい演奏です。
個人的には、第3番の最後の二つの楽章がとりわけ気に入りました。そう言えば、このピアニシモで終わるこのフィナーレが苦手で、聞くと必ず眠ってしまうなんて書いたことがあったのですが、ドラティとロンドン響との演奏ではそんな愚かなことは絶対に起こりません。
第4番の第2楽章のしみじみした雰囲気も秀逸なのですが、それよりも決して「枯れてはいない」ブラームスの姿がはっきりと聞き取れる音楽の作りが実に凄いです。
この二つの録音がなければ、いささか行儀のよすぎる1番のロンドン響よりも、ある程度の「荒さ」が牧歌的な第2番に妙にマッチしているミネアポリスの方が好ましく思う面もありました。
しかし、63年に録音された二つのブラームスの世界は、残念ながらミネアポリスとのオケでは実現できない世界であったことは否定しようがありません。
長く無視されながらも最近になって「幻」という定冠詞がついた所以でもあったのでしょう。
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