ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調
クレンペラー指揮 バイエルン放送交響楽団 1956年4月12日録音
Bruckner:交響曲第7番 ホ長調 「第1楽章」
Bruckner:交響曲第7番 ホ長調 「第2楽章」
Bruckner:交響曲第7番 ホ長調 「第3楽章」
Bruckner:交響曲第7番 ホ長調 「第4楽章」
はじめての成功
一部では熱烈な信奉者を持っていたようですが、作品を発表するたびに惨めな失敗を繰り返してきたのがブルックナーという人でした。
そんなブルックナーにとってはじめての成功をもたらしたのがこの第7番でした。
実はこの成功に尽力をしたのがフランツ・シャルクです。今となっては師の作品を勝手に改鼠したとして至って評判は悪いのですが、この第7番の成功に寄与した彼の努力を振り返ってみれば、改鼠版に込められた彼の真意も見えてきます。
この第7番が作曲されている頃のウィーンはブルックナーに対して好意的とは言えない状況でした。作品が完成されても演奏の機会は容易に巡ってこないと見たシャルクは動き出します。
まず、作品が未だ完成していない83年2月に第1楽章と3楽章をピアノ連弾で紹介します。そして翌年の2月27日に、今度は全曲をレーヴェとともにピアノ連弾による演奏会を行います。しかし、ウィーンではこれ以上の進展はないと見た彼はライプツッヒに向かい、指揮者のニキッシュにこの作品を紹介します。(共にピアノによる連弾も行ったようです。)
これがきっかけでニキッシュはブルックナー本人と手紙のやりとりを行うようになり、ついに1884年12月30日、ニキッシュの指揮によってライプツィッヒで初演が行われます。そしてこの演奏会はブルックナーにとって始めての成功をもたらすことになるのです。
ブルックナーは友人に宛てた手紙の中で「演奏終了後15分間も拍手が続きました!」とその喜びを綴っています。
まさに「1884年12月30日はブルックナーの世界的名声の誕生日」となったのです。
そのことに思いをいたせば、シャルクやレーヴェの業績に対してもう少し正当な評価が与えられてもいいのではないかと思います。
騙されたと思って一度お聞きください。
騙されたと思って一度お聞きください。
クレンペラーのブルックナーは世間ではあまり評判がよろしくありません。
曰く、ザッハリヒカイトで無機的、無味乾燥、味も素っ気もないと言うのが通り相場となっています。さらには、第8番のフィルハーモニア管とのスタジオ録音では、最終楽章で2カ所もバッサリとカットするという「暴挙」までやっているのですから、評判が良くなるはずがありません。
そこで、一部では、クレンペラーはブルックナーに対して愛情を持っていなかったのではないか、という声も聞かれるほどです。
クレンペラーという男は稀代の天の邪鬼でした。そして、人を人とも思わないような傍若無人、失礼千万、言語道断、破廉恥きわまる男でありながら、同時に間の抜けたバランス感覚の欠如した男でもあり、愛すべき側面も数多く持った男でした。
彼の一生を振り返ってみると、よくまあ、と感心させられるほどのトラブル続きです。
まずは、ゲヴァントハウスでのリハーサルの最中に指揮台から転落して、頭部を強打した辺りから災難が始まります。さらに、追い打ちをかけるようにナチスに追われてアメリカに亡命を余儀なくされます。ところが、そのアメリカで脳腫瘍にかかり、演奏活動も出来なくなり、娘が工場で働いて得たお金で食いつなぐという貧乏暮らしを強いられます。
戦後、体調も回復し、フィルハーニア管との演奏で大成功をおさめてヨーロッパに復帰をしてからも、空港で転倒して複雑骨折をしたり(これが原因で立って指揮できなくなる)、寝たばこが原因で大火傷をしたりと、災難に見舞われます。
ことほど左様に、自分の体一つさえもまともに管理できない男ですから、対人関係でもトラブル続きで、いらぬ事を言っては友を失い、敵を増やしていきました。
