モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲変ロ長調 K.424
(Vn)ヨゼフ・スーク (Va)ミラン・シュカンバ 1961年録音
Nozart:Duo For Violin And Viola In B-flat Major,K.424 [1.Adagio Allegro]
Nozart:Duo For Violin And Viola In B-flat Major,K.424 [2.Andante Cantabile]
Nozart:Duo For Violin And Viola In B-flat Major,K.424 [3.Thema Con Variazioni]
ミヒャエル・ハイドンのための代作?
この2曲については、面白いエピソードが伝えられています。
かつての同僚であったミハイル・ハイドンはザルツブルクの雇い主であるコロレド大司教から複数のヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲の作曲を命じられました。ところが、病に臥せっていたミヒャエルは約束の期日までに作品を完成させることが絶望的な状況に追い込まれてしまいます。
この時に、モーツァルトはコロレードとは喧嘩別れをしてすでにザルツブルグを去っていました。しかし、身ヒャルにかんしては友情だけでなく、音楽家としての死のうにも尊敬の念を抱いていました。
ですからミヒャエルの窮状を知ったモーツァルトはコロレードへの意趣返しという思いも含めて、こっそりとこの二重奏曲を代筆したというのです。
この話は、ミヒャエルが亡くなった後に二人の弟子が記した師の略伝の中に記されいます。
実際、ミヒャエルは4曲のヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲は作曲していて、それぞれ「ハ長調」「ニ長調」「ホ長調」「ヘ長調」で書かれています。そこに、モーツァルトによる「ト長調(K.423)」と「変ロ長調(K.424)」の2曲を組み合わせれば、実にバランスよく6曲ワンセットの二重奏曲集が仕上がります。
しかし、この話にアインシュタインは疑問を呈しています。
その理由は、姐のナンネルの日記にはモーツァルトがミヒャエルを見舞ったという記述が一切ないことに付け加えて、その作品の出来が肩代わりの代作とは思えないほどにクオリティが高いことです。さらに、ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲というスタイルの作品はこの2曲しかないことも合わせて考えれば、ザルツブルグに帰郷(おそらくはコンスタンツェとの結婚を父親に認めてもらうため)したときに、何らかの理由で作曲されたと考えた方が自然だというのです。
ただし、細かく見ていくと、この作品の中にはミヒャエルの作品であるかのようなカモフラージュが為されているように見えることも事実らしいです。
例えば、K.424の冒頭での小鳥を思わせるような装飾音型やK.423のフィナーレの民衆的なメロディがいかにもミヒャエルの作風にそったものだというのです。また、歌うようなアダージョはミヒャエルのスタイルであり、モーツァルトはこういう形式での緩徐楽章にはアンダンテと指定するのが一般的だというのです。
ですから、このエピソードの真偽に関しては今も意見が分かれるようです。
ですから、アインシュタインも最後には次のようにまとめています。
モーツァルトが毎日病人を見舞っていた」という記載はまったく見当たらない。 とにかくモーツァルトが書いたヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲はザルツブルク帰郷中のト長調(K.423)と変ロ長調(K.424)の2曲のみであることには、何かわけがあったことは確かであろう。 そのわけとはミハイル・ハイドンの急場を救うためであるという伝説を単純に信じるかどうかは別にして、モーツァルトにとって片手間の仕事などではなく、意欲的に取り組んだ傑作が生まれることとなった。
第一楽章における展開部のカノンはなんと魅惑的なことか! 彼は最高級の芸術作品を創造したのであり、新鮮さ、陽気さ、ヴァイオリン向きの性格によって、その種類の唯一無二のものとなっているのである。
そして、モーツァルトという天性の音楽家は、いったん作曲に取りかかればそこに至る経緯などは一切忘れて集中してしまうのです。
モーツァルトは、これらの作品を作曲していたときには、もちろん大司教コロレドのことなど考えもしなかったであろうが、ついにはミヒャエル・ハイドンのことさえすっかり忘れてしまったのである。
それでも、彼は代作がばれないように必要なカモフラージュも忘れることなくこれほどに素晴らしい作品を2日間で書き上げたとミヒャエルのでした派「略伝」の中に記しています。
おそらく、真実は最後まで藪の中なのでしょうが、おかげでこのような素晴らしい音楽残ったというのは私たちにとっては幸せなことでした。
チェコならではの魅力溢れる二重奏
この二人をソリスト起用した「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」を聞くと、誰しもがこの二人による二重奏をもっとたっぷりと聞きたいと思うことでしょう。
私もまた同様で、例えばあの協奏交響曲の第2楽章のカデンツァ的なヴァイオリンとヴィオラの掛け合いなどを聞いてしまうと、もっと聞いてみたいなと思わざるを得ません。
それ故に、「ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲変ロ長調 K.424」をカップリングしたのは、「分かってるねー」と思わず誉めてあげたくなります。
ヨゼフ・スークの父親は作曲家としても有名なヨゼフ・スーク(同名です)であり、母はドヴォルザークの娘でした。つまりは。彼はドヴォルザークの孫に当たるのです。
ミラン・シュカンパはもとはヴァイオリニストだったのですが、1956年にスメタナ四重奏団のヴィオラ奏者が手の故障のために脱退せざるを得なくなったときに、急遽その窮地を救うためにヴィオラに転向した人物でした。彼はその後、1989年にスメタナ四重奏団が活動を終えるまでスメタナ四重奏団のメンバーとして活動を続けました。
ヴァイオリンからヴィオラへの転向と言えば簡単そうですが、ヴィオラにはヴィオラ独特の奏法があるようですし、さらに言えば住めた四重奏団はで演奏することを基本としていたので、ヴィオラのパートを素早く身につけた力はただ者ではありません。
さらに言えば、もとからヴィオラ奏者であればどうしても「引き気味」になる傾向があるのでしょうが、もとはヴァイオリニストだけ会って相手がヨゼフ・スークであっても全く対等に渡り合っています。
弦の国のチェコならではの魅力溢れる二重奏は是非一度は聞いてもらいたいものです。
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