ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21
トスカニーニ指揮 BBC交響楽団 1937年10月25日&1938年6月2
Beethoven:Symphony No.1 in C major , Op.21 [1.Adagio Molto; Allegro Con Brio]
Beethoven:Symphony No.1 in C major , Op.21 [2.Andante Cantabile Con Moto]
Beethoven:Symphony No.1 in C major , Op.21 [3.Menuetto; Allegro Molto E Vivace]
Beethoven:Symphony No.1 in C major , Op.21 [4.Adagio; Allegro Molto E Vivace]
栴檀は双葉より芳し・・・?
ベートーベンの不滅の9曲と言われ交響曲の中では最も影の薄い存在です。その証拠に、このサイトにおいても2番から9番まではとっくの昔にいろいろな音源がアップされているのに、何故か1番だけはこの時期まで放置されていました。今回ようやくアップされたのも、ユング君の自発的意志ではなくて、リクエストを受けたためにようやくに重い腰を上げたという体たらくです。
でも、影は薄いとは言っても「不滅の9曲」の一曲です。もしその他の凡百の作曲家がその生涯に一つでもこれだけの作品を残すことができれば、疑いもなく彼の代表作となったはずです。問題は、彼のあとに続いた弟や妹があまりにも出来が良すぎたために長兄の影がすっかり薄くなってしまったと言うことです。
この作品は第1番という事なので若書きの作品のように思われますが、時期的には彼の前期を代表する6曲の弦楽四重奏曲やピアノ協奏曲の3番などが書かれた時期に重なります。つまり、ウィーンに出てきた若き無名の作曲家ではなくて、それなりに名前も売れて有名になってきた男の筆になるものです。モーツァルトが幼い頃から交響曲を書き始めたのとは対照的に、まさに満を持して世に送り出した作品だといえます。それは同時に、ウィーンにおける自らの地位をより確固としたものにしようと言う野心もあったはずです。
その意気込みは第1楽章の冒頭における和音の扱いにもあらわれていますし、、最終楽章の主題を探るように彷徨う序奏部などは聞き手の期待をいやがうえにも高めるような効果を持っていてけれん味満点です。第3楽章のメヌエット楽章なども優雅さよりは躍動感が前面にでてきて、より奔放なスケルツォ的な性格を持っています。
基本的な音楽の作りはハイドンやモーツァルトが到達した地点にしっかりと足はすえられていますが、至る所にそこから突き抜けようとするベートーベンの姿が垣間見られる作品だといえます。
トスカニーニの美質が最もよく刻み込まれた録音
トスカニーニはエイドリアン・ボールトの招きで創設間もないBBC交響楽団に客演します。1935年のことです。
当時トスカニーニはニューヨークフィルの常任指揮者を務めており、そのハードな仕事に「引退」を考えていた時期でした。そして、実際にこの翌年にニューヨークフィルの常任指揮者を辞任してしまいます。しかしながら、トスカニーニの商業的価値は未だに絶大であり、その価値に目をつけたNBCがトスカニーニ専属のオケを編成して彼を破格の条件で招いたのは今さら言うまでもないことです。
つまりは、トスカニーニが大戦前にイギリスに招かれて客演活動を行ったのは、彼自身にとっても色々と多事な出来事の合間だったわけです。しかしながら、そう言う多事な合間でありながら、トスカニーニはこのイギリスのオケがすっかり気に入ってしまい、37年から39年にかけて毎年指揮をす事になります。そして、戦争でそのつながりは一時途切れるのですが、戦後もまたフィルハーモニア管に招かれて指揮棒をふるうことになります。
ちなみに、ベートーベンだけに限ってみれば以下のような感じです。
- ベートーヴェン:交響曲第1番 ハ長調 Op. 21:1937年10月25日&1938年6月2日(セッション録音)
- ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 『田園』 Op. 68:1937年6月17日、10月21-22日(セッション録音)
- ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 Op. 60:1939年6月1月(セッション録音)
- ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 Op. 92:1935年6月14日(ライヴ)
イギリスのオケは大陸の各国とは違って非常に歴史が浅いのが特徴です。最も伝統のあるハレ管にしても創立は1857年です。ちなみに、最古のオケはロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団で、創立は1840年と言われています。
しかし、現在のイギリスの5大オケといわれるところの創立は以下の通りです。
- ロンドンフィル:1932年
- フィルハーモニア管弦楽団:1945年
- BBC管弦楽団:1930年
- ロイヤルフィル:1946年
- ロンドン交響楽団:1904年
バーミンガム市響はサイモン・ラトルが去ってからは地盤沈下しているようで、現在では」5大オケの一角には食い込めないようです。(ちなみに、創立は1920年です)
つまりは、どこもかしこも結構新しいオケなのです。そして、その新しさ故に、よく言えば癖のないニュートラルな性格を持つようになりました。悪く言えば個性に乏しい面白味のないオケということなのですが、よく言えば真っ白なノートみたいなオケであり、指揮者にしてみれば自分の描きたい絵が自由に描けるオケということになります。
そして、このトスカニーニという強烈な個性を持った指揮者にしてみれば、自分の要求に全力で応えようとするBBC交響楽団のニュートラルな性格は非常に好ましく感じられたのでしょう。実際、このコンビによる録音は、ある意味ではトスカニーニの美質が最もよく刻み込まれています。
トスカニーニといえば晩年の硬直した音楽が槍玉に挙げられるのですが、ここではリズムも歌もしなやかさに満ちています。素晴らしい!!
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