クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

R.シュトラウス 交響詩「死と変容」 作品24

フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1950年1月21,23,24日録音





R.Strauss:交響詩「死と変容」 作品24


「暗黒から光明へ」というロマン派の思想が反映した作品

この作品は「ドン・ファン」と平行するように書かれた作品で、1889年11月11日にドンファンの初演が行われた1週間後の11月18日に完成したと言われています。この作品について、シュトラウスは友人への手紙の中で、「極めて高い目標に向かって努力している一人の芸術家としての人間が死の瞬間をむかえるときの様子を交響詩で表現しよう」としたと述べています。
つまり、生きている間は実現できなかった芸術的理想が、死を迎えることによって永遠の宇宙の中で実現されるというモチーフを音にしようというのです。
正直言って、今の時代を生きる人間にとっては、そのあまりにも大仰な物言いはピントくるものではないのですが、これがいわゆる19世紀のロマン主義というものなのでしょう。
なお、この作品のスコアの冒頭にアレクサンダー・リッターという詩人の詩が掲げられていますが、これは、作品の内容を聴衆に理解しやすくするために、シュトラウスが詩人のリッターに音楽を聞かせて書かせたものです。もともとは、初演の祭にパンフレットのような形で聴衆に配布したらしいのですが、後に、リッター自身が作品の不十分さを感じて全面的に改定し、それがスコアに掲げられるようになったものです。
「暗から明へ」「暗黒から光明へ」というロマン派好みの分かりやすさに貫かれた作品だと言えますし、管弦楽法の達人と言われるようになるシュトラウスの腕がはっきりと感じ取れる作品となっています。

いつもとは少しばかり異なった顔が見られる


フルトヴェングラーは、その残された言葉や文章を見る限り、いわゆる「標題音楽」というものを評価していなかったことは明らかです。例えば、彼は、標題音楽というものはフラワーアレンジメントみたいなものだと語っています。中には趣味のよい組み合わせもあるが本質的には見た目がきれいなものを適当に並べたり組み合わせたりしただけのものだと言うのです。
ですから、レッグからの強い要望でリストの「前奏曲」を録音したときも、それは全く気乗りのしないお仕事だったようです。

そして、そのような評価は、リストの一連の交響詩だけでなく、その完成形とも言うべきリヒャルト.シュトラウスの交響詩においても同様でした。もちろん、フルトヴェングラーは管弦楽法の名人としてのシュトラウスの才能は高く評価していましたし、その名人芸によって生み出される響きの素晴らしさは認めていました。しかし、そのような部分的な素晴らしさは認めていても、作品そのものを「偉大」なものだとは認めていなかったようです。

そのあたりの微妙な雰囲気を、彼は「遊び半分の名人芸」と表現しています。
彼は覚え書きの中でシュトラウスの遊び心は大真面目な子どもの遊び心ではなく、それは基本的には無責任な大人の遊び心であり、そのために彼は音楽を心を込めて真剣に語っていないと述べています。
つまり、彼はシュトラウスの素晴らしい名人芸は認めながらも、それが「真に偉大なもの」に奉仕するために発揮されていないというのです。もちろん今の時代ならば、シュトラウスが生きた時代にベートーベンのような人類愛の理想を脳天気に歌い上げることが可能だったのか?と言う「突っ込み」は入るでしょう。しかし、骨の髄までの古典主義者だったフルトヴェングラーにとってはそのような「突っ込み」自体がナンセンスでした。

ですから、彼がシュトラウスの作品を取り上げるときは、ベートーベンの作品を取り上げるときのような真剣で大真面目な態度は捨てて、その名人芸のひけらかしに徹しているように聞こえます。そして、おそらくはそのようなスタンスのためだと思うのですが、彼が取り上げたシュトラウスの作品は「ドン・ファン」「死と変容」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」の3作品に集中しています。言うまでもなく、これらの作品は古今の西洋音楽における管弦楽法の頂点をなすものです。

そう言う意味では、「20世紀の指揮芸術の頂点に君臨した男」としてのフルトヴェングラーとは、また異なった側面に出会える録音だとも言えます。ここでは、彼は古典派の音楽を取り上げるときとは全く異なったアプローチで音楽を作り上げています。
その最大の特徴は、響きの細部を精緻に表現しようとしていることでしょう。彼が得意とする、音楽全体が今まさに生まれだそうとしているかのような有機的な構造は背景に押しやられ、逆に瞬間瞬間の響きのテクスチャを精緻にあぶり出して楽しんでいるように聞こえます。

しかしながら、その響きは、数々のハイテクオケの響きになじんだ現代の耳からすれば、あまりにも厚ぼったくて内部の見通しもそれほど良好だとは言えません。そう言う意味では、カラヤン&ベルリンフィルのような組み合わせを押しのけてまでも選びたいとは思わない人も多いでしょう。
ただし、そうは言っても、やはり指揮棒を振っていると全体を構築する本能が顔を出すようです。例えばティルなどでは、細部の響きだけでなく結局はその荒っぽいアウトロー的な性格が誰よりも見事に描き出されてしまっていて、やっぱりフルヴェンはフルヴェンだと苦笑してしまいます。「死と変容」なども、次第次第に音楽うねりだして、気がつけばトリスタン的な世界が顔をのぞかせたりして、これもまた苦笑してしまいます。

と言うわけで、フルトヴェングラーの業績の中では「傍流」に位置するものでしょうが、いつもとは少しばかり異なった顔が見られると言うことで、それなりに興味深い録音だとは言えそうです。

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