プシホダ小品集
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)シャルル・セルネ、(P)イツコ・オルロヴェツキー 1924年~1957年録音
Psihoda:Serenade
Psihoda:Serenade, Slavic Melody
Psihoda:tragic romance
Psihoda:Minuet in old style
Dvorak:Waltz No. 7(Arr.Psihoda)
厳しい場でこそ鍛えられる「芸」と言うものがある

これは全く想像にしか過ぎないのですが、このプシホダの作品のほとんどは、彼がイタリアのカフェでヴァイオリンを弾いていたころに作曲されたものではないかと思われます。
そして、ドイツ語圏を中心に演奏活動をはじめたときにも、こういう作品は大きな役割をはたしたのではないかと思われます。
そう言えば、最近見ていたテレビ番組で、研ナオコがキャバレーまわりをしていたころは歌っている最中にたばこの吸い殻がとんでくることなどは日常茶飯事だったと語っていました。おそらく、そう言う場でこそ鍛えられる「芸」と言うものがあることは事実であり、プシホダもまたその様な場で鍛えられた過去があったのでしょう。
何故ならば、彼のコンサートにやってくる聴衆のほとんどは「芸術」などではなくて、「現在のパガニーニ」の「芸」を期待していたでしょうから。
それ故に、パガニーニの小品と並んで、この自作の小品もまた重要なレパートリーになっていたことが想像されます。
それから、有名作曲家の作品のヴィオリン編曲もたくさん行っています。その多くはパガニーニの作品なのですが、それはパガニーニの録音を紹介するときにとっておいて、ここでは20年代の録音されたプシホダ編曲によるドヴォルザークの「ワルツ第7番」もあわせて紹介しておきます。
なお、1925年というのは録音の手法がアコースティック録音からマイクを使った電気吹き込みに変わった時代です。ですから、24年に録音された「古い様式によるメヌエット」は間違いなくアコースティック録音のはずです。また、25年に録音されている「悲歌的ロマンス」などもアコースティック録音の可能性を感じます。アコースティック録音と言うのは何ともいえず原始的な録音手法なのですが、その音には不思議な魅力があることを思い知らされます。
それから、プシホダにとってはほぼ最晩年にあたる1957年にも自作品を2曲録音しています。モノラル録音ではあるのですが、聞き比べてみればLP盤とSP盤の違いがよく分かります。
そして、その事をとしてSP盤ならではの魅力みたいなものも少しは分かってもらえるのではないでしょうか。
- プシホダ:セレナーデ
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)イツコ・オルロヴェツキー 1957年録音
- プシホダ:スラヴのメロディ
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:イツコ・オルロヴェツキー 1957年録音
- プシホダ:悲歌的なロマンス
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:シャルル・セルネ 1925年録音
- プシホダ:古い様式によるメヌエット
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)ミヒャエル・ラウハイゼン 1924年録音
- ドヴォルザーク(プシホダ編):ワルツ第7番
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)シャルル・セルネ 1925年録音
彼が突き当たるであろう「壁」
プシホダは第一次世界大戦後の1919年から本格的に演奏活動をするも評判はあまり良くなかったようです。そこで、生活費を稼ぐためにイタリアに向かい、ミラノのいくつかのカフェでヴァイオリン弾きのアルバイトをすることになります。
ところが、そのアルバイトが彼に思わぬ幸運を運んでくることになります。それは、有名なエピソードなのですが、彼がヴァイオリンを演奏していたカフェにたまたまトスカニーニが客としてきていたのです。
そして、その無名のヴァイオリニストの演奏にトスカニーニはすっかり魅了されてしまい、「現代のパガニーニだ!」と激賞したのです。
このエピソードは瞬く間に世に広がり、その後は「現在のパガニーニ」というトスカニーニの「お墨付き」のおかげでパガニーニの遺品の一つであるグァルネリ・デル・ジェズを貸与され、主にドイツ語圏を中心に活動することになります。
しかし、この「現代のパガニーニ」というトスカニーニの評価は色々な意味で、このヴァイオリニストの本質を言い当てたものだといえます。
コンサートホールに足を運ぶ聴衆は今も昔も行儀が良くて、最初はどんなにつまらなくても辛抱強く聞き続けてくれるものです。そして、その傾向は時代が下がるに連れてより強くなっていきます。そして、演奏家の多くはそう言う聴衆の行儀良さに甘えて、最初だけでなく最後までつまらない演奏を繰り広げても生卵をぶつけられるような目にあったのを残念ながら私は見たことがありません。
ヨーロッパの劇場では時々ブーイングを聞いたことがあるのですが、日本の劇場ではそれもほぼ皆無です。私にしても、せいぜいが、アンコールを無視してそそくさと席を立つくらいが関の山ですから偉そうなことはいえません。
しかし、カフェや酒場で演奏する芸人となると、勝負は最初の一瞬で決まりますし、その一瞬を上手くとらえても、その興味を最後まで維持させるには大変な努力が必要です。そして、その努力の質は、立派なコンサートホールで芸術的な演奏を成し遂げるのとは全く別の努力とスキルが必要なのです。
そして、パガニーニに代表される名人芸が持て囃された時代のコンサートは、本質的にはカフェや酒場の客を相手にするのと本質的には同じだったはずです。おそらく、トスカニーニがプシホダの演奏を聞いて「現代のパガニーニ」と賞賛したのは、彼の中にその様な資質が見事なまでに備わっていることを感じとったからでしょう。
そう言えば、SP盤の時代に野村あらえびすが彼のことを「普通のヴァイオリンから出る音とは、どうしても想像することのできない妖艶極まる音色が、エルマンやクライスラーをレコードで聴き慣れた我々にとっては、全くひとつの驚きにほかならなかった。」と評していたのは、プシポダの中にあったパガニーニ的な魅力を見事に言い当てたものだったと言えます。
まさに、そのヴァイオリンから発せられているとは思えないような音色の魅力が、聞くものの心を一瞬にしてとらえたことでしょう。
それは、もはや「妖艶」などと言う言葉では追いつかないほどの響きであり、まさに「麻薬」的な魅力を持った響きであり、歌い回しでした。
そして、その事は、ヴァイオリンという楽器がいかに広くて底深い世界を内包しているかということを教えてくれるのです。
しかし、20年代の「麻薬」的な演奏をまずは心に刻みつけてから、それ以降のプシポダの演奏を聞けば、やがて彼が突き当たるであろう「壁」についてもトスカニーニの言葉は見すえていたことにも気づかされるはずです。
おそらく、その一端はパガニーニの小品やプシホダ自身の小品の演奏を時代を追って聞いていけば何となく見えてくるはずです。
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