クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集

(P)ギーゼキング:1942年録音





Schumann:ダヴィッド同盟舞曲集


ピアノを弾いていて幸せだったときと言えば、これを作曲したときです

シューマンはショパンとともにロマン派の時代におけるピアノ音楽の地平を切り開いた代表的な作曲家だといっても誰からも異論は出ないでしょう。しかし、その音楽の有り様はかなり異なります。
ショパンのことを「ピアノの詩人」と呼ぶことが多いのですが、ユング君の私見によるとこの言葉はショパンよりはシューマンの方にこそ相応しいように思えます。
なぜならば、ショパンの音楽は「詩」というような文学的要素と結びついて成立するものではなくて、ショパン以前の誰もが聞き取ることの出来なかった精妙な響きの結晶体(実態としてはショパン以前には誰もが想像もし得なかった「鍵盤の運動体?」)として自立しているように思えるからです。
それと比べれば、シューマンの音楽は音楽以外の文学的要素に積極的に寄りかかることで、古典派の時代のピアノ音楽とは全く異なる世界を切り開いたように聞こえるからです。それは、言葉をかえれば神への賛美を目的として成立した中世の音楽が、古典派の時代を経て、このシューマンの手によって、神ではなくて人間こそが関心の焦点となるようなものへと完全に脱皮したように聞こえるのです。
もちろん、こんな感覚的な物言いには異論を抱く人も多いでしょうから、まあ軽くお聞き流しください。(^^;

シューマンの本格的な作曲活動はピアノ音楽から始まります。そして、シューマンという人は「これ!」と思うと、そのジャンルの作品を行き着くところまでとことん追求しないと気が済まないと言う性格だったようで、この最初期の創作活動はピアノ音楽一点に集中しています。
このダヴィッド同盟舞曲集には、プロの音楽家としての第一歩を踏み出し、その前途に洋々たる希望と自身を抱いている若き天才の姿がありありと刻印されています。シューマンは自らの中でわき上がる文学的想念の中で数々の架空の人物や団体を創造しましたが、このダヴィッド同盟という団体も保守的な音楽にしがみつこうとする人々への戦いの狼煙として彼の中にわき上がった架空の団体でした。そして、「オイゼビウス(E)」と「フロレスタン(F)」という架空の二人の名前で発表するという念の入りようでした。この「E」こと、オイゼビウスはシューマンの中の静かで瞑想的な性格を表し、「F」ことフロレスタンは明るく快活で、情熱的なシューマンを暗示する人物として設定されています。そして、シューマンは18の小品からなるこの舞曲集の一つ一つに、その作品の性格を暗示するかのように「E」と「F」のサインを与えています。
冒頭の第1曲にはEとFの二つのサインが与えられているのは、この小品が相異なる二つの性格が交錯していることを表していて、それは同時にこの舞曲集全体の性格を暗示しているという仕掛けになっています。また、前半の最後を締めくくる第9曲にはどちらのサインも記されていない事に、シューマン自身は「ここでフロレスタンは口をつぐむと痛ましいけいれんが唇のあたりをはしった」と述べています。しかし、全体としてはこの相異なる性格をを持った二人の人物のモノローグによって音楽は展開されていきます。その意味では、これほどシューマンその人の素顔がさらけ出されている作品は他にはないといえます。「ピアノを弾いていて幸せだったときと言えば、これを作曲したときです」と後に回顧しているのも納得できる話です。

<第1部>
第1曲 元気よく(FとE)/第2曲 心からの(E)/第3曲 何かごつごつした感じで(F)/第4曲 辛抱しきれず(F)/第5曲 単純に(E)/第6曲 きわめて速く、そして内向的に(F)/第7曲 速くなく、きわめて感情をこめて(E)/第8曲 生き生きと(F)/第9曲 元気よく(サインなし)
<第2部>
第10曲 バラード風に、きわめて速く(F)/第11曲 単純に(E)/第12曲 ユーモアをもって(F)/第13曲 荒々しく、そしてほがらかに(FとE)/第14曲 優しく歌いながら(E)/第15曲 元気よく(FとE)/第16曲快いユーモアをもって(FとE)/第17曲 遠くからのように(E)/第18曲 速くなく(サインなし)

煩悩の中でのたうちまわる演奏・・・?


ギーゼキングといえば即物主義的な演奏の大家です。そのイメージでこの一連のシューマン作品(ダヴィッド同盟舞曲集・クライスレリアーナ・ソナタ第1番・・・以上42年の録音、謝肉祭・・・43年の録音)を聞くと脳天をかち割られます。
これって本当にギーゼキングの演奏?
そうなのです。ギーゼキングといえども最初からあんなにも取り澄ました演奏をしていたわけではないのです。それは、若い人が老人を見るとき、その人は昔からずーっと老人であったかのように見てしまう誤りと共通しています。
今は欲も得も捨てて枯れきったような日常を送っている人でも、かつては欲と煩悩にまみれた若き時代があったということです。そして、凛とした清貧の生活に彼岸の真実があるとすれば、煩悩の中でのたうち回る姿の中にも此岸の真実があると言うことです。
第2次大戦の惨劇の中で、彼はどのような思いでこの作品を弾いたのでしょうか。

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