ベートーベン:チェロソナタ第4番 ハ長調 Op.102-1
Vc.フルニエ P.シュナーベル 1947年6月10日録音
Beethoven:チェロソナタ第4番 ハ長調 Op.102-1 「第1楽章」
Beethoven:チェロソナタ第4番 ハ長調 Op.102-1 「第2楽章」
チェロの新約聖書
チェロという楽器はヴァイオリンやヴィオラと比べると独奏楽器として活躍する作品は多くはありません。例えば、モーツァルトはチェロを独奏楽器とした作品は一つも残していません。これは、チェロを飯の種にする演奏家にとってはかえすがえすも残念なことでしょう。
そんな中で、ベートーベンが5つのチェロソナタを残してくれたことは、バッハの6つの無伴奏組曲とならんで、チェリストに対する福音となっています。
また、ベートーベンのチェロソナタはベートーベンの初期に2つ、中期に1つ、そして後期に2つという具合に、その全生涯にわたって実にバランスよく作曲されたために、1番から順番に5番まで聞き通すと、ベートーベンという偉大な音楽家の歩んだ道をミニチュアを見るように俯瞰できるという「特典」がついてきます。(^^)
俗な言い方になりますが、バッハの無伴奏組曲がチェロの旧約聖書とするなら、ベートーベンのチェロソナタは新約聖書と言っていい存在です。
(1)二つのチェロソナタ 作品5
1796年にベルリンで完成されたこの二つのソナタは、プロイセン国王フリードリヒを念頭に置いて作曲されたと言われています。よく知られているように、フリードリヒはチェロの名手として知られており、この二つのソナタを献呈する事によって何らかの利益と保証を得ようとしたようです。
初演は宮廷楽団の首席チェリストだったデュポールとベートーベン自身によって国王の前で行われました。
この二つのソナタは、明るくて快活な第1番、感傷的な第2番というように性格的には対照的ですが、ともに長大な序奏部を持っていて、そこでたっぷりとチェロに歌わせるようになっているところは、明らかにフリードリヒを意識した作りになっています。
また、至る所に華やかなピアノのパッセージが鏤められていることも、国王のまでベートーベン自身がピアニストとして演奏することを十分に意識したものだと思われます。
(2)チェロソナタ第3番 作品69
ベートーベンのチェロソナタの中では最もよく知られている作品です。傑作の森と言われるベートーベン中期を代表するソナタだといえます。第1楽章冒頭の、チェロに相応しいのびのびとしたメロディを聞くだけで思わず引き寄せられるような魅力を内包しています。
全体としてみると、チェロはかなり広い音域にわたって活躍し、とりわけ高音域を自由に駆使することによってピアノと同等に渡り合う地位を獲得しています。
この作品は、ベートーベンの支援者であったグライヘンシュタイン男爵に献呈されています。
当初、男爵にはピアノ協奏曲第4番を献呈するつもりだったのが、ルドルフ大公に献呈してしまったので、かわりにチェロの名手でもあった男爵のためにこの作品を書いたと言われています。
(3)二つのチェロソナタ 作品102
ベートーベンの後期を特徴づける幻想的な雰囲気がこの二つのソナタにもあふれています。とりわけ、第5番のソナタは第2楽章に長大なアダージョを配して、深い宗教的な感情をたたえています。
この作品は、ラズモフスキー家の弦楽四重奏団のチェロ奏者であったリンケのために書かれ、エルデーディ伯爵夫人に献呈されています。伯爵夫人はベートーベンの良き理解者であり、私生活上の煩わしい出来事に対しても良き相談相手としてあれこれと尽力してくれた人物でした。
リンケと伯爵夫人の関係については諸説があるようですが、ピアノの名手でもあった伯爵夫人がリンケとともに演奏が楽しめるようにと、夫人への感謝の意味をこめて作曲したと言われています。
地下水脈のように受け継がれる伝統
誰かが書いていたことですが、ベートーベンのチェロソナタというと一昔前の名曲喫茶の薄暗い空間で流れている雰囲気がただよいます。いかにも硬派の音楽という風情の中にほどよい「暗さ」がブレンドされていて、「クノウに満ちたインテリ青年(今や、死語?−−;)」にはお似合いの音楽です。
その意味でも、この作品の定番としてはカザルスやリヒテル&ロストロ小父さんなんかがノミネートされます。
しかし、そんな中にあってちょっと違った風情で異彩を放っているのが「チェロの貴公子」と呼ばれたフルニエです。ユング君にとってフルニエと言えば、何よりもセル&ベルリンフィルのコンビで録音したドヴォルザークのコンチェルトが思い浮かびます。とにかく、彼のチェロはいつも伸びやかでよく歌います。ある意味ではゴリゴリしたカザルスなんかとは対極にあるチェリストです。
そんなフルニエがこれまたよく歌うシュナーベルと組んだこの録音は、名曲喫茶ご用達の暗さよりは、よく歌う伸びやかさが前面に出ています。
フルニエは、この録音の10年後にウィーンの若きピアニストグルダと組んでもう一度この作品を録音しています。そして、ある意味変わり者で知られるグルダがその時の録音を思い出して、「フルニエはあらゆる点で指導者」で、「非常に多くを学んだ」と語っていた話は有名です。おそらく、それと同じ思いは10年前のフルニエにもあったことでしょう。彼もまた、この録音を通して多くのことをシュナーベルから学んだはずであり、その学んだことの多くをグルダへと伝えたことでしょう。
ヨーロッパの強みは、その様な伝統が地下水脈のように人から人へと受け継がれていくところにあるのかもしれません。
なお、録音ですが40年代のものとは思えないほどに良好です。
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