クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調, Op.8

(Vn)ヤッシャ・ハイフェッツ (Cello)マニュエル・フォイアマン (P)アルトゥール・ルービンシュタイン 1941年9月11日&12日録音





Brahms:ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 Op.8 「第1楽章」

Brahms:ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 Op.8 「第2楽章」

Brahms:ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 Op.8 「第3楽章」

Brahms:ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 Op.8 「第4楽章」


ブラームスはこれ以上のものを書かなかったくらいに美しい

ブラームスは常にベートーベンの影を意識しながら創作活動を続けた作曲家でした。しかし、その事が同時に、ベートーベンが偉大な業績を残したジャンルではその影の大きさ故に充分に力が発揮できないという「悲しい」事をひきおこしてしまいました。
それでも彼は頑張って、交響曲は4曲残し、弦楽四重奏曲も20を超える作品を破棄するという悪戦苦闘の末に3曲の作品を残すことができました。
しかし、そう言う努力にもかかわらず、ブラームスが本当に素晴らしい作品を書き上げたのはベートーベンとは重ならないジャンルにおいてでした。室内楽の分野で言えば、それは弦楽四重奏曲ではなくて五重奏曲や六重奏曲でしたし、もしくはクラリネットなどを含んだ楽器構成の作品においてこそ、ブラームスらしい魅力があふれた作品を残すことができました。
そんな中において、このピアノ三重奏曲というジャンルは、ベートーベンとガチンコでぶつかるにもかかわらず、意外なほどにその影におびえていません。

ブラームスはこのジャンルに3曲の作品を残しています。
その中の第1番は20歳過ぎの若書きの作品です。成熟したブラームスから見ればそれはかなり冗長で整理されきっていないのですが、その反面、いつものしかめっ面とは異なる若者らしい魅力と美しさにあふれた作品となっています。それは、自らの内面からわき上がってくる思いをそのまま譜面に書きとめていったような風情であり、ブラームスもこんな音楽を書いていたときがあったんだ!!と思わせてくれるような作品です。
面白いのは、あのブラームスがこの作品を若書きの未熟なものとして破棄しなかったことです。そして、破棄しなかったどころか、これに続く第2番、第3番のピアノ三重奏曲を完成させた後に、この第1番を全面的に改定しているのです。さらに驚くのは、その改訂後も若書きの旧作をブラームスは破棄しなかったのです。
おそらく、この若書きの作品に対して、ブラームスはひとかたならぬ愛着を感じていたようなのです。そして、その事が、もしかしたらこのジャンルにおいてだけはベートーベンの影におびえずにすんだ「お守り」だったのかもしれません。

そう言えば、ある人がこの作品を評して、「ブラームスはこれ以上のものを書かなかったくらいに美しい」と語ったそうです。地味なジャンルですが、多くの人に聞いてもらいたい作品です。

100万ドルトリオ


今さらこんな古い録音をアップする必要もないかとも思ったのですが、それでも、今もってこの録音をこの作品のベストと押す人も少なくありません。
また、サイトの役割からいっても、ルービンシュタイン(ピアノ)、ハイフェッツ(ヴァイオリン)、フォイアマン(チェロ)という「100万ドルトリオ」の演奏を一つくらいはアップしておく必要も感じます。

しかも、この録音を久しぶりに聴き直してみて、確かにパチパチノイズは盛大にのっていますが、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの響きはしっかりととらえられていて、十分に魅力的なクオリティを持っていることも確認できました。
これならば、100万ドルトリオによる他の録音も追加してもいいかなと思ってしまいます。

おそらく、昨今のクラシック音楽シーンで、一番つまらなくなったのは、こういう名人芸の競演が姿を消してしまったことでしょう。この録音は、完璧なアンサンブルと評されることが多いのですが、その内実は、それぞれが好き勝手に自己主張しながら、結果としてピッタリと合っていました・・・というような性質の演奏です。
その事は、これよりもさらに古い「カザルス・トリオ(カザルス、ティボー、コルトー)」による録音にも言えます。カザルストリオの録音は1920年代のものですから、アンサンブルはさらに緩いのですが、何とも言えない自由感に満ちた音楽が楽しめます。

