J.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ第6番 ト長調, BWV1019
(Vn)ユーディ・メニューイン:(P)ルイス・ケントナー 1951年録音
Bach:ヴァイオリンソナタ第6番「第1楽章」
Bach:ヴァイオリンソナタ第6番「第2楽章」
Bach:ヴァイオリンソナタ第6番「第3楽章」
Bach:ヴァイオリンソナタ第6番「第4楽章」
Bach:ヴァイオリンソナタ第6番「第5楽章」
歴史的に重要なポジションを占めるヴァイオリンソナタ
バッハはその生涯において3種類のヴァイオリンソナタを残しています。
一つは有名な無伴奏のソナタであり、もう一つは通奏低音を伴うソナタ、そしてチェンバロの音符がきちんと書き込まれたスタイルのものです。そして、ここでお聞きいただけるのは言うまでもなくチェンバロにもきちんと音符が書き込まれたスタイルのものです。
バッハはこれらの作品においてチェンバロの右手と左手のそれぞれの声部を与え、そこへヴァイオリンの声部を加えて3声による音楽を展開しました。もちろんこれは基本であって、ヴァイオリンが無伴奏ソナタで示されたように複数の声部を担当して全体としては4声や5声になることもありますし、また、対位法的な音楽で一貫するのではなく時にはチェンバロが伴奏的にふるまってその上でヴァイオリンが伸びやかに歌うこともあります。
その辺は実際に耳で確かめてください。
ですから、ベートーベン以後のヴァイオリンソナタのように、二つの楽器が対等の立場をとって音楽を展開していくという近代的な二重奏ソナタとは趣がかなり異なっています。しかし、コレッリやヴィヴァルディたちに代表されるような。通奏低音にのってヴァイオリンが歌うという古い形式とも明らかに異なっています。
それは、通奏低音を伴った古いスタイルのソナタから、近代的な二重奏ソナタへと移行していく過渡期の作品であり、その意味において、歴史的に重要な意味を持った作品だといえます。
第1番 ロ短調 BWV1014
6曲の中では一番最初に書かれたものだと言われています。アダージョと記された第1楽章は深い瞑想に沈んだような素晴らしい音楽です。
第2番 イ長調 BWV1015
悲愴な雰囲気が支配する第3楽章がこの作品を支配しています。残りの3つの楽章が明るく幸福な感覚に支配されているだけにそのコントラストが鮮やかです。
第3番 ホ長調 BWV1016
これ以降のソナタは形式的にかなり自由にふるまっています。第1楽章では3声の形式は守られずにチェンバロはかなり自由にふるまっていますし、第3楽章では冒頭4小節で示されるチェンバロの主題を繰り返すシャコンヌの形式がとられています。悲痛さに満ちたスケールの大きな音楽が展開されています。
第4番 ハ短調 BWV1017
妻との死別という出来事がこの4番と5番に反映されていると言われています。ラルゴと指定された第1楽章は「マタイ受難曲」の有名なアリア「わが神よ、哀れみたまえ」とそっくりです。また第2楽章では3声による壮大なフーガが展開されると言う実に充実した作品です。
第5番 ヘ短調 BWV1018
すべての楽章が短調で書かれているという、深い悲しみにいろどられた作品です。ラルゴと指定された第1楽章は最も規模の大きな楽章であり、8声のモテット「来たれ、イエス、来たれ。」の主題との密接な関係も指摘されています。
第6番 イ長調 BWV1019
この作品のみ5楽章構成であり、中間の3楽章がチェンバロのみによる演奏という特殊な形式を持っています。音楽的には4・5番にはなかった溌剌とした生気に満ちたものとなっています。
人肌の暖かさに包まれた音楽
無伴奏のソナタなどと比べれば、この作品は「理」よりは「情」に傾いた音楽だと思います。だからというわけではないのですが、ヒューマンな暖かみに満ちたメニューヒンのヴァイオリンはこの作品によくマッチしていると思います。
既に技術的な弱さも指摘されてきたころですが、このような作品ならそう言うこともあまり問題になりません。悲壮感にあふれた楽章でも、どこかに人肌の暖かさが感じ取れる演奏だといえます。
それから、ピアニストのケントナーですが、ユング君にとっては初めて見る名前でした。
調べてみると、第2回のショパンコンクールで第5に入賞した経歴を持っています。ハンガリー出身の人と言うことで、その後はバルトークやリストのエキスパートとしてかなりの録音も残されているようです。どうやら、技巧を前面に押し出してバリバリ弾きこなすタイプのようですが、こういう作品だとそれもあまり意味がないので、どちらかというとメニューヒンを立てながら演奏しているように思えます。
作品そのものが「癒し系」と言うこともあるのでしょうが、聞いていて実に心が穏やかになってくる演奏です。
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