ベートーベン:ピアノソナタ第10番
(P)バックハウス 1952年10月録音
Beethoven:ピアノソナタ第10番 「第1楽章」
Beethoven:ピアノソナタ第10番 「第2楽章」
Beethoven:ピアノソナタ第10番 「第3楽章」
比較的こぢんまりとした作品です。
弟子のシンドラーは、「最も内容の優れたものであるにもかかわらず、あまり認められない作品」だと述べています。その反対に「駄作」と切って捨てる人も多くて評価にはばらつきのある作品です。
作りそのものは引き締まった形式感を備えた作品で、そのためか全体としてこじんまりとした印象を受けます。前作の「悲愴」で大きく一歩前進したにもかかわらず、ここではそれ以前の作品群に逆戻りしたような印象は拭えません。
キリッとした形式感とそれなりの美しさを評価するのか、逆戻りの姿勢に注目するのかで評価は変わってくるのでしょうね。
第1楽章
アレグロ ト長調 4分の2拍子 ソナタ形式
右手と左手が交わす対話をシンドラーは、「二つの主義の争い、もしくは男女の対話」と呼びました。これをうけてこの作品に「夫婦喧嘩」というニックネームがつけられたこともあったようです。
第2楽章
アンダンテ ハ長調 2分の2拍子 変奏曲形式
第3楽章
スケルツォ アレグロ・アッサイ ト長調 8分の3拍子 ロンド形式
バックハウス全盛期の演奏
バックハウスはモノラルの時代とステレオの時代にそれぞれ全集を録音しています。(ただし、29番「ハンマークラヴィーア」のみはステレオでの再録音がされなかったのでモノラル時代の録音が流用されています)
以前は随分と高価なボックスだったように記憶しているのですが、最近はどのような仕掛けがあるのか分かりませんが、イタリア・ユニーバーサルからかなり安価な値段で供給されるようになりました。
ところが、面白いのが、音質的には劣るモノラル録音の方がステレオ録音よりも高く値段が設定されていることです。
この手のものはお店によって価格設定が変わることが多いのですが、私がよく利用しているお店では
モノラル録音が10000円
ステレオ録音が6900円
に設定されています。
こういう古い録音は最終的には需要と供給の関係で決まるようですから、多くの人が音質的には劣ることは分かっているのにモノラル録音を求めることをこの事実は示しています。
理由はいうまでもありません、演奏そのものが圧倒的にモノラル録音の方が優れているからです。
日本では何故かシルバーシート優先で老大家の枯れた演奏を持ち上げる習慣があるのですが、いうまでもなく、その様な「枯れた演奏」よりは脂ののりきった全盛期の演奏の方が優れていることが多いのは自明の理です。とりわけ、この23番のような覇気満々たる作品であるならばそのアドバンテージは絶対的です。
ステレオ録音によるバックハウスしか聞いたことがない人には是非とも一度は聞いてもらいたい演奏です。
よせられたコメント
2008-07-19:M
- このサイトで初めてバックハウスのベートーヴェンを何曲も聴く機会を得ました。全体的な印象をいうと名声の割りにはもうひとつでした。
気になる点を挙げると
?曲の進行の中で意味のない小さなテンポの加速減速がある。
これは曲の構造的理解の為に大きな加速減速をしたフルトヴェングラーと事情は別物です。意識的だと見識の問題ですし無意識なら基本的技能の問題となります。
?和音をアルペジオにする等、楽譜にない、あるいは音楽的必然性を感じない気ままな弾き方が散見される。
私見ではこのピアニストは感覚的なものに豊かな天分のあるヴィルトゥオーゾタイプで本質的にホロヴィッツ等に近いタイブだと思います。ショパンが意外に良いのはその為だと思います。逆にベートーヴェンのように音楽としての論理の発展に挑戦し推敲した音楽家からは遠い存在だと思います。
では何故バックハウスのベートーヴェンの評価が高いのでしょうか?それはベートーヴェンという優れた音楽の楽譜を弾いているからです。それをドイツ人の音楽であり構造的であるベートーヴェンの音楽に、もっともふさわしいイメージのピアノの音・・ぶ厚くカチッと冴えて禁欲的美しさのある音色・・で弾いているからでしょう。このように感覚的天才バックハウスが<ベートーヴェンらしい感覚的イメージ>のベートーヴェン像をひとつのスタイルとして創造するのに成功したといえます。但しあくまで亜流だと思います。
2009-05-26:Sammy
- シンプルに書かれた作品のシンプルなよさを、引き締まった音できちっと、しかし程よく生き生きと弾き切っていくことで見事に生かしていると思いました。
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