ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調
オイゲン・ヨッフム指揮 バイエルン放送交響楽団 1958年2月録音
Anton Bruckner:Symphony No.5 in B-flat major, WAB 105 [1.Introduktion: Adagio - Allegro]
Anton Bruckner:Symphony No.5 in B-flat major, WAB 105 [2.Adagio: Sehr langsam]
Anton Bruckner:Symphony No.5 in B-flat major, WAB 105 [3.Scherzo: Molto vivace (schnell) - Trio: Im gleichen Tempo]
Anton Bruckner:Symphony No.5 in B-flat major, WAB 105 [4.Finale: Adagio - Allegro moderato]
何故か演奏機会の少ない作品です
ブルックナーを心から敬愛する愛好家からは最もブルックナーらしい傑作として高く評価されることの多い作品ですが、何故か演奏機会は多くありません。
その辺の事情は初演時も同じだったようで、途中で第3交響曲の改訂という大きな中断を含みながらも1878年にようやく完成を見たこの作品は、なかなか演奏の機会に恵まれませんでした。
ピアノ編曲による試演などは行われたようですが、本来の形での演奏は1894年にシャルクによって行われました。しかし、当時既に病に伏していたブルックナーはこの演奏会におもむくことができず、翌年にレーヴェによって行われた演奏会にも出かける事はできませんでした。
おそらくブルックナーはこの作品を自分の耳で聞く機会はなかったのではないかと考えられます。
また、シャルクやレーヴェによる演奏も、いつものごとく大幅なカットや改訂が行われていたようです。
その様な不幸な生い立ちがこの作品のポピュラリティを引き下げる要因となったかもしれません。
冒頭の「ブルックナーの霧」が晴れると目の前に巨大なアルプスの山塊がそびえ立つような音楽は、最もブルックナーらしい音楽といえるかもしれません。また、第1楽章も第2楽章もアダージョというのはそう言うブルックナーらしさをより一段と強調しています。
そして、何よりも最終楽章のフィナーレはブルックナー自身が「コラール」と名付けているように、雄大かつ荘厳、壮麗な音楽です。
この長大な音楽を聞き続けてきたものにとって、この最後の場面で繰り広げられる音楽こそは、ブルックナーを聞く最大の喜びだといえます。
<追記>
ある方からメールので以下のようなご指摘をいただきました。
「こんにちは。いつも楽しく聴かせていただいています。Thanks a lot!
ブルックナーのファンとしてひとつ気になったのが、5番の解説で"1楽章も2楽章もアダージョ"と書かれているところです。ご承知のように1楽章はアダージョの序奏を持つアレグロの楽章で、2楽章とは通常のシンフォニーと同じように急ー緩の対比があると思います。1楽章と4楽章が共通のアダージョの序奏を持っていること、4楽章の2重フーガで1楽章のアレグロの楽想が帰ってくるところ、などがこの交響曲を特徴付けていると思うのですが?」
まったくその通りです。
感謝!!
