ショパン:練習曲集,Op.10(Chopin:Etudes, Op.10)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
Chopin:Etudes, Op.10 [1.Etude in C major "Waterfall"]
Chopin:Etudes, Op.10 [2.Etude in A minor "Chromatique"]
Chopin:Etudes, Op.10 [3.Etude in E major "Tristesse"]
Chopin:Etudes, Op.10 [4.Etude in C-sharp minor "Torrent"]
Chopin:Etudes, Op.10 [5.Etude in G-flat major "Black Keys"]
Chopin:Etudes, Op.10 [6.Etude in E-flat minor "Lament"]
Chopin:Etudes, Op.10 [7.Etude in C major "Toccata"]
Chopin:Etudes, Op.10 [8.Etude in F major "Sunshine"]
Chopin:Etudes, Op.10 [9.Etude in F minor]
Chopin:Etudes, Op.10 [10.Etude in A-flat major]
Chopin:Etudes, Op.10 [11.Etude in E-flat major "Arpeggio"]
Chopin:Etudes, Op.10 [12.Etude in C minor "Revolutionary"]
指の運動から芸術作品へと昇華

ショパンの練習曲はワルシャワ時代からパリ時代の初めにかけて作曲されたものと考えられています。その中から12曲を選び出して作品10として出版し、それと並行して第2集のための作曲もすすめられ、そこに過去に書いた作品などもまとめて作品25とされた者のようです。
しかし、この練習曲は当時の練習曲が織っていたイメージとは全く異なり、それ故に多くの人が困惑したようです。ある人などは、外科医をかかえて弾かなければ指を痛めてしまうとまで書いていたようです。
確かに、練習曲はピアノの演奏技術を磨くために作られたものなのですから、ショパンの練習曲といえどもピアノの演奏技術に関わる問題を解決するために書かれていることは疑いがありません。しかし、ショパンの練習曲はそれだけにとどまらず、演奏者に対してメロディやリズム、ハーモニーなどが醸し出す寿著表現と言うことも大きな課題として提示しているのです。それ故に、彼の練習曲はたんなる指の運動だけでなく、素晴らしい芸術的表現を身につけることを練習者に求めるのです。
ロマン派の時代にはいると多くの作曲家はピアノ演奏における新しい表現を切り開いていくのですが、ショパンのピアノ演奏の特徴はレガート奏法を主体とした極めてデリケートな表現を求めたことです。そして、そう言う演奏法をこの練習曲にふんだんに取り入れているのです。
それこそが、ショパンの練習曲が当時の人にはなかなか理解されなかった点なのですが、それこそがショパンの練習曲をたんなる指の運動から芸術作品へと昇華させているのです。
- 第1番:ハ長調 作品10-1(アルペッジョの練習曲)
- 第2番:イ短調 作品10-2(半音階の練習曲)
- 第3番:ホ長調 作品10-3「別れの曲」(表題はショパン自身のものではない!)
- 第4番:嬰ハ短調 作品10-4[68](一番難しい曲!)
- 第5番:変ト長調 作品10-5「黒鍵」(あまり評判が良くない!?ビューロー曰く、「婦人サロン用練習曲」)
- 第6番:変ホ短調 作品10-6(外声と内声を弾き分ける指の独立を練習)
- 第7番:ハ長調 作品10-7(トッカータ風練習曲)
- 第8番:ヘ長調 作品10-8(右手の練習?)
- 第9番:ヘ短調 作品10-9
- 第10番:変イ長調 作品10-10(ビュロー曰く、「天分と空想に満ちた無窮動的性格を持った練習曲」だとか・・・)
- 第11番:変ホ長調 作品10-11(オクターブをしっかり弾いて手を広げる練習)
- 第12番: ハ短調 作品10-12「革命」(技術的には左手のための練習曲)
考え抜いた演奏
ギオマール・ノヴァエスはかなりまとまった数のショパン作品を録音しています。この時代を考えれば(今の時代も同じかも)当然と言えば当然なのかもしれませんが、やはり聞き手にとっては嬉しい事実です。
ノヴァエスは「ブラジルの偉大なピアニスト」といわれることもあり、「パンパスの女パデレフスキー」とよばれることも多かった人です。このパンパスとは言うまでもなく、ブラジル南部に広がる草原地帯のことです。幼い頃に育ったブラジルの風土や文化は彼女の心の奥深い部分に根を張っている事は否定できないでしょう。
しかし、10代半ばでパリに移り住み、パリ音楽院でイシドール・フィリップに学ぶ事でピアニストとしての基礎を固め、その後はアメリカを中心に、とりわけニューヨークを拠点に活動を行いましたから、音楽的には生まれ故郷のブラジルとの関わりはそれほど大きくはないと思われます。
ですから「パンパスの女パデレフスキー」という異名の「パンパス」の方は音楽的にはあまり影響はあたえておらず、重要なのは、「女パデレフスキー」の方でしょうか。つまり、彼女が19世のロマン主義的なピアニストを連想させる事の方が重要かもしれません。
つまりは、彼女の出発点はヴィルトゥオーゾ的ピアニストとしてのものであり、優れたテクニックで数多くの作品を楽々と弾きこなす存在だったと言うことです。
そして、何よりも丹念に旋律線を歌い込むピアニストで、それもまた同時に情緒過多になることなく無理のない歌い回しの枠を崩すことはありませんでした。
その前提として、彼女は考え抜くピアニストであったと言うことは忘れてはいけないでしょう。
確かに、彼女は実演において二度と同じようには演奏しなかったと言われるのですが、それは気のおもむくままに演奏したというのではなく、常に考え続けて、その考えたことを次のコンサートでは披露したと言うことなのです。
「考えるな、感じろ!」とはブルー・スリーの言葉ですが、クラシック音楽の世界では真逆で「感じるな、考えろ!」が基本とならなければいけません。感じるがままに演奏してものになるほどこの世界は単純ではありません。
ヴィルトゥオーゾ的ピアニストで「パンパスの女パデレフスキー」などという異名を奉られれば、いかにも感情のおもむくままにピアノを弾いていたような誤解を与えるのですが、彼女のベースは考え抜くことでした。
すでに紹介済みなのですが、セルやクレンペラーなどを従えて多くの協奏曲を演奏したり録音したのは、そう言う彼女の姿勢が高く評価されていたからです。
そして、録音されることを目的とした演奏であるならば、それまでの演奏活動の中で考え抜いた事の決算という意味をもっていたはずです。ですから、結果としてその演奏は高雅で情感溢れるものであり、時にはショパンのパッションが力強く描き出されたりもするのですが、かといってそれは鬼面人を驚かすようなものではありません。
そして、ショパンのように次から次へと新しい録音が登場してくるような世界では、その演奏が十分に魅力的であったとしても、その上に積み重なっていく大量の録音によっていつかは覆い尽くされ聞き手の視野から消えていくのが宿命みたいなものです。
おそらく、ショパンのような音楽は存命中のピアニストが一番有利なのでしょう。亡くなってしまえば、いつかは聞き手の視野から見えなくなっていくのが宿命です。もちろん、例えばコルトーのような例外はありますが。
それだけに、こういうサイトではそう言う埋もれた録音の山の中からノヴァエスのような存在を拾い出すのが大きな役割なのでしょう。
あらためて彼女のショパン演奏を聞けば、どれもこれも安心してショパンの世界に浸れる安定感と叙情性に溢れています。
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