要するに、虫の居所が悪いと(加えて、無類の女好き故に、女性に興味を持ってしまうと)、暴走してしまう自分を押さえきれない男なのです。
レッグとのコンビで録音も順調に進み、次はブルックナー、と言うような話になったのではないでしょうか。
クレンペラーは基本的に自分のことを作曲家だと思っていました。そこへブルックナーと言うことで、途端にこの天の邪鬼、自分を押さえきれない悪癖が出たのではないでしょうか。確か、この頃から、長く中断していた作曲活動を再開したのではなかったでしょうか。そこへ、ブルックナーという、偉大ではあってもあまりにも問題の多い音楽に、つい臍を曲げてしまったと言えるのではないでしょうか。
その証拠に、このコンビで一番最初に録音された第7番の第1楽章が「ザッハリヒカイトで無機的、無味乾燥、味も素っ気もない」と言われる典型だからです。しかし、臍さえ曲げなければ、やはり彼は偉大です。これに続く、第4番、第6番は十分にまともな演奏だと思いますし、このコンビで最後に録音された第5番は真に偉大なブルックナー演奏だと言い切れます。
ただし、癇癪持ちであることは最後まで変わらなかったわけで、最晩年の1970年に録音された第8番では最終楽章の2カ所をカットするという暴挙に出ています。そして、このカットに異議を唱えたEMIの録音スタッフに対して「第4楽章のカットなしの録音が欲しければ、別の指揮者を探せばいい」と言い放ったと伝えられていますから、よほど虫の居所が悪かったのでしょう。
しかし、こういう虫の居所が悪くなるのは基本的にスタジオ録音の時であって、お客さんが入ったコンサートでは機嫌が悪くなることがあっても、最後まで真面目に頑張るのが通例だったようです。マイスタージンガーの上演で19歳のミストレスがあくびをしたのを見咎めて「とっとと帰れ!ワーグナーはガキの音楽じゃねぇんだ!」と怒鳴っても、最後まで指揮は続けたのでした。
ですから、最近になって発掘され始めたブルックナーのライブ演奏は、ライブ故の演奏上の問題点が存在しても、その多くが実に雄大で素晴らしい演奏に仕上がっています。そう言うのを聞かされると、スタジオ録音では時に感じられる「クレンペラーはブルックナーに対して愛情を持っていなかったのではないか」という疑念などは吹っ飛んでしまいます。
そんなライブ録音の中でも、とりわけ素晴らしいのは、今回紹介したバイエルン放送響と1956年に演奏した第7番と、1957年にケルン放送響と演奏した第8番です。
第7番に関しては最終楽章で、少しセカセカした部分が顔を出すのが残念ですが、最初の二つの楽章は実に素晴らしいです。とりわけ、オケの響きは、これぞブルックナーと思わせる深々として厚みのある音で、それを聞くだけでも値打ちがあります。
ケルンの方はバイエルンほどの響きの素晴らしさはありませんが(とは言っても、流石はドイツのオケ、決して悪い響きではありません。バイエルンが良すぎるのです)、それでも音楽の進み方は雄大のひと言で、7番で感じたような不満も全くありません。もしも、バイエルンの響きでこの8番が演奏されていたら、おそらくは最上の録音の一つだと断言できたでしょう。
録音はいずれもモノラルですが、クオリティは極めて高いです。
クレンペラーのブルックナーに対して疑念を持っておられる方は、騙されたと思って是非一度はお聞きいただければと思います。
よせられたコメント
2009-09-17:うすかげよういちろう
- 狭い。1楽章からして、狭い。聴いていていちばん感じるのが狭さという言葉です。
広がりとか、のびやかとか、開放とか、そういうのとは無縁の演奏が展開されます。
何かの修行にはうってつけの演奏ですが、音楽として聴き通すにはかなりつらい演奏です。
(実は、私、2楽章途中で断念しました。我慢していれば、後半はいいのかも・・・・)
2011-04-13:赤木壮吉
- 大仰で、少し品がないと思っていましたが、こういうのならいいですね。
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