ブラームス:弦楽五重奏曲第1番 ヘ長調 作品88
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団 1950年録音
Brahms:弦楽五重奏曲第1番 ヘ長調 作品88 「第1楽章」
Brahms:弦楽五重奏曲第1番 ヘ長調 作品88 「第2楽章」
Brahms:弦楽五重奏曲第1番 ヘ長調 作品88 「第3楽章」1
分かりやすく親しみやすい旋律美があふれた作品
ブラームスは弦楽五重奏曲を2曲残していますが、実は最初に構想した五重奏曲が紆余転変を重ねてピアノ五重奏曲になってしまった経緯は有名です。そして、そう言う最初の失敗を教訓に、改めて弦楽五重奏曲に挑んだときは、楽器編成を弦楽4部にヴィオラを追加する形に変更しています。
ただし、彼がこの形式の作品に改めて取り組んだのは、最初のチャレンジから20年近くが経過した1882年のことでした。しかし、この作品はブラームスにとっては異例と言えるほどの短期間で仕上げられたようです。
1882年の春に、なかなか上手く進まないピアノ三重奏曲の作曲を一時中断してこの五重奏曲に取りかかったことが知られています。簡潔さと簡明さを目指したピアノ三重奏曲の作曲には悪戦苦闘したようなのですが、この五重奏曲は春の終わり頃に着手して六月の末には完成した事が知られています。
そして、短期間に一気呵成に仕上げられたものが、必ずしも長い苦労の末に生み出したものに対して劣るものではないという「不思議な世の常」がここにもあてはまります。そして、その思いはブラームス自身も持っていたようで、出版屋のジムロックに対して「私にこんなに美しい作品があるとは知らなかっただろう」などと軽口をたたいています。
確かに、ブラームス自身が「美しい」と自慢したように、この作品には分かりやすく親しみやすい旋律美があふれています。さらに、渋さと厚ぼったさは後退していて、かわりに明るさと明瞭さが前面に出ています。つまりは、彼の室内楽を聞いてきたものにとっては「ブラームスらしくない」作品なのであって、どこか若書きの弦楽六重奏曲の第一番を思わせる雰囲気が全体を支配しています。
なお、この作品は三楽章構成なのですが、第二楽章を緩除楽章とスケルツォ楽章を一つにまとめたものとしてみる事ができるそうです。(まあ、そんな事はどうでもいいことですが・・・^^;)
楽しく、分かりやすく
現在の弦楽四重奏団の方向性というものは、アメリカにおけるジュリアードやラ・サール、さらにはそれらの影響を受けて、ウィーンでもアルバン・ベルク四重奏団らに代表されるような譜面を正確に音にかえる精緻な演奏スタイルが主流となっています。いや、「譜面を正確に音にかえる」というのはいささか正確さに欠ける表現ですね。「譜面を正確に音にかえる」というのは最低限の前提であって、そのうえでカルテットの4つのパートが同じ重みを持って精緻極まるアンサンブルを実現することが主流になっているのです。
そういう現在の流れから行くと、このコンツェルトハウスの演奏はポルタメントを多用し、歌い回すことに重点をおきすぎたがためにきわめて不正確な演奏になっているという批判はあるでしょう。
また、第1ヴァイオリンのカンパーがリーダー的な役割を果たして、その個性にしたがってじっくりと歌い上げていくスタイルは前世紀の遺物とも言うべき演奏スタイルなのですが、それがこの上もなく耳に心地よいのも否定しきれません。
カンパーは「ムジカー(音楽家)だったが、同時にムジカント(楽士)でもあった」と評されたように、その基本はあくまでも楽しさを大切にした音楽家でした。
確かに、4つのパートが対等の立場で緊密かつ機能的なアンサンブルを形作っていく現在的なスタイルもスリリングな魅力にあふれてはいるのですが、全てが全て、上手下手の違いはあっても同じスタイルでは飽き飽きしてしまいます。
ちなみに、この団体は途中でメンバーが入れ替わるのですが、そのうちのチェロとヴィオラの新しいメンバーは後にウェルナー・ヒンクのもとでウィーン弦楽四重奏団を結成します。そして、このウィーン弦楽四重奏団は日本のカメラータとの共同作業でシューベルトの弦楽四重奏団の全曲録音を完成させることになります。その演奏は、精緻さを何よりも優先する現在的スタイルとは一線を画したもので、明らかにコンツェルトハウス以来の伝統を現在的な姿で引き継いだものとなっています。
ウィーンの凄さはこのような地下水脈におけるつながりにあることをあらためて認識させられるエピソードです。
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