それと比べれば、現代の演奏はまずはアンサンブルありきで、美しく整った造形は楽しめても圧倒的な力感やスケールの大きさはどうしても希薄になっています。そんな時にこういう演奏を聴かされると、なんだかうれしくなってきて、次第にパチパチノイズも気にならなくなっていきます。

少し調べてみたのですが、世上に名高い100万ドルトリオの録音はそれほど多くないようです。

(1)シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調 D.898
(2)ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調 Op.97「大公」
(3)モーツァルト:ディヴェルティメント変ホ長調 K.563
(4)ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番ロ長調 Op.8

くらいでしょうか。

<追記^^;>
モーツァルトのディヴェルティメントにピアノは入らないですよね。何という勘違い。
これは、ハイフェッツとフォイアマン、そこにヴィオラのプリムローズが参加した録音ですね。

全て1941年の9月に集中的に録音されたものです。
そして、1942年につまらぬ医療事故でフォイアマンが亡くなることでチェロがピアティゴルスキーに交代するのですが、ハイフェッツは急速に室内楽への意欲を失っていきます。
ハイフェッツとルービンシュタインは最初から意見がぶつかることも多く、それをフォイアマンが取りなすことで成り立っていたのが100万ドルトリオの内情だったようです。ハイフェッツもフォイアマンへの信頼が厚かっただけに、彼の突然の死はハイフェッツにとっても大きな衝撃だったようです。
そう言う意味でも、ハイフェッツの合わせものが聞けると言うことの価値は大きいと言えます。

よせられたコメント

2013-04-06:Hide


2014-11-11:kuri1423


【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-03-28]

ラヴェル:スペイン狂詩曲(Ravel:Rhapsodie espagnole)
シャルル・ミュンシュ指揮:ボストン交響楽団 1950年12月26日録音(Charles Munch:The Boston Symphony Orchestra Recorded on December 26, 1950)

[2025-03-24]

モーツァルト:セレナード第6番 ニ長調, K.239「セレナータ・ノットゥルナ」(Mozart:Serenade in D major, K.239)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音(Joseph Keilberth:Bamberg Symphony Recorded on 1959)

[2025-03-21]

シューベルト:交響曲第2番 変ロ長調 D.125(Schubert:Symphony No.2 in B-flat major, D.125)
シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1949年12月20日録音(Charles Munch:The Boston Symphony Orchestra Recorded on December 20, 1949)

[2025-03-17]

リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲, Op.34(Rimsky-Korsakov:Capriccio Espagnol, Op.34)
ジャン・マルティノン指揮 ロンドン交響楽団 1958年3月録音(Jean Martinon:London Symphony Orchestra Recorded on March, 1958)

[2025-03-15]

リヒャルト・シュトラウス:ヴァイオリンソナタ 変ホ長調 ,Op.18(Richard Strauss:Violin Sonata in E flat major, Op.18)
(Vn)ジネット・ヌヴー (P)グスタフ・ベッカー 1939年録音(Ginette Neveu:(P)Gustav Becker Recorded on 1939)

[2025-03-12]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第22番 変ロ長調 K.589(プロシャ王第2番)(Mozart:String Quartet No.22 in B-flat major, K.589 "Prussian No.2")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2025-03-09]

ショパン:ノクターン Op.27&Op.37(Chopin:Nocturnes for piano, Op.27&Op.32)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1956年発行(Guiomar Novaes:Published in 1956)

[2025-03-07]

モーツァルト:交響曲第36番 ハ長調「リンツ」 K.425(Mozart:Symphony No.36 in C major, K.425)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1960年録音(Joseph Keilberth:Bamberg Symphony Recorded on 1960)

[2025-03-03]

ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調, Op.68(Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68)
アルトゥール・ロジンスキ指揮:ニューヨーク・フィルハーモニック 1945年1月8日録音(Artur Rodzinski:New York Philharmonic Recorded on January 8, 1945)

[2025-02-27]

ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調(Debussy:Sonata for Violin and Piano in G minor)
(Vn)ジネット・ヌヴー (P)ジャン・ヌヴー 1948年録音(Ginette Neveu:(P)Jean Neveu Recorded on 1948)

?>