J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調, BWV.1001(J.S.Bach:Violin Sonata No.1 in G minor, BWV 1001)
(Vn)ヤッシャ・ハイフェッツ:1935年12月11日録音(Jascha Heifetz:Recorded on December 11, 1935)
J.S.Bach:Violin Sonata No.1 in G minor, BWV 1001 [1.Adagio]
J.S.Bach:Violin Sonata No.1 in G minor, BWV 1001 [2.Fuga]
J.S.Bach:Violin Sonata No.1 in G minor, BWV 1001 [3.Siciliana]
J.S.Bach:Violin Sonata No.1 in G minor, BWV 1001 [4.Presto]
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータの概要

バッハの時代にはこのような無伴奏のヴァイオリン曲というのは人気があったようで、とうていアマチュアの手で演奏できるとは思えないようなこの作品の写譜稿がずいぶんと残されています。ところが、古典派以降になるとこの形式はパッタリと流行らなくなり、20世紀に入ってからのイザイやバルトークを待たなければなりません。
バッハがこれらの作品をいつ頃、何のために作曲したのかはよく分かっていません。一部には1720年に作曲されたと書いているサイトもありますが、それはバッハが(おそらくは)自分の演奏用のために浄書した楽譜に記されているだけであって、必ずしもその年に作曲されたわけではありません。さらに言えば、これらの6つの作品がはたして同じ目的の下にまとめて作曲されたのかどうかも不確かです。
しかし、その様な音楽学的な細かいことは脇に置くとしても、これらの作品を通して聞いてみると一つの完結した世界が見えてくるのはユング君だけではないでしょう。それは、どちらかと言えば形式がきちんと決まったソナタと自由に振る舞えるパルティータをセットととらえることで、明確な対比の世界が築かれていることに気づかされるからです。そして、そのパルティータにおいても、「アルマンド」?「クーラント」?「サラバンド」?「ジーグ」という定型様式から少しずつ外れていくことで、その自由度をよりいっそう際だたせています。そして、パルティータにおいて最も自由に振る舞っている第3番では、この上もなく厳格で堂々としたフーガがソナタの中で屹立しています。
この作品は演奏する側にとってはとんでもなく難しい作品だと言われています。しかし、その難しさは「技巧」をひけらかすための難しさではありません。
パルティータ2番の有名な「シャコンヌ」やソナタ3番の「フーガ」では4声の重音奏法が求められますが、それは決して「名人芸」を披露するためのものではありません。その意味では、後世のパガニーニの「難しさ」とは次元が異なります。
バッハの難しさは、あくまでも彼がヴァイオリン一挺で描き尽くそうとした世界を構築するために必要とした「技巧」に由来しています。ですから、パガニーニの作品ならば指だけはよく回るヴァイオリニストでも演奏できますが、バッハの場合にはよく回る指だけではどうしようもありません。それ以上に必要なのは、それらの技巧を駆使して描ききろうとしたバッハの世界を理解する「知性」だからです。
その意味では、ヴァイオリニストにとって、幼い頃からひたすら演奏テクニックを鍛え上げてきた「演奏マシーン」から、真に人の心の琴線に触れる音楽が演奏できる「演奏家」へとステップアップしていくために、一度はこえなければいけない関門だといえます。
ソナタ第1番ト短調 BWV1001
第3楽章の「シチリアーノ」以外は全てト短調という珍しい調性を持っています。この異例ともいえる調性の関係についてはいろいろと説明している本もあるのですが(ドリア旋法がどうたら、リディア旋法がかんたら・・・)、そう言う楽典的な事には弱いユング君にはよくわからんのです。(^^;
しかし、この偉大な6曲の冒頭を飾るに相応しい作品であることは間違いありません。
色気を感じさせるハイフェッツの戦前録音
ハイフェッツという人は年を重ねても「衰え」というものを殆ど感じさせない人でした。
もっとも、そう書いたところで彼の実演は聞いたことなどはないので、あくまでも「録音」を通してのことです。
ベルリンでのハイフェッツ13歳の頃の演奏を聴いたフリッツ・クライスラーが、友人のヴァイオリニストに「私も君もヴァイオリンを叩き割ってしまったほうがよさそうだ」と語ったというのは有名な話です。
そして、「確かに上手いが、あいつは13才の頃からちっとも進歩していない」と貶したヴァイオリニストがいたというのは、そう言うハイフェッツの衰えのなさを裏返しの形で表現したものでした。
ただし、年を重ねると響きは細身になって厳しくなっていったような気がします。
それは、好意的に解釈すれば、ハイフェッツという人は戦後になるとどんどんザッハリヒカイトになっていったとも言え、それは同時に時代の流れでもありましたから、それほど不自然に感じることもありませんでした。
とりわけ、50年代に入って録音すべきレパートリーを録音しつくして、後は気の合う仲間と室内楽の演奏をメインにし始めた頃からその傾向はより強くなっていったでしょうか。中には、まさに寄らば切るぞと言わんばかりのキレキレの演奏などもあっていささか驚かされた者です。
そして、そう言うハイフェッツの音色を聞いて機械的で冷たいという評価も生まれたのかもしれません。
しかし、30年代を中心とした戦前のハイフェッツの録音を聞いてみると、そこには繊細なる官能性みたいなものを感じさせてくれる演奏が多いように思います。
例えば、戦後も録音しているバッハの無伴奏などを聞いていると、実にほどの良い色気をまとわせて演奏してくれています。そして、それはバッハだけに限らず戦前のハイフェッツに共通した特徴だったように思えます。
確かに、聞く耳を持って彼の戦後の演奏を聞いてみると、これよりも表情を濃くすると「色気」が「色」に傾きすぎ、薄すぎると「生硬」に過ぎるという絶妙なバランスの地点に成り立っている演奏も見受けられます。
それはそれで凄いと思うのですが、それだけに、こういう艶やかで、時には妖艶とも言える音色を振りまいていた戦前の録音も見過ごしたくはないと思います。
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