出来れば手兵のバイエルン放送交響楽団だけで全集を完成させてほしかった
ヨッフムのブルックナーと言えば一つのブランドでもあります。ただし、トップブランドではなく、それでも、いつの時代にも根強い支持者が存在する老舗ブランドという風情でした。
ですから、彼は生涯に二度、ブルックナーの交響曲全集を完成させています。そして、ここで紹介しているブルックナー録音はその最初の方の全集に収録されているものです。
いうまでもないことです二2度目の全集は1975年から1980年にかけてシュターツカペレ・ドレスデンとのコンビで録音されています。
最初の全集は、バイエルン放送交響楽団とベルリン・フィルを使って録音されていて、録音年順に並べると以下の通りとなっています
- 交響曲第5番変ロ長調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1958年2月
- 交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1964年1月
- 交響曲第7番ホ長調 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1964年10月
- 交響曲第9番二短調(ノヴァーク版)ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1964年12月
- 交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』(1886年稿ノヴァーク版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1965年7月
- 交響曲第1番ハ短調 (リンツ稿ノヴァーク版): ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音時期:1965年10月
- 交響曲第6番イ長調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1966年7月
- 交響曲第2番ハ短調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1966年12月
- 交響曲第3番二短調(1889年稿ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 録音時期:1967年1月
58年に第5番を録音したときは、それが全集になると言うことは全く想定していなかったでしょう。おそらくは、自分が得意とする作品を単発で世に問うという録音だったと思われます。だからと言うわけではないのでしょうが、この全集の中でも優れた部類の演奏に仕上がっているように感じます。
特に最終楽章の壮大な盛り上がりは結構聴き応えがあります。ただし、この少し前にクナ&ウィーンフィルによるお化けみたいな録音があるのでどうしても印象が薄くなってしまうのが悲しいところです。
この後の録音のスケジュールを眺めてみれば、7,8,9番が64年、4,1番が65年、そして6,2番が66年、3番が67年に録音されて全集として完成していますから、64年1月の8番を録音した時点では全集が視野に入っていたものと想像されます。そして、この全集はベルリンフィルを使って完成させるつもりだったのでしょうが、66年からはオケが手兵のバイエルン放送交響楽団に変わっています。
これもまた、想像の域を出ませんが、おそらくはカラヤン&ベルリンフィルの活動が忙しくなって、ヨッフム相手にブルックナーのマイナー作品なんかは録音している暇がなくなったのでしょう。
しかし、結果的に見れば、オケがここで変わったことはよかったようです。
64年からヨッフムはベルリンフィルとブルックナーの録音をはじめるのですが、64年と言えばすでにカラヤンとの間でベートーベンの交響曲を全曲録音した後です。
カラヤンという男は傲慢な男のように見えて結構賢い奴で、ベルリンフィルの「終身首席指揮者兼芸術総監督」というポストを手に入れても、己のやり方をすぐに押しつけるようなことはしませんでした。それこそ時間をかけて少しずつ自分好みの色に染めていったという雰囲気が濃厚です。そして、その「色に染める」最終過程が61年から62年にかけて行われたベートーベンの交響曲録音でした。
ですから、64年と言えば、ベルリンフィルはすでにドイツの田舎オケの風情は失ってしまい、完全にカラヤンのオケになってしまっていました。そんなオケにヨッフムが乗り込んでみても、すでに「レガート・カラヤン」の色がしみ込みはじめていたこのオケから出てくる響きはどこか軟体動物のようなものでした。
もちろん、こういうオケの響きのような繊細な問題を録音だけで判断するのは危険であることは承知していま。しかし、66年からのバイエルンとの録音から聞くことが出来る響きとは異質であることは間違いありません。例えば、この全集の最後を締めくくる第3番の録音から聞こえてくるオケの響きは、カラヤンの色に染まったオケの響きとは全く異質です。
そして、個人的には、こういう軟体動物のような芯のはっきりしない響きでブルックナーを聞かされるのはあまり嬉しくはありません。
さらに言えば、ベルリンフィルはあまりヨッフムの指示に従っていないようにも思えます。
例えば、8番の最終楽章なんかはヨッフムの意図というよりは「早く済ませてビールでも飲みに行こうぜ!」みたいな雰囲気すら漂います。(^^;
ドイツグラモフォンにしてみればベルリンフィルと組んだ方が売れると判断したのでしょうが、出来れば手兵のバイエルン放送交響楽団だけで全集を完成させてほしかったです。ただし、私が軟体動物のようだと感じた8番の録音に対してヨッフムらしい剛毅さが現れた演奏と絶賛する向きもあるのですから、もしかしたら私の聴き方が悪いのかもしれませんが・・・。
よせられたコメント
2015-09-08:Sammy
- 丁寧かつ精力的に構築された、隅々まで堂々として美しい、素晴らしい演奏と思いました。バイエルン放送交響楽団の明るめの重厚な響きが力強く広がって心地よいです。さすがはこの作品を得意として来たと言われるヨッフムならではの万全の名演奏と言ってよいのではないでしょうか。
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